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第一章
九話
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あのあとリオを部屋から追い出し、仮眠をしっかり取らせていただいたら、気分がだいぶ良くなった。
現在のリオの所在は分からないが、私は今、軽食を持ってきてくれたメイドさんと食事を取りながらお喋りをしている。
「リオはそんなにいつも屋敷にいないんですか?」
「はい、リオ様は家でじっとしていられない方で、王都へ行く時以外は、一人で馬に乗ってどこかに行ってしまいます」
話を聞けば、リオが日中ここにいること自体が珍しいらしい。普段は眠い時にだけ帰ってきて、すぐに出て行ってしまうのだと。
常にどこかへ出かけていたい性格のようだ。
(いったい外で何をしているのやら)
ただ、ここ最近はこまめに屋敷へ戻ってきたり、女性へ声のかけ方や、渡すならどんなプレゼントが良いかなど、メイドさんたちと話をする機会が増えたと言っていた。
そのため、リオの気にする相手の女性が一体どんな人物なのか、ここの従業員一同でみな楽しみにしていたというのだ。
それならば尚更、いきなりあんな醜態を晒して申し訳なく思う。
まぁ過度な期待だけされましても、実際の中身は日本の高校を卒業しただけのただの庶民……ホントなんかスミマセンです。
食事を終え、メイドさんも出ていったあと、しばらくすると今度は年配の男性の方が部屋までやってきた。
見た目の貫禄からして、ここのスタッフさんの中でもかなり偉い方なのだろうか。
「ソア様、失礼します。先ほど旦那様と奥様がこちらへ一度戻られたのですが、ソア様がお休みされている間に王都の方へと出発してしまいまして……お二人にはソア様のことをお伝えしたのですが、リオ様が寝ているなら起こさなくて良いと判断されました。旦那様も奥様も今日は王都の別宅の方にお泊まりになるようです。ここまでご足労いただいたのに、本当に申し訳ありません」
……なんてことだ。
ご両親には正直に話し、リオの勘違いだと分かっていただこうと思っていたのに。
(ついでに変な呪いも解くように説得してもらいたかった)
これはもうお暇するより他がないな。
気分も良くなったことだし、家まで送ってもらおう。(また酔うだろうけど)
「ご両親にお会いできなかったことは残念ですが、ご迷惑をおかけしたのはこちらです。また日を改めさせていただき、今日のところは帰……」
「あ、それは困……いえ、リオ様を呼んで参ります。少々お待ちくださいませね?」
おっと、急に狼狽え出したぞ。
どうしたどうした。
とりあえず、リオを呼ぶなどと、そんな気を遣わなくて良いとだけ伝えておこう。
「まぁ! 呼ばなくても大丈夫ですよ。どうぞお構いなく。このまま帰りますから」
ニコニコニコニコ……と笑顔でね。
「いえいえいえいえ! そのままぜひお待ちください! できればそのまま動かないでくださいね!」
「いや、本当このまま帰……」
「それは、どうかご勘弁くださいませ!」
年配のスタッフさんはそれだけ言うと、リオを呼びに出て行ってしまった。
どういうことだ。
今、リオに会わないと何か不都合でもあるのか?
私としては彼に会わなくとも特段、困ることなどないのだが……。
このまま一人で馬車の御者のところまで行って、さっさと送ってもらってしまおうかと思い、とりあえず立ち上がったところで、この部屋のドアが開いた。
「体調はどうだ?」
ちっ、逃げられなかったか。
「……おかげさまで元気よ。私そろそろ帰ろうかと思って」
「まぁ、待て。見せたいものがある。こっちに来な」
リオは私の手を引いて、今度は外まで連れ出した。
別に手を繋いでなくとも普通に行けるのに。
「ここは? ……綺麗」
「バラ園だ。そこに座って」
私は言われた通りにベンチに腰掛けた。
ここには色鮮やかなバラが綺麗に整備されている。
まるでおとぎの国の世界みたいに、神秘的な空間だった。
「バラは好きなだけ切っていい。こういう場所好きだろ? 最初に会ったのも庭だったし、わざわざ夜中にも出てたくらいだ。よっぽど好きなんだなと思ったんだが」
「まぁこういう場所は好きだけど、夜中にいたのはたまたまね……そういえばあんた、あの時どうして深夜リペンドール家に?」
リオは少しバツが悪そうな顔をして大したことじゃないんだけど……と語り出した。
「あの時は確か、ダチと夜、遊び歩いてて帰りにチンピラに絡まれたんだよな。ダチはもう家に帰ってたから、まぁ俺一人だったんだけど、片っ端からぶっ倒してったら、思ったより人数多くてな~…キリがないから逃げて気づいたらあの庭にいたってわけ」
