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9章 計画当日
98話 突入
しおりを挟むザッ!
「気を付けろ…あそ「見えてるって! あそこに何かいるんだろ!?」」
アベル達の目の前には何か少し周りより盛り上がった地面の様な物が見え、それは人の様にも見えればただの芋虫の様にも見える。
しかし、ここは相手の領内。警戒心が放たれるのも当然と言えば当然だが今は一刻を争う。
誰かさんらの親子喧嘩のせいで…
そう呟くアベルにグリードとアイシスは何も言い返ず俯いた。
一応警戒しながら3人はそれへ近付いて行く。
「ん?」
それの目の前まで来ると3人は一瞬茫然自失した。
数分後…
「はっ! な、なんだこれ!?」
漸く我に返ったアベルがそれを指差して聞く。
それは猫の様に丸まった少し大きな男だった。…しかし、それは全く動く気配も無く、その予兆すら見せない。
それにホッと一息吐いてグリードへと視線を向ける。
「こいつは…」
「知ってるの?」
「ああ。名前はスロウス。見たことはあるが動いた所は全く記憶に無い」
「つまり…?」
「無視して大丈夫って事だ」
大丈夫。
この言葉に心底ホッとした。
グラトニーの時の様に危険を犯さなくて済む。誰も傷付かない。この2つに物凄く安心した。
…だからだろうか…
アベルは気が付かなかった。
はたまたはこの霧のせいなのかもしれない。
しかし気が付かなかった事は事実だ。
ヒュッ!
風切り音と共にアベルの肩に激痛が走った。
「ぐぁああぁあ!」
「おいどうした!?」
「どうしたんだよ!?」
突然悲鳴を上げたアベルを気に掛け心配する様に手を伸ばし、初めて気が付いた。
「先行け…これとは俺がやる…」
「は? 何言ってんだよ?」
「そうなんだよ! 教えるんだよ!」
「良いから! ぐぅ…早く行け…!」
頑なに先に行かせようとするアベルの襟首を掴み前後に振る。
「早く教えるんだよ~!」
「ん?」
手に感じた。生温かい液体だ。そしてそれを見ると驚愕した。
「ど、どうしたんだよこの血!」
「どうしたもこうしたもあるか…この少し先に誰かがいる…!」
肩に刺さった何かを抜く。
それと同時にドピュッと赤い花弁が舞う。
「あれぇ…外しちゃったのか。やっぱり一撃で仕留めようとしたのが間違いだったのかなぁ?」
「…やっぱり意見も変わらねぇ…早く先行け…俺が殺る。あいつだけは俺が殺る…!」
メラメラと殺意が沸き上がり歯軋りしてから言うとアイシスはコクンと頷く。
「行くんだよボス」
「おいおい…今の状況がどんな状況か分かって言ってんのか?」
グリードの引き攣った言葉にアイシスは首を傾げ、それを聞いていないアベルはただただ眼前に佇む気配を睨み付けていた。
「…急ぎ過ぎたかもな…」
「? 何を言ってるんだよ!? 早くボスの身体を取り戻すんだよ!」
「アイシス…良く見てろよ…」
グリードが前へ手を翳すとそこから影の様な黒い手がゆっくりと前に進んで行く。
グジュッ!
その音と共に一瞬だけ霧の中に影が現れグリードの黒い手の先が無くなっていた。
「今、影が見えたんだよ!」
「それにこれ、多分…いや、グラトニーだな」
「あ~、バレちゃった? 久し振りだね。グリード」
霧の中からうっすらと影が現れ近付いて来て、軈てその姿が顕となる。
「っ! てめぇ…!」
アベルが怒りを露に立ち上がると、指先から血が滴り落ちる。
「てめぇもあいつのやろうとしてる事、知ってるだろ。何で協力してんだよ」
「だって、プ…あの人の計画が成功すれば僕に沢山の少女、しかも処女をくれるんだよ! こんなに美味しい話あるかい!?」
息を荒げて大声を張り上げる男に嫌悪の眼差しを向ける男達とどこか納得している少女がいた。
「少し分かるから何も言えないんだよ…!」
少し悔しそうに拳を握り締めるアイシスに目を見開く。
「は? 分かるの?」
グリードに聞かれるとアイシスはコクりと頷いた。
「…よし分かった。今月のお小遣い無しな」
「えぇ~!? ごめんなさいなんだよ! 許して欲しいんだよ~!」
「僕を無視しないでくれるかな?」
グラトニーがそう言うとグリードの咳き込みで2人は向き直った。
「俺は無視してないぜ…!」
アベルの声にグラトニーは目線を下に降ろす。
「てめぇも喰らいやがれ!」
魔術式に掌を置き、魔力を込めるとグラトニーの肩が何かに貫かれた。
「ぐっ…!?」
「オラオラ! とっとと返せ!」
ドスドスドスッ!
最初の左肩、そしてグラトニーの右胸、頭、右横腹を貫いた。
「ぐふっ…!」
ドサッ…!
それに吐血して倒れるが、アベルは魔術式から手を離そうとしない。
パアァ…
赤い光に包まれ、グラトニーの傷が治っていく。
「今のは痛かったよ~。さて、あの子を返して欲しいんだよね? 頑張って取り戻してね」
「…グラトニーに喰われた奴はあいつが吐き出すか『何か』を奪ってお前が飲み込めば良い。運が良ければあの能力とその中身を手に入れる事が可能だ。しかし…」
「しかし…?」
「その場合はお前が死ぬ事を覚悟しろよ…」
「…分かった」
そして目の前で立ち上がる男を睨み、『何か』の位置を聞く。
それが分かれば再びアベルはグラトニーを睨み付ける。
(必ず助けてやるからな…)
そう決意して再び魔力を込めた。
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