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第四章
三十三話
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「カモメさん、君はどこにでも飛んでゆける羽根というモノがあっていいねぇ?」
『お嬢さんは僕と話せるの? 飛ぶのは楽しいポポよ』
リオとランチを済ませた後、私は散歩がてら船の先端まで歩いて来て、たまたまそばに止まっていたカモメさんに話しかけてみた。
もしここが日本だったら、今の私は鳥に向かって独り言をしている、ただの変な人に映っていたことだろう。
「ああ、カモメさん。分かりますか? 私はね、日本人なんですよ、日本人。簡単に人前でね、朝も早よから接吻なんぞするような教育は決して受けちゃあいないんです。こういったプライバシーの境界、認識ズレちゅうもんは、価値観の違う異世界人同士だと中々相容れないもんなんですかねぇ」
私はそう言って、カモメさんに愚痴をこぼしてみた。このカモメさんは驚かずに、私の話をきちんと聞いてくれている。
『まぁまぁ、お嬢さん、そう気を落とすなって。今はこんな豪華な船に乗ってんだい、野暮ったいことは言わねぇでよぉ。楽しみなさいなポポ』
ふほ! このカモメさんなんかノリがいいぞ。
話し方も江戸っ子ぽくしてくれた。
それにしても、東京かぁ……死ぬ前に一度は住んでみたかったなぁ……。
ソアは日本で私の代わりに幸せになれてるのかな……楽しんでくれてるといいのだけど。
「ソアさんは、船主の恋人さんだったんですね」
後ろからいきなり名前を呼ばれた私は慌てて振り返る。
あ、ニケルさん。
も、もしかしてカモメに話しかけてるのを見られてた? ちょっと恥ずかしいな。
「そ、そうなんです。一応、婚約者というか……」
友達とか付き合うとか、恋人とかいきなり色んなものを飛び越えて、自分も知らぬ間に婚約者になってました。
今は、リオのことけっこう好きだけど、本音を言えば、離れられない状況で流されているだけかもしれないなっていう複雑な心境でもあります。
「幸せそうで良いですね」
「そ、そうですか?」
ニケルさんの言葉に私は思わず口どもった。
「ええ、だってリオさんがこの船を買われた時も、早く恋人に知らせたいって、喜んでましたし」
「そ、そうなんですね。全然知らなかった……」
リオの中では私たちって一応、恋人の認識だったんだ。
え~っと、いつから?
いや、別に良いんだけどね。
改めて考えてみると、お互い『好き』ってなってるもんな。
そ、そうか……今の私たちって恋人なのか。
私のこの『好き』と『恋』してる気持ちは、確かに一致はしている気がする。
リオから迫られる時に溢れ出てくる彼の色気には、いつも私はドキドキさせられっぱなしだ。
キスされている時の私は、確かに彼に『恋』をしているような状況と言えるだろう。
それがイコール『愛』とか『結婚』とか言われると、ちょっと待て待て! そこはまだ早計だぞ! って思ってしまうのだけど。
「僕にもね、恋人がいたんですよ。だけどね、いつの間にか、いなくなってしまったんです」
「え、それはどうして……?」
大人っぽいニケルさん。
彼は私と適度に距離を保ちながら、そう話した。
乙女ゲーで彼のこの設定は書いてなかったな。
たびたび起こる、ゲームと違う登場人物たちの箇所。
「船乗りのほとんどは海の上で過ごしますから、会えない時間が長過ぎて自分には耐えられないと、家に戻ったら書き置きがありました。まぁ、船乗りの痴情の結末には、よくある話なんですけど」
「でも、それなら彼女も一緒に船についていけば……」
私がヒロインを動かしていた時のように。
だって、ニケルさんとの旅はとても楽しかった。
色んな場所で色んな出会いがあって、素朴だけど素敵な物語だったし。
(実際の私だったら酔い過ぎて、ニケルさんについて行くのは無理だろうけど)
女神は一体、何の目的を持ってこの世界を作ったのだろう。
ソアが『女神の書』を使い、魂の交換の相手として、子犬を助け死んだ私を女神はたまたま選んだ。
リオが行った、ダンシェケルト家の一族でも滅多に成就されない『ナターリアの誓い』の相手としてもなぜか認められている。
これって、本当に偶然なことなのだろうか。
「彼女にも彼女の夢がありましたからね。仕方ないんです」
「どうしてもお互いが一緒にいられない理由ってありますもんね」
どうしてもお互いが一緒にいないといけない状況に強制的にされている私たちだが?
