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第三章

二十六話

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 人の体よりもずっとずっと大きな木に、絡んでいる太いツル。
 それをよじ登っていくと、20メートルほど登った所に大きな木の小屋が作ってあった。
「け、けっこう登ったわね。この小屋、君が作ったの?」
『ううん、偶然見つけたの』
 ドアもない入り口から、四つん這いになって中へと入る。
 小屋の中は思っていたよりも整頓されていて、木の上の秘密基地って感じだった。
 話を聞けば、雷鳥さんはあの日、子供の姿で一日中あちこちを彷徨い続け、気がついたら雷鳥の姿に戻っていたらしい。
 前の体よりもずっと小さくなっていたので、森の中で偶然見つけたこの小屋へと隠れ、森でご飯を探しながら、のんびり過ごしていたという。

「少し、休んで良いかな? クタクタなの」
『いいよ! 僕の羽根布団ぜひ使って』
「ふふ……」
 それは雷鳥さんの体によりかかって良いってことかな? モフモフしててとても気持ちが良さそうだけど。
『はい、お布団!』
 って、本当に羽根布団が出てきた!
 えっ、僕のって……まさか。
『僕の羽根は毎日毎日いっぱい落ちるから、それを人間の落としていった大きな袋に集めて作ったの! 乗っかると気持ちがいいよ!』
「ぷっはは、笑った笑った……ありがとう」
『僕の名前はライライって言うんだ。よろしくね、ソア』
「うん、よろしく……ライライ」

 ライライとお喋りをしながら、私はいつのまにか寝てしまったらしい。
 そして次の日を迎えても、ルルムの街へ帰ることができなかった。
 リオの言うことを聞かず、夜に突然逃げ出した女だ。
 帰ったってどんな目に遭わされるか。
 ライライは無邪気だから可愛いし、一緒に木の実を探したり、なんとか食べられるものを作ったりして一日を過ごした。

 そんなこんなで数日は経っていたかもしれない。
 その間に、少しずつ体に異変が起きていることを感じ取っていた。
 なんだか、元気が出ないのだ。
 時おりメダルの触れている辺りが熱くなって、胸が苦しくなることがある。
 これが呪いの効果というやつなんだろか?
 それとも、またリオが何か……?
 でも、もういいや。
 疲れたんだ、私。


 ここに来て何日経っただろう?
 ある日の夜になんとも不思議な夢を見た。
 おそらくナターリアの女神だろうか? 綺麗な女の人が突然出てくる夢。
 相方がずっと探していると。二人の心と体の両方が長く離れるのは、とても良くないことが起きるという忠告だった。
 この場合、離れた方が裏切ったとされて、衰弱する仕組みになっているのだとか。
 だから、リオはルルムの学校へ編入までして、私を追いかけてきたのかもしれない。
 そっか……学校を変えてまで追ってきたのって、私を守るためだったのか。
 
 ただの夢かもしれないけれど、これは本当かもしれないね。
 私はそれでもリオの元に帰ることが怖くて、ライライの小屋にいることを選んだ。
 もういいんだ。
 このまま衰弱したって良いじゃない。
 帰ったって恐怖で頭がおかしくなるだけ。
 ライライは動物だから、人間のような損得も何もなく、ただ優しくて元気。
 ライライに呪いが効かなくて本当に良かった。


 その日の朝、私は喉が渇いたので、水を汲みに川の方まで歩いた。
 でも正直、あまり力が出ない。
 女神のメダルが最近、すごく熱くなる時がある。
 その度に胸が締め付けられたりして、自分の終わりが近いことを感じている。
 誓いの魔法の効果は絶対なんだな。

 川のそばまで来た時、周りでガサガサっと草木を踏むような音がしたが、今の自分にはそれらを気にしている余裕すらなかった。
 ここで肉食の野生動物でもいたら、たぶんアウトだな。
 すると、メダルは急に光り出して、その反動で私の足はふらつき、そのまま地面に倒れた。
 倒れた自分の目前には、女神のメダルがころころと転がってきて、まなこに映る。
「あ、これ、もしかしてもう本当に最後……なのかな。リオ……私ね、あんたのことけっこう好きだったよ。でも、なかなか素直になれなかったの。なんでかな……悔しかったのかな。ずっとゲームでも避けててさ、嫌いだと思っててさ、選ばなかったのに、なんか会うたびに魅力を感じてしまったり、変にドキドキさせられちゃって。なんだよこれ! 話が違うじゃんって、色んなことが起きるたびに抵抗したくなっちゃったのね。でも、私はたぶんそんなあなたに惹かれてた。足を噛まれたのが怖かったのは本当……だけどね。でも、そこまで私が追い詰めたの……かな? なんか色々と……ごめん……他にもっと良い人を……今度こそ……選んでね……リオ……ごめん」
 私は目が虚になり意識が闇に消えた。

「……他の女なんか選ばねぇよ。バカめ」
 遠くの方で知っている誰かの声が聞こえた気がしたが、私がそれを確認する術はなかった。
 
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