96 / 315
8章 計画前夜…月明かりの下で…
92話 帰宅
しおりを挟むガチャ
「ただいま~」
「あ! おかえりなさいです!」
シンが元気よく走って来て、アベルに飛び付いた
「レンゼの状態はどうだ?」
「かなりよわっていま…」
アベルはそれを聞いて慌ててレンゼを寝かしている寝室へ走って入った
「レンゼ!?」
「そんなに慌ててどうした? グラトニーとか言うヤツでも見付けたのか?」
「は? あれ? なんで!?」
「落ち着け落ち着け、1度深呼吸してみろ。落ち着くから」
アベルの目の前ではベッドに座ってこちらに微笑むレンゼの姿があった
しかし驚いたのはそこではなく…
「だってここ! なんで傷治ってんの!? 幾らなんでも早すぎるだろ!?」
「う~ん…よく分からないんだがな? 最近どうしても身体が優れなくてなぁ。まあそれと同時に何故か自然治癒力は以前と比べて驚く程に増してる。精々半日あればあんな風穴が空いてたにも関わらずしっかり治る様にな」
「…もう分かった…お前は人間として見ちゃダメな奴だな…」
「あっさりと酷い事言うな!? …まあそれは置いておき…明日、殴り込みに行くんだろ? なら俺も行くわ」
伸びをしながらアベルへ目線を向けるレンゼに対して深い溜め息を吐くと問い掛けた
「なんで行くんだ? 2号達なら俺が「お前が助けるって? 一人でか? もしくはアイシスがいない所を見るとあっちにグリードかクラークがいるだろ? そいつとか? それでも相手の数は残り5人だろ? それにその中にそのグラトニー、ラスト、そして俺の妹もそこにいる。だから安静にしておけって言われようが必ず行く。例え縛り付けられても何をされても行く。分かったか?」」
「あ、あのなぁ…こっちがどれだけ心配したのか分かって言ってんのかぁ?」
口をヒクつかせて米神に青筋を浮かべてグッと握り締めた拳をレンゼに見せる様に顔の隣に持ち上げてきた
「…知るわけないだろ? 心が読める訳でも無いのに~」
半目でからかう様に舌を出すと「あはは…」と笑みを浮かべながらアベルが拳に更に力を込めて隣に歩いて来た
「死にかけだった奴が何を言ってんだよ。大人しく寝てろよ」
「だからダメだ。それに…俺の妹もいる。絶対に行くぞ。折角の妹を取り戻せる機会なんだ。もう……取り戻して見せる。俺の家族に手は出させない。距離を置けば安全と思ってた…だけどそんな事は無かった…もう…あいつらは…アリサは…ロゼは…失いたく無い…」
自分の二の腕を力強く掴んで歯軋りさせるとアベルは拳の力を抜いた
「分かった…ただし! グラトニーは俺が殺る。良いな?」
「はあ? ロゼ以外全員殺すに決まってるだろ。全員俺が殺る」
「あのな? 誰を相手にしてたか知らねぇけどな、あんな死にかけだった奴があいつらに勝てるとは思えないな」
「あれは驚きの出来事が起きたからだ。エリクサー出てきたり、銃を隠し持たれてたり…」
「それはお前が気付かなかっただけだろうが。そんな事も気付かない様じゃ足手まといになるだけだ…残れ」
「ふざけるな? 試験の時どうだった? 全てを合格させた俺とお前とじゃ格が違うだろうが」
「は? 試験は試験、戦闘は戦闘だ。分かったか?」
「…だが「お前の妹も、2号も、アリサさんも、全員助けて来る。安心しろ」」
アベルがグッと親指を立てるとレンゼは勢いよく立ち上がった
その拍子に一瞬ふらついた
「だから言ってるだろうが、あの出血量…例え傷が治った所で血は戻らねぇだろうが、だから大人しく寝とけ」
「…少し、飯取りに行く。誰もいないんだ。盗んでも気付かれない…」
「例えそうだとしても俺が気にするわ! それに飯位なら俺が買いに行くから「何もかもされてんだ。少し位恩返しさせろ」」
レンゼが睨み付けるとアベルは嘆息した
「分かった分かった。なら…ほら、これで何か買って来いよ」
アベルはズボンのポケットから金貨を数枚、取り出してレンゼに手渡した
「そんなに恩返ししたいならそれで何か買って来い。そんなに多くなくても良い。1つでも良いだから…無理だけはするなよ? 最悪お前の分だけで良い。だから「分かったよ。心配すんな」」
はにかんで笑って見せると金貨を受け取り民家を出て行った
「行った…か…」
「いいんですか?」
「だって恩返ししたいって言ってんだから行かせば良いじゃねぇか」
それにシンは首を傾げたが「はい!」と元気よく返事をするとアベルはレンゼが出て行ったドアを見詰めた
(大丈夫だよな…あいつらは本部にいるって言ってたし…あいつにはその事は言ってない。大丈夫だな。うん。大丈夫の筈だ…)
そう願ってシンの頭を撫でた
「ほら、そろそろ寝ろ。明日、お姉ちゃんを連れて戻って来るから…な?」
そう言い、少し眠たそうにしているシンをベッドに寝かし付けるとリビングの椅子に座って金髪の少年を待ち始めた…
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
破棄から始まる下克上
杜野秋人
ファンタジー
〜これは“今”からおよそ300年前、アウストリー公国で王朝が代替わりした際の出来事である〜
「貴様との婚約なんぞ破棄だ破棄!」
そう喚き散らすのはこのアウストリー公国の公太子、辺境伯令嬢ヴィクトーリアの不肖の婚約者クラウスである。
そしてその傍らには、不安げにクラウスとヴィクトーリアを交互に見渡す子爵家令嬢タマラの姿が。
「貴様のような粗暴な女との結婚など冗談ではないわ!私は貴様との婚約を破棄し、この愛らしいタマラを新たに婚約者とする!先祖の決めた盟約など知ったことか!」
あろうことかクラウスは、国の次代を担う公太子の地位にありながら、先祖たちが取り決めた盟約、「二世代ごとに公王家と辺境伯家とで縁を繋ぎ、その縁で国を守る」という取り決めに従って結ばれているヴィクトーリアとの婚約を破棄すると宣言した。
