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プロローグ
初めてのVRゲーム
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「とうとうこの日が来ましたね」
私は夫に微笑む。夫もダウンロードをしながら頷く。
私たちは所謂オタクと言われる夫婦だと思う。思えば、若い頃にはまったのはその頃の喫茶店には必ずあったテーブルゲームの中でもスペース○○ベーダーは百円玉を崩してテーブルの上に積み上げ、皆がムキになって挑戦していたゲームである。夫も漏れずに夢中になり、私は百円玉を崩す係りだった。シューテングゲームは反射神経がものをいう。生まれつきどんくさい私にはとても無理なゲームで、最初にあっという間に撃破された後は夫がやるゲームをただ見ているだけ。あとはその頃、発売されたゲーム○○ッチの落ちゲーをたまに楽しむくらいである。
画期的だったのはやはりファ○コンの登場だと思う。二次元で楽しめるRPGは夫とともにはまりまくり、その後の家庭用ゲーム機は出るたびにハードもソフトも買い求め、PC98〇〇というPCが出るにあたってパソコンゲームにも手を出すようになった。
インターネットが始まり、オンラインゲームが当たり前の時代になると初のオンラインゲームで初めて同年代の友達ができた。と言うよりも、ゲームをやる若い子が多い中、やはり同年代の人たちがオンラインゲームで活躍しているのを知るとうれしくなった。現実には見知らぬ人でもゲームではお友達。しかも貴重な同年代。話をしていても無理がなく、楽しかった。結局、そのオンラインゲームが終了となり、次に進んだオンラインゲームでは別れてしまったけれども、またどこかのゲームでご一緒できたら楽しいなあと思うだけだった。
彼女たちはPKにも動じずに戦士系で強くなることを目指すプレイ、それに引き換え、私はPK嫌いでモンスターを倒すよりもどちらかと言うと生産系とかが好きで鉱山で掘りをしたり、町でまったりと釣りをしたり、ちまちまと遊ぶのが好きなタイプなので、どうもプレイスタイルが合わないと思っていた。
夫もどちらかと言うと戦士系なので、夫ともプレイスタイルが違うが、夫は仕事があるので、ゲームにはまることもできずにパーティを組むのも家族だけというちまちまと一人で狩りをするのが好きな人だ。当時は元気いっぱいだった一人娘とみんなでオンラインゲームでパーティを組むのが楽しかった。家族にPCが一人一台は我が家では当たり前。PTチャットならぬ現実チャットで狩りをする我が家のPTは他の人より異様だったのかもしれない。よく一人で何台も使いプレイしている人と間違われて「自作乙」とか言われたなあと遠い目で懐かしむ。
一人娘が突然の事故で亡くなり、飼っていた愛犬も突然の心臓発作で亡くなり、気がつけば夫と二人きり。何が楽しくて生きているのかすらわからなくなる日々を過ごし、夫も停年退職を迎え、二人きりの生活には精彩がない。そんなときにVRが台頭し、気がつけば日本初のVRMMOのベータテスターに応募していたが、残念ながら落ちた。
やっと実用化されて、高くても手が届く範囲になり、二人分の出費は年金暮らしには大変だけれども、それでも新しいゲームの世界で旅をしたくなった。現実世界を旅するよりもゲームの世界で旅をするのがきっと私たちにはしっくりくるとそう思ったからだ。
それにもう私たちは年を取りすぎた。現実世界で若かったころよりも思うように動かない身体で無理やり旅をするよりもVR世界で若い身体を得て旅をするのが楽しいと思ったのである。それに数々の2次元オンラインゲームで遊んできた私たちにとっては、剣とファンタジーの世界がなじんでいる。
ゲームの中で夫は冒険者を目指し、私は商人を目指すつもりだ。夫婦二人で私は商人としてお金を稼ぎ、夫は私の護衛として旅をする。もともとゲーム内の攻略組とか言われる人たちとは無縁であり、そう夫婦でのんびりと新しい世界を旅していきたいとそう思っていた。
ダウンロードが終わり、新しいゲームを始めるときはいつもわくわくする。どんな風にキャラメイクをしようとか考えると年甲斐もなく期待に満ちた高揚感で埋め尽くされ、口角が自然と上がってくる。
端末はフルダイブ型とゴーグル型と2種類選べたが、どうせならとフルダイブ型にしてみた。フルダイブ型の場合は脳波など現実世界の身体に危険を感じた時に緊急処置としてVRゲームから強制ログアウトできるらしいのだ。年は取りたくないものだ。VRゲームが現実の身体にどのような負担を強いるのか、まだ完全に解明されていない。なので安全タイプにしようと夫と二人で決めたのである。
ログインすると真っ白な雲の中に浮かんでいるような感覚に襲われる。頭に中に声が聞こえる。
「ようこそ、イノセントオンラインへ」
イノセント、その言葉に笑みがこぼれる。無垢な世界ということだろうか?