こういった形の恋人の方が非常に珍しいもんな。
というか、明らかに普通じゃない。
こんな縛りをつけた男女がどう一族の繁栄にかかわってくるのか、私には全くもって理解不能だ。
話が終わった後、ニケルさんとその場で別れた。
朝からモヤモヤしていた気持ちも、少し落ち着いた気がする。
なので、私はこれから船内を探検してみることにした。
せっかくこんな豪華な船の中に遊びに来たのだから、今はとりあえず楽しまなきゃ勿体ないし。
『お嬢さんは僕と話せるの? 飛ぶのは楽しいポポよ』
リオとランチを済ませた後、私は散歩がてら船の先端まで歩いて来て、たまたまそばに止まっていたカモメさんに話しかけてみた。
もしここが日本だったら、今の私は鳥に向かって独り言をしている、ただの変な人に映っていたことだろう。
「ああ、カモメさん。分かりますか? 私はね、日本人なんですよ、日本人。簡単に人前でね、朝も早よから接吻なんぞするような教育は決して受けちゃあいないんです。こういったプライバシーの境界、認識ズレちゅうもんは、価値観の違う異世界人同士だと中々相容れないもんなんですかねぇ」
私はそう言って、カモメさんに愚痴をこぼしてみた。このカモメさんは驚かずに、私の話をきちんと聞いてくれている。
『まぁまぁ、お嬢さん、そう気を落とすなって。今はこんな豪華な船に乗ってんだい、野暮ったいことは言わねぇでよぉ。楽しみなさいなポポ』
ふほ! このカモメさんなんかノリがいいぞ。
話し方も江戸っ子ぽくしてくれた。
それにしても、東京かぁ……死ぬ前に一度は住んでみたかったなぁ……。
ソアは日本で私の代わりに幸せになれてるのかな……楽しんでくれてるといいのだけど。
「ソアさんは、船主の恋人さんだったんですね」
後ろからいきなり名前を呼ばれた私は慌てて振り返る。
あ、ニケルさん。
も、もしかしてカモメに話しかけてるのを見られてた? ちょっと恥ずかしいな。
「そ、そうなんです。一応、婚約者というか……」
友達とか付き合うとか、恋人とかいきなり色んなものを飛び越えて、自分も知らぬ間に婚約者になってました。
今は、リオのことけっこう好きだけど、本音を言えば、離れられない状況で流されているだけかもしれないなっていう複雑な心境でもあります。
「幸せそうで良いですね」
「そ、そうですか?」
ニケルさんの言葉に私は思わず口どもった。
「ええ、だってリオさんがこの船を買われた時も、早く恋人に知らせたいって、喜んでましたし」
「そ、そうなんですね。全然知らなかった……」
リオの中では私たちって一応、恋人の認識だったんだ。
え~っと、いつから?
いや、別に良いんだけどね。
改めて考えてみると、お互い『好き』ってなってるもんな。
そ、そうか……今の私たちって恋人なのか。
私のこの『好き』と『恋』してる気持ちは、確かに一致はしている気がする。
リオから迫られる時に溢れ出てくる彼の色気には、いつも私はドキドキさせられっぱなしだ。
キスされている時の私は、確かに彼に『恋』をしているような状況と言えるだろう。
それがイコール『愛』とか『結婚』とか言われると、ちょっと待て待て! そこはまだ早計だぞ! って思ってしまうのだけど。
「僕にもね、恋人がいたんですよ。だけどね、いつの間にか、いなくなってしまったんです」
「え、それはどうして……?」
大人っぽいニケルさん。
彼は私と適度に距離を保ちながら、そう話した。
乙女ゲーで彼のこの設定は書いてなかったな。
たびたび起こる、ゲームと違う登場人物たちの箇所。
「船乗りのほとんどは海の上で過ごしますから、会えない時間が長過ぎて自分には耐えられないと、家に戻ったら書き置きがありました。まぁ、船乗りの痴情の結末には、よくある話なんですけど」
「でも、それなら彼女も一緒に船についていけば……」
私がヒロインを動かしていた時のように。
だって、ニケルさんとの旅はとても楽しかった。
色んな場所で色んな出会いがあって、素朴だけど素敵な物語だったし。
(実際の私だったら酔い過ぎて、ニケルさんについて行くのは無理だろうけど)
女神は一体、何の目的を持ってこの世界を作ったのだろう。
ソアが『女神の書』を使い、魂の交換の相手として、子犬を助け死んだ私を女神はたまたま選んだ。
リオが行った、ダンシェケルト家の一族でも滅多に成就されない『ナターリアの誓い』の相手としてもなぜか認められている。
これって、本当に偶然なことなのだろうか。
「彼女にも彼女の夢がありましたからね。仕方ないんです」
「どうしてもお互いが一緒にいられない理由ってありますもんね」
どうしてもお互いが一緒にいないといけない状況に強制的にされている私たちだが?
こういった形の恋人の方が非常に珍しいもんな。
というか、明らかに普通じゃない。
こんな縛りをつけた男女がどう一族の繁栄にかかわってくるのか、私には全くもって理解不能だ。
話が終わった後、ニケルさんとその場で別れた。
朝からモヤモヤしていた気持ちも、少し落ち着いた気がする。
なので、私はこれから船内を探検してみることにした。
せっかくこんな豪華な船の中に遊びに来たのだから、今はとりあえず楽しまなきゃ勿体ないし。
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