それも、ヴィクトーリアが男勝りの女騎士で「ちっとも女らしくない」という、まことに身勝手な理由で。
さらに。
「そんな古臭い盟約になんの意味がある!なんなら貴様ら辺境伯家も攻め滅ぼしてくれるわ!」
クラウスのその言葉は、代々国境を守ってきた辺境伯家の令嬢としてのヴィクトーリアの矜持を大いに傷つけた。
彼女はだから、右手にはめていた白手袋を脱いで投げつけた。
「よかろう。では決闘だ」
「えっ、………あたし!?」
そう。ヴィクトーリアが手袋を投げた相手は剣など持ったこともない「普通の貴族令嬢」タマラであった。公太子の婚約者の座をかけて決闘を申し込んだのだ。
だがさすがに戦いもできないご令嬢をいたぶる趣味はヴィクトーリアにはない。ゆえに代理人を立てることを認めた。もともと法にも親族であれば代理人を立てられると明記してある。
だが決闘当日、クラウスとタマラが連れてきたのは、なんと公国最強の騎士ジークムントだった!
◆王族の婚約は政略であり、それを破棄すると極端な話こうなるよ、ってだけの話だったのに……………どうしてこうなった?解せぬ。
◆思いついたので書き始めた見切り発車作品。短めなので多分止まらずに書き上げられます。
ヘイトキャラとかざまあとか書くの苦手な作者が(多分)珍しくちゃんと書けたざまあ話。多分。基本的にはタイトルでネタバレしてます。
◆ようやく書き上がり。全25話、8/13完結です!
◆戦闘、流血、瀕死描写があるためR15で。
あと実験的に女主人公だけど「男性向け」で。運営に変えられたらごめんなさい。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうで公開しています。
◆7/30、おかげさまで男性向けHOTランキング入りしました。現在20位台をウロウロ。8/5、最高11位まで上昇♪
8/15、HOTランキングから落ちました。悲しい。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
どうせ去るなら爪痕を。
ぽんぽこ狸
恋愛
実家が没落してしまい、婚約者の屋敷で生活の面倒を見てもらっているエミーリエは、日の当たらない角部屋から義妹に当たる無邪気な少女ロッテを見つめていた。
彼女は婚約者エトヴィンの歳の離れた兄妹で、末っ子の彼女は家族から溺愛されていた。
ロッテが自信を持てるようにと、ロッテ以上の技術を持っているものをエミーリエは禁止されている。なので彼女が興味のない仕事だけに精を出す日々が続いている。
そしていつか結婚して自分が子供を持つ日を夢に見ていた。
跡継ぎを産むことが出来れば、自分もきっとこの家の一員として尊重してもらえる。そう考えていた。
しかし儚くその夢は崩れて、婚約破棄を言い渡され、愛人としてならばこの屋敷にいることだけは許してやるとエトヴィンに宣言されてしまう。
希望が持てなくなったエミーリエは、この場所を去ることを決意するが長年、いろいろなものを奪われてきたからにはその爪痕を残して去ろうと考えたのだった。
追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~
一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】
悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……?
小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位!
※本作品は他サイトでも連載中です。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
【完結】転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~
おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。
婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。
しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。
二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。
彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。
恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。
ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。
それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。
最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】
僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。
そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。
でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。
死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。
そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる