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第二章

十三話

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「ねぇ、アナ。あなたのご主人って相当変わってるわよねぇ」
『まぁ変わっているわね。ところでソ、じゃない香桜かお、夜遅くにこんな所まで来て、主人あるじと何かあったの?』
 何かあったどころの話ではない。
 リオあやつは食事の後いきなり私に外出禁止令を出してきたのだ。
 明日からもずっとここにいるよう命令までしてきた。
 しかもそれをソアの両親は了承しているなんてほざきおって。
 リオのやつ、ソアの家族に一体何を吹き込んだのだ。
 まさか、本当に結婚するからと、一緒に住むとか勝手に話を進めたんじゃあるまいな。
(リペンドール家もそこは本人確認しろよ!)
 これじゃただの拉致解禁だぞ。

「はぁ~あなたに愚痴れるのが唯一救いだわ」
『そんなに悲観しないでよ、きっと主人あるじは色々と不安なのだわ』
 白馬のアナは馬小屋に移動していたが、彼女はリオの特別な馬であるらしく個室だった。
 そのためこうやってゆっくり、一人と一頭で話をすることができている。
「あなたもアイツに捕まった口なの?」
『どうかしらね、リオが子どもの頃から一緒にいたからよく分からないわ。でも年上のご兄弟に囲まれて、主人あるじはいつも寂しそうではあったのよ』
「そっか……」
 アナ一頭だけに名前をつけて、わざわざ個室を用意している辺りは、彼女をかなり特別に想っていることがよく分かる。
 対してアナもリオのことは、自分の子どもみたいな感覚なのかもしれないな。

『ねぇ香桜かお、結局あなたはこれからどうしたいの?』
「そうねぇ、やっぱりこの能力のことをもっともっと知りたいわね。勉強をするために、他の都市の学校に行きたいなと思ってはいたけれど、リオがここまで横暴だと当分は無理そう。それとソアの魂だとか心だかを探せないかと思ってるの。今のところはそのくらいね」
 それにはやっぱり色々な世界を見てみたいんだよね。でもリオは絶対許してくれないだろうし、ソアの両親も反対しそう。
 だからそのための学校転入が目的だったのに、リオは私を外に出さないと言い出した。
 これはもう逃げるより他ないんじゃない?
『なんだか大変そうだわ。でも今のあなたは逆に生き生きして見える。応援しているから頑張ってね』
「うん、アナありがとう。またね」


 私はアナに別れをつげたあと、バラ園まで戻ってきた。周りが静かであるためか、時折小さな穴の中からウサギたちの寝息がよく聴こえる。
 庭の中を屋敷の方に向かって歩くと、しばらくしてガサっと強めの足音が聞こえた。
 おそらく夜に屋敷を抜け出したことが伝わって、迎えに来たのだろう。
 道の先に目を向けると、少し離れた場所でリオが真顔で立っていた。

「クラークからお前が乗馬ができると聞いて、てっきり夜中に馬で逃げる気かと思っていたが、そういうわけではなかったか。まぁそれならそれで連れ戻すだけだが」
 私はその時のリオの真剣な顔が怖くて、この場から一歩も進めなくなった。
 そんな私を見越してか、彼の方からゆっくりと近づいてくる。リオ、なんとなく怒っている?
 別にどこにも行っていないのに。
「リオ……」
 彼は私の腕を強く掴むと、芝生までぐっとそのまま押し倒した。
 そして口を強く塞がれる。
「ん……あ……」
 呼吸が苦しくなるくらい口を口で押さえつけられて、顔を動かそうとするとすぐに追いかけてきて、重なった唇がただ熱い。
「ん、や……」
 無言で行為に及ぶリオが怖い。
 怖いけど、全然逃げられない。
 力が敵わないからだ。
 でもキス以上のことはなくて、舌を入れてくるとかそういうことでもなくて、なんだろう……やっぱりどこか怒っている感じ、独占欲を誇示しているような、ただ辛いだけのキス。
 私とリオに起きた情事に、女神のメダルは一緒になって共鳴しているのか、触れている皮膚の辺りが生暖かい何かでじんわりと疼く。

 しばらくして、やっとリオの口が離れた。
 私は地面に押し付けられて痛くなった体をなんとか起こし、そのまま呆然としていた。
 その間もリオは私の顔をじっと見つめてくるが、呼吸一つ乱れていない。
 つまり余裕ってことですか。悔しい。
「キスくらいはもらっとかないと俺の気が収まらないからな。舌を入れてやらなかっただけありがたく思え」
「最低……」
 人のファーストキスを奪っといて、平然と言ってのける。悔しいけどやっぱり敵わない。
 あまりにも悔し過ぎて、涙まで出てくる始末。
「どこにも行くなよ、ソア。俺が幸せにしてやるから」
 そう言ってリオは私を強く抱きしめた。
 正直言うと、この腕の中の居心地は悪くない。
 リオといる時、別にソアの家族の元に帰らなくたって良いとすら思うことだってある。
 でもね、ごめんリオ。
 私はそれでも行く。
 このまま与えられるだけじゃ嫌なの。
 私の生き方は私が決めたいんだ。
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