声に従って、キャラメイクをしていく。女性。できれば10代後半。魔力は欲しい。商人を目指すにはできれば商品に魔導具みたいなものを作りたい。錬金術師か薬師にもなりたい。料理も作りたい。夫はきっと戦士タイプを選ぶだろうから、私はその補助でいい。
どのくらいの期間このVRゲームの世界で楽しめるのかもわからない。私たちの時間は残り少ない。きっとこのゲームが二人で遊ぶ最後のゲームかも知れない。
キャラメイクを終えた頃、周りが光り輝いた。始まりの街に誘われるのだろう。これからどんな冒険が始まるのか実に楽しみだ。まずは始まりの街でゆっくりとお金を稼ぎ、少しずつこの世界のことがわかって来れば、夫と二人で旅をしよう。現実世界と仮想世界の違いを楽しみながらゆっくりと自分たちの残り少ない時間を過ごしていこう。
私は夫に微笑む。夫もダウンロードをしながら頷く。
私たちは所謂オタクと言われる夫婦だと思う。思えば、若い頃にはまったのはその頃の喫茶店には必ずあったテーブルゲームの中でもスペース○○ベーダーは百円玉を崩してテーブルの上に積み上げ、皆がムキになって挑戦していたゲームである。夫も漏れずに夢中になり、私は百円玉を崩す係りだった。シューテングゲームは反射神経がものをいう。生まれつきどんくさい私にはとても無理なゲームで、最初にあっという間に撃破された後は夫がやるゲームをただ見ているだけ。あとはその頃、発売されたゲーム○○ッチの落ちゲーをたまに楽しむくらいである。
画期的だったのはやはりファ○コンの登場だと思う。二次元で楽しめるRPGは夫とともにはまりまくり、その後の家庭用ゲーム機は出るたびにハードもソフトも買い求め、PC98〇〇というPCが出るにあたってパソコンゲームにも手を出すようになった。
インターネットが始まり、オンラインゲームが当たり前の時代になると初のオンラインゲームで初めて同年代の友達ができた。と言うよりも、ゲームをやる若い子が多い中、やはり同年代の人たちがオンラインゲームで活躍しているのを知るとうれしくなった。現実には見知らぬ人でもゲームではお友達。しかも貴重な同年代。話をしていても無理がなく、楽しかった。結局、そのオンラインゲームが終了となり、次に進んだオンラインゲームでは別れてしまったけれども、またどこかのゲームでご一緒できたら楽しいなあと思うだけだった。
彼女たちはPKにも動じずに戦士系で強くなることを目指すプレイ、それに引き換え、私はPK嫌いでモンスターを倒すよりもどちらかと言うと生産系とかが好きで鉱山で掘りをしたり、町でまったりと釣りをしたり、ちまちまと遊ぶのが好きなタイプなので、どうもプレイスタイルが合わないと思っていた。
夫もどちらかと言うと戦士系なので、夫ともプレイスタイルが違うが、夫は仕事があるので、ゲームにはまることもできずにパーティを組むのも家族だけというちまちまと一人で狩りをするのが好きな人だ。当時は元気いっぱいだった一人娘とみんなでオンラインゲームでパーティを組むのが楽しかった。家族にPCが一人一台は我が家では当たり前。PTチャットならぬ現実チャットで狩りをする我が家のPTは他の人より異様だったのかもしれない。よく一人で何台も使いプレイしている人と間違われて「自作乙」とか言われたなあと遠い目で懐かしむ。
一人娘が突然の事故で亡くなり、飼っていた愛犬も突然の心臓発作で亡くなり、気がつけば夫と二人きり。何が楽しくて生きているのかすらわからなくなる日々を過ごし、夫も停年退職を迎え、二人きりの生活には精彩がない。そんなときにVRが台頭し、気がつけば日本初のVRMMOのベータテスターに応募していたが、残念ながら落ちた。
やっと実用化されて、高くても手が届く範囲になり、二人分の出費は年金暮らしには大変だけれども、それでも新しいゲームの世界で旅をしたくなった。現実世界を旅するよりもゲームの世界で旅をするのがきっと私たちにはしっくりくるとそう思ったからだ。
それにもう私たちは年を取りすぎた。現実世界で若かったころよりも思うように動かない身体で無理やり旅をするよりもVR世界で若い身体を得て旅をするのが楽しいと思ったのである。それに数々の2次元オンラインゲームで遊んできた私たちにとっては、剣とファンタジーの世界がなじんでいる。
ゲームの中で夫は冒険者を目指し、私は商人を目指すつもりだ。夫婦二人で私は商人としてお金を稼ぎ、夫は私の護衛として旅をする。もともとゲーム内の攻略組とか言われる人たちとは無縁であり、そう夫婦でのんびりと新しい世界を旅していきたいとそう思っていた。
ダウンロードが終わり、新しいゲームを始めるときはいつもわくわくする。どんな風にキャラメイクをしようとか考えると年甲斐もなく期待に満ちた高揚感で埋め尽くされ、口角が自然と上がってくる。
端末はフルダイブ型とゴーグル型と2種類選べたが、どうせならとフルダイブ型にしてみた。フルダイブ型の場合は脳波など現実世界の身体に危険を感じた時に緊急処置としてVRゲームから強制ログアウトできるらしいのだ。年は取りたくないものだ。VRゲームが現実の身体にどのような負担を強いるのか、まだ完全に解明されていない。なので安全タイプにしようと夫と二人で決めたのである。
ログインすると真っ白な雲の中に浮かんでいるような感覚に襲われる。頭に中に声が聞こえる。
「ようこそ、イノセントオンラインへ」
イノセント、その言葉に笑みがこぼれる。無垢な世界ということだろうか?
声に従って、キャラメイクをしていく。女性。できれば10代後半。魔力は欲しい。商人を目指すにはできれば商品に魔導具みたいなものを作りたい。錬金術師か薬師にもなりたい。料理も作りたい。夫はきっと戦士タイプを選ぶだろうから、私はその補助でいい。
どのくらいの期間このVRゲームの世界で楽しめるのかもわからない。私たちの時間は残り少ない。きっとこのゲームが二人で遊ぶ最後のゲームかも知れない。
キャラメイクを終えた頃、周りが光り輝いた。始まりの街に誘われるのだろう。これからどんな冒険が始まるのか実に楽しみだ。まずは始まりの街でゆっくりとお金を稼ぎ、少しずつこの世界のことがわかって来れば、夫と二人で旅をしよう。現実世界と仮想世界の違いを楽しみながらゆっくりと自分たちの残り少ない時間を過ごしていこう。
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