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第二章

十八話

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 王都の近くの山は狭い山道が多く、道が荒い。
 そして山の向こう側の都市と王都を行き来する商人たちが、移動によく使っている道らしく、何かトラブルが起こると物流が滞ってしまうのだとか。

 私は山の観測所まで、馬さんに送ってもらった後、雷鳥がいるらしいという場所まで一人で行ってみることにする。
 私は自分の世界にいた『雷鳥』のイメージのまま、この山へやって来た。
 なので、てっきり『道が塞がれている』くらいの大量の雷鳥さんが群れで行動しているのかと思っていたのだが、全然違った。
 
「こ、これは、確かに……通れない」
 丁度、山の中腹くらい、三叉路になっている場所のど真ん中に、とてつもなく大きな紫色の雷鳥さんが、ドヘっと道を塞ぐように座っていた。
 どのくらい大きいかと言うと、たぶん大型バスが三台分くらい!
 どれだけ頑張って下から見上げても、お腹の部分しか見ることができなかった。
 大きな雷鳥さんは、私に気がつくと叫び声を上げながら、大きな羽を横に広げてバサバサと上下に振り出し始める。
 そして、その時の凄まじい突風で、私は勢いよく後ろに吹っ飛ばされた。

(うぅ、いた……)
 近づいてきた人間に対して、いきなり雄叫びを上げて、強い突風で吹き飛ばす。
 これは確かに人間からしたら『悪さ』かもしれない。
 でも、不思議なことに雷鳥さんから聞こえた言葉の意味は、攻撃とは全く違うもので……。
 私は立ち上がり、再び雷鳥さんになんとか声をかけようとするが、またもや『女の子ォォォ! キタァァァ! やっぱ好きぃぃぃ!』と喜びながら、羽をバサバサとされてしまい、再び突風で吹っ飛ばされてしまう。

(な、なんということ。声すらかけられない。あ、これはまずい、足首を捻った……)
 私は左足の自由を奪われてしまい、さらに焦り出す。
 このままでは雷鳥さんは、退治されてしまうのだ。
 何か良い方法はないかと考えた。
 そういえば、さきほど買ったローブのオマケでお店の人が面白いものをくれた。
 それが使えるかもしれないと、私はアイテムを取り出してみる。
 これは、『一日だけ対象を変身させることができるパーティグッズ』だ。
 ただの余興アイテムだが、もしかしたら使えるかもしれない。
 動物に効くかは分からないけども。

「えーい! 人間になれ!」
 私は雷鳥に変身アイテムを投げつけた。
 すると、大きな雷鳥はボフンっと凄まじく大きな音を立てて……小さな小さな男の子になった。
『??? あれ? 僕……』
「雷鳥さん! ここは危険だよ」
『ほぇ?』
 私は彼に危険が迫ってることを説明して、なんとかわかってもらう。
 この雷鳥さんは北の方の国からやってきていて、こちらの食べ物が美味しすぎて、いつの間にかこの大きさになってしまったらしい。

『人間が好きで道端で声をかけるとみんなご飯をくれる。でも僕、あまりにも大きくなってしまったから、ここから動けなくなってしまったんだ』
 元雷鳥さんの男の子はそう言うと、嬉しいような悲しいような顔をした。
「あなたが喜んで羽を動かすたびに、私は吹き飛ばされたのよ。ここを通る人もみんなも攻撃されてると思ったかも。この変身効果は一日だけ。その間に山から降りて、できるだけ安全なところに移動できないかな?」
『うん、やってみるよ。ありがとう』
 雷鳥さんはそう言うと、王都とは反対側の下降へと降りていった。
 あのまま無事に安全な場所へと辿り着けますように。

(あの小さな体に同じ体重だったら、どうしようかと思ったけど、大丈夫みたいね。一日あればきっと、遠くまで行けるでしょう。それはそれとして、自分も暗くなる前に山を降りなければ!)
 問題はこの足だ。
 うん、だめだ、完全に挫いてしまっている。
 少し時間を置いたら良くなるだろうか。
 私は道端の石の上に、座って少々休む。
 すると一時間くらい経った頃だろうか、さきほどお店で喋っていた男女の二人がやってきた。
 彼らも雷鳥が気になって、様子を見にきたらしい。
 私は状況を説明すると、男の人が担いで山を降りてくれることになった。

「すみません、本当に」
「いやいや、あなた軽いしね。その格好、学生さんでしょう? 王都の学校の女子生徒がこんな所まで一人で来るなんて、本当に勇敢だね。でも世の中には怖い野生動物や、危ない人間もいるんだから、気をつけなよ」
 二人にさきほどの観測所まで送ってもらい、お礼を言って別れた。
 もう辺りはだいぶ暗くなっている。
 あと1時間もしたら、おそらく真っ暗になっていたことだろう。危なかった。

『お嬢! 遅かったので心配したよ! さぁ早く帰ろうや!』
 私は馬さんに乗って、山を下る。
 そして王都を通り過ぎ、もう少し走ればリオの家までというところで、ついに私は気を失ってしまったらしい。
『お嬢、寝てしまったのかい? こんなに怪我をして……』
 手綱に違和感を感じた馬さんは、私の意識がないことに気がつくと、走ることをやめ、私を背に乗せたままゆっくりと歩いて帰ってくれた。
 けっこう大変な日ではあったけども、自分なりに納得のいく成果もあった。
 これはこれで満足感ある一日が過ごせたと思う。
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