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8章 計画前夜…月明かりの下で…
83話 傷の男其の參
しおりを挟むダンダンダンダンッ!
高々と鳴り響く銃声と共にレンゼから大量の血が流れ出た
「はっ! ほんあほんはい!」
「このガキぃ~!」
レンゼを蹴り飛ばし、一旦距離を取った男は背筋をなぞる悪寒に身を震わせ、それと同時に吐き気も催した
何故なら、レンゼは銃をくわえ、そのまま右に顔を傾けながら舌で銃口をずらして喉への直撃を躱し、左頬が完全にぶち抜かれたので、レンゼの左頬が完全に失われたのだ。その見た目に男は吐き気を催し、レンゼの行動に身を震わせた
その上、事もあろうにレンゼは立ち上がり男の顔を睨み付ける
頬の痛みが無いのか、レンゼの瞳には恐怖や痛みに堪えている様子も見当たらない。そこには強い復讐心だけが覗き込めた
「ひへあぁ!」
その雄叫びと同時にレンゼは男に向かって走り出した
「来るんじゃねぇ!」
男が震える手でレンゼに銃口を向けて引き金を引く
カチッカチッ!
「弾切れ!?」
男が銃を投げ捨てると同時にレンゼの左足が見事に男の首へ直撃し、ドスッとレンゼは右側面から地面に倒れた
「やってくれるじゃねぇか…」
なんとか倒れずに踏み留まった男はレンゼを見下し、懐から赤い液体の入った試験管を取り出した
「何かされても怖いからな…確実に殺す!」
試験管に嵌めていたコルクを外すと男はそれを飲み干した
そして試験管を投げ捨て、それと同時に男の目尻からビキビキと音を立てて血管の様な筋が浮かび上がる
そして風も吹いていないのになぜか髪が浮かび上がり、蒼い目の色に少し赤みが差した
「新人くん!」
少し先で少女の声を聞き付けた男はそちらへ視線を逸らした
「わわっ!」
しかしそれも倒れる音と共にレンゼへ視線を戻す
「うぅ…痛いんだよ…」
少女は鼻から滲み出る血を拭き取ると這ってレンゼの元へ向かう
それが半身の無い少女が出来る唯一の方法だった
「ヒュー…ヒュー…」
「っ!」
風穴の空いた頬から呼吸する空気が逃げ、笛の様な音を立てる
それに驚いた男は少し距離を取った…が、それも長くは続かず、5秒位で歩いて戻ってきた
「驚かせやがって…」
血の海の中心で倒れているレンゼを見下すと頭の上で足を上げ、そのまま勢いよく落とした
バキバキッ!
「? 外した?」
自分の足の真横にいる血塗れの少年を眺めた
しかしその何処にも動ける様な力は残っている様には見えない
「今度はお前か…」
「今、新人くんを殺されたら何も出来なくなるんだよ! だから新人くんは殺させないんだよ!」
レンゼの足を掴むアイシスは男の瞳を睨んだ
「なら仕方ない…」
男は腰を曲げて地面に手を触れる
すると突然レンゼの両手、両足首に地面から赤色の棘が生えてきた
それと同時に男の目尻に浮かび上がった筋がスッと引いていき、それは見えなくなった
「チッ…まあ良い、そのまま殺せば良いだけの話だ!」
男はレンゼの顔の上で思いっきり太股を振り上げ、今度は思いっきり地面に足の裏を叩き付けた
ドンッ!
しかしまたもや外す
「このくそガキが!」
「へへぇ~んだ! だから言ったんだよ。新人くんに死んで貰うと僕が困るんだよ。この身体じゃ目立っちゃうし、僕1人じゃ助けられる気はしないんだよ。だったら少しでも戦力を欲しがるのは当たり前だよ?」
半身の少女は男を嘲笑するように口角を上げ、首を傾げた
「黙れ!」
少女の腹を思いっきり蹴り、その軽い体は浮いて噴水の前まで転がった
「くそが! 邪魔なんだよ! このガキ共が!」
「うぅぅ…」
腹を左手で押さえ、踞って唸り声を上げると男は標的をアイシスへ変更してその元へ歩いて行った
「折角明日で全ての時効が切れるのに!」
ドゴッ!
「うぐぅ…!」
「女だからって容赦しねぇぞガキが!」
ドゴッ!
「ごほっ!」
「ガキは大人しく黙ってりゃ良いんだよ!」
ドゴッ!
「がはっ!」
「ふざけんなよ! お前らのせいで捕まるかも知れねぇじゃねぇか!」
ドゴッ!
「ごふぅッ!」
「はあ…はあ…」
アイシスは吐血を拭き取ると男を睨んだ
「僕はどうなっても良いんだよ…新人くんは至近距離で撃たれる弾も避けられる分けわかんない超人なんだよ。必ずボスも助けてくれるんだよ!」
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