上 下
10 / 46
第一章

十話

しおりを挟む
「本気でやめて」
「減るもんじゃなし、いいじゃねーか。やらせろ」
 私はリオの手を必死で止めるが、力が強くて抑えられない。
「本当にダメだから」
「じゃあ、こっちは~……っと、やべ、ここ柔らかくて最高の触り心地」
「もう、やめてってばぁ!」
「……何か声だけ聞くと、俺たちやらしいことしてるみたいだな。そこにいるクラークの奴の顔があけぇや」 
 そう言ってリオは先ほどから後ろに待機している、例のご年配のスタッフさんを指差した。
 あの方の名前はクラークさんとおっしゃるのね。
 というか、人に向かって指は差すな。

「はぁ? やらしいってどこが……あんたがウサギの耳をひっくり返して遊んでるから、全力で止めてんじゃないのよ」
 動物虐待はすんな。
 ひっくり返された耳も可愛いけれど。
「しかし、バラ園にウサギって、面白い組み合わせだよな」
「そう? 不思議の国のウサギみたいで素敵じゃない。まぁバラの国の女王は怖いけれど」
「バラ肉の女王?」
 なんだ、バラ肉の女王って。
 女王がバラ肉なのか、バラ肉が女王並みなのか? なんてしょうもないことを、ちょっとだけ考えてしまったじゃないか。

「バラ肉と違うから……でも、綺麗な庭にウサギが放し飼いにされてるのってなんか穏やかでけっこう好き。それにこの子たちも懐いてて可愛いし」
 ちょっと家に持って帰りたい気分。
 動物がいればアニマルセラピーになるしね。
 そういえば、転生前に私が助けた子犬も今ごろ元気かな。どうしているんだろう。
「可愛いか? ウサギってけっこう獰猛どうもうだぜ? それに俺はお前の方が断然可愛いく見えっけどなぁ」
「はぁ?! あんたいきなり何言ってんのよ!」
 不意打ちでそんな言葉、よく恥ずかしげもなく言えるもんだ。こっちは無駄に赤面してしまうじゃないか。

(そういえば王都でもなんか愛の誓いとか言ってたわね。何だろう、日本人とは絶対的にソリが合わなそうな、このノリと感覚……)
 人前で I love you とか、本当ここはどこの欧米ですか、というね。
「このバラ園とウサギはお母様のご趣味?」
「いや、父親の方」
「そ……そういうことも、もちろんあるわね」
 リオのお父様は意外と乙女チックな感性みたい。
 でも動物好きとか、私とちょっと気が合うかもしれないな。
 ふふ、リオのご両親ときちんとお話してみたいかもなんて、思えるようになってきたのが不思議。
 今日、王都でリオに腕を捕まれた時は、本当にびっくりして嫌だったのに……。

「なぁ、ソア……」
「なに?」
「顔赤らめて、もう俺に惚れたか? もちろんいつでもウェルカムだぞ?」
「なんでそうなるのよ! おあいにく様だけど、私は誰のことも惚れていません」
 ちょっとでも気を許すとすぐこれだ。
 こいつは何事にも順序というものがあることを知らないのだろうか。
「素直じゃないソアも可愛いから良いけどな。まぁ夜は空いてるからいつでも来いよ」
「ねぇ、人の話聞いてた?!」
 それに私たち、まだ15歳じゃなかったかしら?
 まぁ、異世界だから? 日本の法律は当てはまらないとは思うけどさ。
「一度確認するけど、あなた、私(ソア)と同じ15歳よね?」
「それがどうした? 15は結婚できる年齢だろ」
「ふぁ?! まじで? でも、イヤなもんはイヤ」
「ちっ」
 あからさまな舌打ちすんな!
 本当に自己都合だけでなんでも進める男だ。
 いや、ガキか?
 どっちにしろ、明日には絶対に帰らせてもらうけどな。
 それでリオの目の届かないどっか遠く~の国に逃げる手立てを考える。

 一つ分かったことは、私は馬車に乗ると致命的に酔ってしまうということ。
 そしてこの世界には列車も車も、機械による移動手段が何もない。
 つまりリオみたく、馬くらいは乗れないと、長距離の移動は無理過ぎて話にならない状態だ。
 だから、きちんと乗馬を習ってみようかなっていうのがまず一つの目論み。
 あと、魔法も使えるようになりたくて、この呪いの解き方も含めて色々と勉強しなくちゃとは思っている。
 まぁそこは学校に通うのが一番手っ取り早いだろうから、別の都市にある学校と寮に入ることができないか、ソアの父に相談するつもりだ。
 自分の転生先の人生じんせいくらい自分で決めたいしね。
 だからね、リオくん。
 申し訳ないけれど、私は色々と秘密裏に計画を立てて知らぬ間にしれっと消えるから、あなたは別の素敵な伴侶を探してくれたまえよ。
 たぶん、その方が私も君も絶対幸せだと思うんだ。
 ……少し胸がチクンとするけどさ。
 きっとこれは気のせい。
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

桜の木の下の少女

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:334pt お気に入り:0

【完結】愛してました、たぶん   

恋愛 / 完結 24h.ポイント:504pt お気に入り:4,486

婚約者が結婚式の三日前に姿を消した

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,675pt お気に入り:87

妹と違って無能な姉だと蔑まれてきましたが、実際は逆でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:5,371

どうでもいいです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:134pt お気に入り:97

ご近所のお婿さん

恋愛 / 完結 24h.ポイント:482pt お気に入り:1

処理中です...