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第三章

二十四話

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 午後の授業で習ったことをさっそくやってみよう。
 私は放課後、また先ほどの庭園までやって来て、先生に教わったことの復習をすることにした。
 集中して魔力を放つ、基礎的な練習だ。
 ホワっとしたエネルギーのかたまりを、手の中に集める感じ。
 ……あれ、うまくいかないな。
 
「手だけじゃなくて、もう少し体の中心に神経を集中させてみな」
「あ、うん……」
 いつも通り勝手についてきているリオは、私から少しだけ離れた芝生の上でだらんと横になっている。
 リオに指示された通りに私はやってみるも、魔力はすぐに霧散してしまった。

「んー……もうちょっとだな」
 最初からそう、うまくはいかないか。
 でも、なんとなくコツがつかめてきたような……。
「もっと体全体で集中して」
「は、はい……」
 私は本気の本気で力を入れ、魔力を集めてみる。すると、暖かいエネルギーがほわ~っと体全体を覆ったが、その時スカートも一緒にまくし上がった。

「よっし! 今度ははっきり見~えた」
「な?!」
 私は手に集めたエネルギーのかたまりを、思わずリオに投げつけたが、片手で普通に一蹴される。
 くそ! さっきの蹴りも簡単にガードされたし、やっぱ実力に差があり過ぎるな。
「もう! 最低最低最低!」
「怒るなよ。好きな女の体は全て見たいし、全て知りたいし、泣いて嫌がるほどエロいこともしたいのが男つうもんなんだよ」
「自分の異常さを、さも当然のことのように肯定するな!」
 そんな男ばっかりだったら、世界が終わっとるわ!
 そして、ごめんごめんと言いながら、リオはいつの間にか私の後ろに回って抱きついてきてるし。
 って、今度はどこに手を入れようとしてる?!
 えぇい! やめろ!
 私はリオの魔の手から体を引き離して、なんとか逃げ出した。

 
「……なんで、下に運動着履くんだよ」
「自衛よ」
「それ全然良くねぇと思う」
「うるさいな」
 私はパンチラ対策をきちんとしてから、リオにコツを聞き、それなりに練習ができた。
 そして、そろそろ帰宅しようかと、二人で校庭の横を通り過ぎた所で、見知った人物とすれ違う。
 私は思わず立ち止まった。

「……あれ? セグレット様?」
「えっ?」
 その人物、実は王都の方へ転入してくる設定の攻略用キャラの一人だ。
 しかし王都ではなく、今もまだルルムの学校にいるのはなぜだろう?
 ゲームの時とは少し時系列が違うのか?
 まぁこの世界にはヒロインもいなかったわけだしな……。
「あの、僕に何か?」
「あ、いえ……初めまして」
「はい、初めまして」

 攻略用キャラの一人、彼の名はセグレット・サフマンくんだ。
 柔らかな面持ちでクルクルとした金髪に碧眼へきがんの彼は、まるで壁画に描かれている天使のような見た目の持ち主だ。
 彼もシュウカンと同じく癒し系で、かなり好みのキャラだった。
「僕はセグレット・サフマンです。君たちが噂のリオとソアだね。会えて嬉しいよ」
「はふ! こ、こちらこそぉ」
 な、なんだ、このセグレットくんの笑顔の破壊力は!
 過去に愛し合った(※ゲームの話)推しキャラNo.2とのリアル対面って、ガ、ガチやば……。
 
 このセグレットくんだが、私はゲーム攻略時に彼にもかなりハマった記憶がある。(エンディングは3回リピート済み)
 彼とはそう、駆け落ちみたいな形で別の国へと一緒に逃げたっけ……。
 
 王都の学校に転校したばかりで、少し孤立していたセグレットくんとヒロインが一緒に行動するうち、少しずつだが、お互いに好意を持ち始める。
 しかしヒロインの生い立ちから、二人の交際をサフマン一族に猛反対され、何度も何度も邪魔をされるたび、どんどん熱烈な恋に発展するという、逆境系ラブロマンスストーリーだ。
 二人がゴールインするまでは、ずっと愛の逃避行を繰り返していた。
 彼のエピソードは、愛を育むことにかなりの時間をかけて進んでいく上、その内容は濃厚で超絶ラブラブなストーリーなのである。
 そのためか彼を見ると、私の顔が無意識に火照ほてってしまう。

「ちっ、てめぇソア! 何顔赤らめてんだよ」
「う、うるさいな! こちらにも色々と事情があるのよ! ほっといて!」
 私はリオの言葉を無視して、推しキャラ様の顔を間近で存分に眺める。
 私の目は今、熱烈なハートマークになっているに違いない。
「てめぇ……マジ許さねぇぞ」
 うるさいな。
「あ、あの! セ、セグレット様とお呼びしてもよろしいでしょうか?!」
「え、いや、普通にセグレットと呼んでいいよ? これからもよろしくね、ソア。じゃ、また」
「は、はひ……」
 セグレットくんはそう言うと、校舎の方へ去っていった。
 
「や、やば……動悸が……死ぬる」
「おい、ソア! てめぇさっそく浮気か! って……」
「リアル推しやば、リアル推しやば、リアル推しやば」
 私はセグレットくんが見えなくなると、今度は急に息苦しくなってきた。
 制服姿にジャージという、こんな珍妙な格好を見られてしまったのだ。
 恥ずかしくて恥ずかしくて、もう死ぬ!
「……お、おい、大丈夫かよ? お前……」
「リ、リオ、や、やばいかも。私は今日死ぬかもしれない。ゲームの推しがリアルですごい破壊力……心臓が……もたな……」
「ま、まるで、何言ってるか分からねぇ……って、お、おい?!」
 私はオタク気質が暴発して、その場で倒れました。
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