当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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一章 泡沫の夢に

3話 『食卓』

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「すぅ……すぅ……」
「私はレイカちゃんを部屋まで運ぶです。それと、後でお話があるです。部屋で待ってるです」
「う、うん。わ、かった」

 ミズキさんがレイカちゃんを部屋まで運んで行っている間に僕はゲームを片付ける。
 人生ゲームの後、トランプ、携帯ゲーム機の通信対戦、果てはリビングに移動してのテレビゲームにまで発展した。コウさんとネネさんに色々教えてもらいながらゲームをして、とても楽しかった。

「戻ろう」

 まだ、この家が僕の家とは言えない。どこか、友達の家に来たような感覚になってしまう。

「ミっ、ミズキさん?」
「入って良いです」

 ドアを開けて中に入ると正座をしているミズキさんが僕を見ていた。

 すぐにドアを閉めて同じように座る

「どうか、しまっ……した?」
「喫茶店の事、憶えてるです?」
「えっと……はい。憶えています」
「なら、あの時事も憶えてるです?」
「それは……憶えていません」
「分かったです」溜め息混じりに立ち上がると「あ、明日。学校です。一緒に行こうです」
「分かりました」と微笑んで「玄関まで一緒に行きますよ」
「大丈夫です。あと、今日の夜は注意するです。ネネさんとコウロギさんにも言うですけど少し、荒れるかもです」
「それは……稲継いなつきくんの事?」
「名前は分からないです。レイくんにエ──」
「うん。分かりました」

 遮る形で返事をしたレイは「何から何までありがとう」と立ち上がってお辞儀をした

「大丈夫です。じゃあ、また明日です」

 手を振って別れる彼女の背中がどこか重たげで、悲しそうで、そっと黙り込んだ

「治さないと……出来るだけ、速く……」

 頭の中で『ずっと見てるのよ』その言葉だけが反芻して、そのまま眠りに就いた





※※※





「お~い、起きるッスよ~」
「……ぅぅん?」
「ご飯ッス」
「ぇ……と…………っ! は、はいっ」

 勢い良く立ち上がって背筋を伸ばす

「ははは……。行くッスよ」

 下に降りるとネネさんとレイカちゃんが椅子に座って待っていた。レイカちゃんは椅子の上に立って僕に手を振ったせいで叩かれていたけれど……。
 僕の席はレイカちゃんの隣らしい。
 僕が座るとネネさんが「せーのっ」と合掌し、皆で「いただきます」と言った。今日のご飯はお赤飯らしい。

「こ、こんなに食べても良いんですか?」

 大量に盛られたご飯を目の前にゴクリと唾を飲んでしまった。孤児院の方ではあまり量が無かった上にお代わり禁止だったから……。

「良いに決まってるじゃな~い! 成長期なんだから一杯食べないとね!」
「い、いただきますっ!」

 お椀を持ち上げて頬に放り込む

 美味しい、美味しいっ、美味しい! 美味しい美味しい美味しい美味しい美味しいっ!

 レイの頭の中は既に『美味しい』と言う言葉に支配されていた

「そんなに食べて貰えるなら私も嬉しいわぁ~! なら! こっちの唐揚げもどうぞ! レイカちゃんなんてね、最近太ったからって唐揚げとか食べてくれないの~」

 レイの隣で赤飯を喉に詰まらせて咳き込む子が一人居た。そう、レイカだ

「ちょっ! なんで言っちゃうの!?」
「嬢さんも俺らの嫌いなものとか喋ったじゃないッスか~! んで、俺と姐さんのちょっとしたサプライズッス」
「そんなサプライズ要らない!」
「あれ!? 唐揚げ無くなってるッス!」
「ほぇ~……最近の男の子はこんなに食べるのね~……次からはもっと用意しなくちゃ」
「げっ! サラダも無くなってるッス! 早くしないと俺の食べる分が──」
「ご馳走様でした……!」

 箸とお椀をテーブルに置いた。もうその食卓には既に『おかず』の存在は消えて無くなっていた

「ノォォォォォオオオオオ! ッス!」
「お赤飯のお代わりあるけど欲しい?」
「は、はいっ! くださいっ!」
「ちょ! 姐さん! 俺の分も残しといて下さいッスよ!?」
「ふふん。私はこれでも大丈夫だもん」
「何を自慢げに胸張って言ってるんスか。嬢さんはもっと食べないと成長できないッスよ?」
「なっ! 私だって成長してるわよ! 一ヶ月前と比べて一ミリ伸びたから!」
「……姐さん、お代わり!」
「無視しないでよ!」
「ごめんね~、レイくんが全部食べちゃった」

 この時、この瞬間、三人はそれぞれの思いを決意した

 一人はもっと身長を伸ばす。と

 一人はもっとご飯を用意しなきゃ。と

 そしてもう一人は食卓は戦場ッス。と

「ありがとうございました」
「良いのよ良いのよ~。私達なんて雇われてる身だし、結局の所お金だから」
「そうそう! そしてレイくんはお姉さんの事を敬って!」
「う~ん……? レイくんがお義兄さんになるんじゃないの~?」
「そッスね。歳もレイくんの方が上ッスから」
「ええっ!? あとから家族になったから弟って訳じゃないの!?」
「ええ、年齢よ?」
「そ、そんな……。姉の特権で色々遊んで貰おうと──ん? そうよ! にゃふふ~……。妹の特権で遊んで貰えば良いのよ!」

 ニャッハハハハハハ! とレイカが笑っている隣で「コウさんの名前ってコウロギなんですか?」
「ん? ちがッス。コオロギッス。俺、虫の中でもコオロギが一番嫌いなんス。だから同じ名前にした時、『お前達よりも俺の方が勝ってんだぞ~』的な事を思って名前変えたんス」
「すごく、面白いですね」
「う~ん……まあ、ん? 面白い?」
「レイくんゲームしよ~!」
「良いですよ」

 ゲームのジャンルはリズムゲーム。最初の一回だけレイが負け、そこからは段々と点数を引き離しながら最終的には圧勝し出す。そんなゲームの才能を見せたレイに闘争心を燃やす者がまた一人増えた
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