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第三章

二十八話

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 数日ぶりに帰ってきた、ルルムの街。
 私とリオがこの街の学校を卒業し、結婚後にも居ついているここは、私たち夫婦の拠点の地でもある。
 そして、ルルムは王都の姉妹都市としても有名で、大きな港は栄え、学業にも力を入れている、とても活気ある街だった。
 リオと私の住んでいる屋敷とは、反対の方角にある街のギルド。
 そこでは、例の乙女ゲームで私の推しキャラのモデルにもなった、セグレット・サフマン様もギルドマスターとして活躍している。
 
「やぁ、久しぶりだね、リオにソア。君たちの噂はかねがね……そういえば僕たちって、初めて学校で会ったキリじゃなかったかな?」
「そうですね。かなりお久しぶりです」
「……久しぶり」
 私はなるべく冷静さを装って、(赤面せずに)にこやかに挨拶をした。
 そしてリオの方は、セグレット様の顔を見た途端、とても不機嫌になっている。
(そうですか、やっぱりリオもあの時のことを覚えていましたか……ええ、間違いなく私が気絶するほど興奮した相手ですよ)
 うぅ、リオがこちらをギッと睨んでくる視線が痛い。
 そして、そんな私たちの心の内を、まるで気づいてもいない様子のセグレット様だ。

「そうそう、例の預かっている猿のことだったね。奥の部屋にいるから、二人で入ってもいいよ? 明日には王都に移動させなくてはいけないから、見るなら今がチャンスだ」
 私はセグレット様にお礼を言って、失礼ながら部屋を通してもらう。
 奥の部屋と言ったか?
 ここのギルド、シャームの街のギルドと違って、内装がかなりシンプルな造りだ。
 雰囲気は街の宿屋に似てる感じかな?
 木の色を活かした壁の色合いがとても落ち着く。
 セグレット様の自室から、さらに奥の部屋へ行ってみると、ここは休憩室だろうか? そこでは元気よく放し飼いになっているピンクの猿がいた。
「……あれ?」
「檻に入れてねぇんだな」
 てっきりゲージに入れられているか、縄で拘束されているのかと思っていたけど……。

「お猿さん、こんにちは」
『あら、言葉が通じるのね? あなたたちはだーれ?』
 私は名前を告げてから、小さなお猿さんをそっと抱き上げた。
 そしてお猿さんから詳しい話を聞く。
 どうやらお猿さんには魔物化していた間の記憶はないようだった。
 気がついたら、この部屋にいたと……。
「それだと、ナターリアの教会をなぜ襲ったかは分からないわよね」
『私が? こんな小さな体で、そんなことできるはずがないわ』
「そうよね。仲間はいないの?」
『少し前にはいたんだけど、あの変な穴にみんな落っこちてしまったのよ』

 変な穴……というのは、もしかして時空の狭間のことだろうか?
『あれ? そういえばあなたも落ちたわね……』
「えっ、島での私のことを覚えているの?」
 お猿さんいわく、私たちが旅行で島に来る少し前に突然、異次元への割れ目が現れて、みんなそこへ入ってしまったのだという。
 それだとお猿さんの仲間は時間を超えて、この世界の至るところに落ちてしまってる可能性が高い。
(まぁ、その子たちは魔物化していないし、特に問題はないか……)
「ソア、こいつなんて言ってんだ?」
「あ、ごめんね。魔物化してる時の記憶はないみたい。仲間はみんなあの時空の狭間に落っこちてしまったと……それは私が落ちるよりも前の話ね」
 私の言葉を聞いたリオは、急にまた顔が険しくなった。
 あれ? どうしたんだろう。

「お前が異次元に落ちた原因って、もしかしてこいつか?」
「まぁそうだけど……ねぇ、リオの権限とかで、お猿さん助けてあげられないかなぁ? このまま実験体にされちゃうのは気の毒だよ」
「ちっ……必要ねぇよ」
「リオ?」
「こいつのせいで……」
 リオが怒っている。
 どちらかと言うと、あの時落ちたのはお猿さんのせいではなくて、私がリオに相談もしないで一人で解決しようとしたり、いきなり割れ目に近づいて不注意だったのが悪かったんだけど……。
「リオ、あれは私が勝手に一人で……」
「関係ねーよ。そんな猿は助ける必要なんかねえ!」
 そんな……リオ、急にどうしちゃったの?
 お猿さん、このままだと残酷な未来しか残っていないのに……。

「あの金髪碧眼へきがん野郎も、この猿もくそ気にいらねぇ……」
「リオ、そんなこと言わずに助けてあげようよ」
「絶対に嫌だね」
 私はリオのあんまりな態度に、だんだんと怒りが込み上げてきた。
 自分がちょっと気に入らないからって、助けられるかもしれない命を見捨てるなんて……!
「リオのバカっ! お猿さんだって、リオの魔力のせいで、今こんなことになってるのに!」
「なっ……そもそもお前が消えちまったから、俺が暴走したんじゃねぇかっ!」
「そんなの心が弱いからでしょっ! 私だっていつか死ぬんだからっ! そんなんでいちいち暴走してたら、世界も迷惑よ!」
 私はお猿さんのを抱っこしたまま、リオを睨みつける。

「てめぇ……あの男が隣にいるここで、押さえつけて、いつものように泣かせてやろうか?!」
「なにそれ……ほんと最低なやつじゃん」
「つっ……」
 私はリオの身勝手な言いように、完全に頭にきた。
 こうなったらもう、容赦はしない。
「カバ妖精さんを召喚!!」
「は……」
「妖精さん! あの男から当分の間、離れないで! 時間稼ぎをお願い!」
『あら、マスター初めまして? そしてお安い御用よ』
 私は妖精さんにお礼を言って、急いでお猿さんを服の中に隠した。
 そして焦ってテンパっているリオの横をすり抜け、急いで部屋を出る。

 後方で、異常に嫌がる悲鳴のようなリオの声が聞こえたが、そんなことはもう知ったこっちゃない。
 少々酷だが、分からず屋にはこれもいい薬だ。
 私はそのままギルドマスターの自室から出て、廊下ですれ違ったセグレット様に謝りながら、ギルドの外へと一目散に走った。
(早く……お猿さんを安全なところへ……)
 このままドラゴンくんが召喚できそうな場所まで、一気に駆け抜ける!
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