転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花

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第二章

十九話

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 ふわふわと安らぐ背中の感触。
 ここは暖かくて心地良い。
 私は今、寝ているのだろうか?
 心配そうにしているリオの顔が近づくたび、口に柔らかい感触が増える。
 これは私が見ている夢なのかな?
 
「ん……」
 大きくて、でも優しい手が何度も私の顔を撫でた。
 ハァとため息混じりの吐息が私の顔にかかり、また唇が重なる。
「ソア……」
 まるで猫のような、綺麗な金色の目。
 男性にしては前髪は少し長め、艶のある黒髪が顔にかかっていて、妙な色気を醸し出している。
 まだ、あどけなさも残る少年の整った顔が、何度も何度も私の唇を奪った。

「……あれ?」
 ちょっと夢にしてはリアル過ぎじゃない? と思った時にはすでに時遅し、軽いキスだったものが急に濃厚なキスへと変わっていって、思わず変な声が出る。
「リ……や、やめ……」
 こういう時のリオは終始無言だ。
 真顔で行為に及ぶリオの姿に、女である私の体は反応し、背筋がゾクゾクッとした感覚が止まらない。
 これが恐怖ゆえのものなのか、それともまた別の何かの感情であるのか、今の私にそれをしっかりと見極める勇気はなかった。

 まだ理性が働く私は、とにかく止めてもらおうと、手でリオの肩を押し返そうとするが、彼の体は微動だにしない。
 舌が絡むキスは、思っていたよりもずっとイヤラしくて、つい全身に力が入ってしまう。
 敏感になった体が動くたび、挫いた足が悲鳴をあげ、たまらず「いたっ!」と声が出たところで、やっとリオの動きが止まった。
「ごめん、抑えられなくなって……本当もう、帰ってこねーのかと思った。ちょっと頭冷やしてくるわ」
 リオはそう言うと部屋を出ていった。

(私、あのあと……馬さんの上で気を失って……?)
 自分の体を見てみると、雷鳥の突風で擦り傷を負った所はガーゼにより処置がされており、捻った足首には包帯が綺麗に巻かれていた。
 誰かが手当てをしてくれたようだ。
(心配……かけたのかな)
 私はとりあえず壁にかかっている時計を見た。
 今はすでに夜中の2時を回っているようだ。
 一体どのくらい寝ていたのだろうか。
 そして自分の姿をよくよく見てみると、服が制服からネグリジェに変わっているではないか。
 いや、きっと今回もメイドさんが……以下略。

(あれ? ポケットに入れてた『ソアの手紙』はどこに?)
 私は手紙を探そうと慌てて起き上がろうとし、またもや足首の激痛で今度はベッドから落ちた。
「い……いた!」
 一体自分は何をやっているのだろう。
 私の落ちた音に気づいたのか、リオがまた慌てた様子で部屋へと戻ってきた。
「人が頭冷やしている間に、お前はなにやってんだよ! まだ歩くな!」
 頭冷やすって、音がしてから部屋に来るの随分早くない?
 ずっとドアの前にでもいたのか?

 リオは床に座り込んでいた私を抱き抱える。
 これはそう、俗に言う『お姫様抱っこ』だ。
 私はびっくりしてリオの顔を見るも、彼の真剣になった顔があまりにも格好良くて、思わず赤面してしまう。
 恥ずかしくなった私はあからさまに目を逸らした。
 リオはそんな私の様子に「おや?」とわざとらしい笑みを浮かべる。
「やっと俺に惚れたか」
「ち、違う! から……」
 そんなんじゃないから!
 ちょっと不意打ちくらっちゃっただけで……。
 それよりも早くおろしてほしい。
 すると、リオは私を抱っこしたままベッドにストンと座った。
 って、なんでそうなるねん! 
 私はたまらず、彼の上からずるずると足を引きずり逃げ出す。
 これ以上は心臓が保たんのです。

「リオ、もしかして寝てないの?」
「ああ」
「少しでも寝なよ」
 さぁ早く自分の部屋に帰るのじゃ。
 私の精神安定のためにも。
「じゃあ隣で」
 なんでだよ。
「自分の部屋でゆっくりすればいいのに」
「お前が気になって寝れねぇ」
 足は捻ったけども、私は疲れていただけで別に普通に元気なんですよ。
 まぁ実際かなり迷惑かけた自覚はあるけどね。
 このベッド充分広いし、二人でも寝れなくはないが。

 リオは私の横で仰向けにゴロンと転がる。
 前髪が上がった顔は、なんつうかいつもと違い新鮮で、これはちょっと色気がやばいんでないかい?
(いやいや、違う違う。気のせい気のせい)
 話題を変えねば……と!
「リオ……手紙見たの?」
「もちろん見た。お前のことは全部知りてぇ。好き過ぎか」
 リオの言葉に私はまたもや赤面する。
 今日はどうしたんだろう。
 顔が熱い。

「正直、びっくりしたが……もしかして肩の文字ってお前の本名だったりする?」
「……うん」
「ふ~ん……まぁ名前とか前世とか、正直どっちでもいい。お前はお前」
 ……今日はもう顔の火照りが引きませんね。
 素直に嬉しいと言えればいいのに。
 自分のこの難しい性分よ。

「あれ? 手紙見つけたってことは、じゃあ手当てしてくれたり、着替えさせたのはまさか……」
「いや、それはメイド。馬から下ろす時にポケットから落ちたから見た」
「あ、そう」
(思ったより紳士)
「生肌見たら、寝ててもどんなに嫌がっても襲っちまうし」
 全然違った。やっぱ鬼畜。
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