当たり前の幸せを

紅蓮の焔

文字の大きさ
上 下
46 / 263
一章 泡沫の夢に

42話 『苦渋』

しおりを挟む

 あれから、十分くらい経ったと思う。もう夕方で、レイカちゃんも泣き止んでくれた。
 だけど、今日、ミズキさんのお葬式と言ったら、レイカちゃんがまた泣いて……明日と思っていたらしい。そう言いながら泣いていたから。
 レイカちゃんを宥め始めて気付いた。
 僕は、血を、流し過ぎたみたい……。
 頭がボーッとしてきて、何か星みたいな点々が見える。セピア色になって、段々暗くなってきた……。

「レイカちゃん、ちょっと、ごめん、なさい……」
「どうしたの……?」

 あ、もう、ダメ……。

「レイ、くん……?」

 答えない
 いや、答えられない
 レイはレイカの肩にぐったりと体重をかけて小さな息をしている

「ねえ、大丈夫なの?」少し離れてレイの顔を見詰める「ねえ、ねえ! ねえってば!」

 そう叫びながら揺らす
 揺れてそのまま地面に倒れてしまったレイの体を揺する。声をかける。頬を引っ張る
 だが、起きない

「ねえ! 起きて! 起きてよ! ねえっ!」
「レイカちゃん!?」
「あっ、ネネさん……!」

 レイカは戻って来たネネに事の経緯いきさつを話しているが、「あとで聞くから」とレイを抱えてドアを開け、応急処置を施した
 とは言ってもそこまで深い傷は無かった
 軽い打撲傷が腹部や頭部にいくつかあるだけで、血は出ているものの、その血が誰のものかは分からなかった

 そしてリビングで「レイカちゃん、レイくんの事なんだけどね……」二人は対面に座り、少し話をしていた
「少し前にも、て言うか最近、色々と、ほら、ね……? あったじゃない?」
「うん……」
「いや、怒るわけじゃないのよ? レイくんには、そりゃあ無茶はして欲しくないし、いっぱい笑ってくれる方が嬉しいと思ってる。私はね。だけど、レイカちゃんは、その、もう少し仲良くできないかな……? その……ミッちゃんが…………レイくんと、仲悪いみたいだから……」
「仲直り、したもん……」
「それなら、良いけど……でも、人ってね、どこにも居場所が無いと悪い人達にすぐ引っ掛かるから……それで……その……ケンカ、したんでしょ? レイくん」
「うん……」
「だから、仲良くして欲しいなって思ったの」
「レイくんとはもう仲直りしたもん……。ちゃんと、謝ったもん……」
「でもね、ほら、レイくんが許してくれたか……」
「ちゃんと良いよって言ってくれたもん!」机を叩いてリビングを出て行く「部屋に行く!」
「ちょっと、レイカちゃん……!」

 呼び止めるネネの声も聞かずにレイカは自室へと大きな足音を立てながら戻って行った
 残されたネネは椅子に座り、頭を抱え込んだ「ちょっと、ヤバイわ……」


※※※


 暗い。でも、足元は白い。少し奥に座っている彼女の服も白い。

「ねえレイ、大丈夫?」

 え……何が……?

「なんだか、辛そうだったから」

 いや、なんでもな──くはないかな。嘘を、いてしまって……。

「嘘くらい誰でも吐くよ?」

 だけど……約束、破ってしまって……。

「誰でも約束の一つや二つは破るよ?」

 でも、これは……その、すごく、大事な約束だから……。

「ふーん。そうだ、レイ?」

 なにかな?

「僕ね、少し思い出した事があるよ」

 何を思い出したの。

「真っ暗で何も見えなくて、熱くて、死にそうだったけど、誰かが『大丈夫』ってギュッてしてくれてた事」

 誰なんだろうね、その人。

「レイも、何か思い出してたよね?」

 えっと……うん。思い出した、のかな……。分からないけど……。その……どこかの教室で、ミズキさんに話しかけた事。話の内容は憶えていないけど。

「へー。レイはそんな事思い出したんだー」

 うん。

「そー言えば──」

 白と黒が変わり始めた。ゆっくりと対照の色になってまた戻っていく。その過程で灰色になった時、全てが白くなってすっと溶けていく。

「レイって……」


※※※


 なんだったんだろう……。モヤっとして思い出せない。夢の中で誰かと話してたのは憶えているけど、誰と、どんな話をしていたか思い出せない。
 ……? この声は……レイカちゃん? ドスドスって音を立てて、上がって来た。
 部屋に戻ったみたい。

「はあ……。やっぱり……。そう言えば、うん。このままで行こう」

 もうすぐ夜だけどアイカちゃんに会いに行かないと、約束もしたし……。
 部屋から出て階段を下りたらたまたまネネさんと会った。

「すみません。ネネさん」
「良いのよ。あ、そうだ。レイくん、夜ご飯の材料買いに行くの手伝って貰えないかしら」
「……少し、用事があるので……」
「もう夜よ? こんな遅くにどんな用事?」
「えっと……人に会いに……」
「こんなに遅くなっちゃその人にも迷惑よね?」
「えっと……その……………………分かり、ました……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

パパー!紳士服売り場にいた家族の男性は夫だった…子供を抱きかかえて幸せそう…なら、こちらも幸せになりましょう

白崎アイド
大衆娯楽
夫のシャツを買いに紳士服売り場で買い物をしていた私。 ネクタイも揃えてあげようと売り場へと向かえば、仲良く買い物をする男女の姿があった。 微笑ましく思うその姿を見ていると、振り向いた男性は夫だった…

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...