「変態」
「なんだよ、変態ってのは! そういう時は大変だったね、の一言をかけるのが普通だろうが!」
私はなんとなく面白くない。
こいつ、人に求婚しておいて……のうのうと。
「遊び歩いてって、どうせ女遊びでしょ。あんな辺境地までご苦労様」
「違う! 近くにダチの家があるだけ。それに最近はあまり行ってない。一応言っておくけど、そいつ男だからな?」
「べ……別にそこまでは聞いてません」
これじゃあまるで嫉妬してるみたいじゃない。
そんなんじゃ全然ないんだから。
「っていうか、あんた昼間私の周りによくいるけど、学校はどうしてんの?」
「あんなつまんねーところ、この年になって行けるかよ」
「いや、行けよ……」
不良そのものじゃないか。
侯爵家の御曹司が聞いて呆れる。
「家族はご両親だけ?」
「今はな。上4人はみんな独立した」
「4人?!」
「俺は五男だからな。全部、兄。みんな10歳以上年上」
(あ~……女っ気の少ない家庭の末っ子で甘やかされて育っちゃったパターンね。どうりで女の扱いが強引で自分本位なわけだ)
「俺の話はこの辺でいいだろ? 聞きたいことがあったら言ってくれれば答えてやるから。あと今日はもうここに泊まって行けよ。さっきお前の家まで馬飛ばして、お前の両親には挨拶がてら、色々と了承得てきたから。色々と」
「は?」
なにそれ! 根回し怖っ!
人が動けない間にそこまでするか?!
呑気に食事など取ってはいけなかったのかもしれない。
私はとんでもない相手に目をつけられてしまったのではないかと今更ながらに、思う。
こうなったら、国外逃亡も視野に入れてトンズラ計画を早々に立てなきゃ危ないんじゃない?!
ああ、私の異世界転生どうしてこうなった。
現在のリオの所在は分からないが、私は今、軽食を持ってきてくれたメイドさんと食事を取りながらお喋りをしている。
「リオはそんなにいつも屋敷にいないんですか?」
「はい、リオ様は家でじっとしていられない方で、王都へ行く時以外は、一人で馬に乗ってどこかに行ってしまいます」
話を聞けば、リオが日中ここにいること自体が珍しいらしい。普段は眠い時にだけ帰ってきて、すぐに出て行ってしまうのだと。
常にどこかへ出かけていたい性格のようだ。
(いったい外で何をしているのやら)
ただ、ここ最近はこまめに屋敷へ戻ってきたり、女性へ声のかけ方や、渡すならどんなプレゼントが良いかなど、メイドさんたちと話をする機会が増えたと言っていた。
そのため、リオの気にする相手の女性が一体どんな人物なのか、ここの従業員一同でみな楽しみにしていたというのだ。
それならば尚更、いきなりあんな醜態を晒して申し訳なく思う。
まぁ過度な期待だけされましても、実際の中身は日本の高校を卒業しただけのただの庶民……ホントなんかスミマセンです。
食事を終え、メイドさんも出ていったあと、しばらくすると今度は年配の男性の方が部屋までやってきた。
見た目の貫禄からして、ここのスタッフさんの中でもかなり偉い方なのだろうか。
「ソア様、失礼します。先ほど旦那様と奥様がこちらへ一度戻られたのですが、ソア様がお休みされている間に王都の方へと出発してしまいまして……お二人にはソア様のことをお伝えしたのですが、リオ様が寝ているなら起こさなくて良いと判断されました。旦那様も奥様も今日は王都の別宅の方にお泊まりになるようです。ここまでご足労いただいたのに、本当に申し訳ありません」
……なんてことだ。
ご両親には正直に話し、リオの勘違いだと分かっていただこうと思っていたのに。
(ついでに変な呪いも解くように説得してもらいたかった)
これはもうお暇するより他がないな。
気分も良くなったことだし、家まで送ってもらおう。(また酔うだろうけど)
「ご両親にお会いできなかったことは残念ですが、ご迷惑をおかけしたのはこちらです。また日を改めさせていただき、今日のところは帰……」
「あ、それは困……いえ、リオ様を呼んで参ります。少々お待ちくださいませね?」
おっと、急に狼狽え出したぞ。
どうしたどうした。
とりあえず、リオを呼ぶなどと、そんな気を遣わなくて良いとだけ伝えておこう。
「まぁ! 呼ばなくても大丈夫ですよ。どうぞお構いなく。このまま帰りますから」
ニコニコニコニコ……と笑顔でね。
「いえいえいえいえ! そのままぜひお待ちください! できればそのまま動かないでくださいね!」
「いや、本当このまま帰……」
「それは、どうかご勘弁くださいませ!」
年配のスタッフさんはそれだけ言うと、リオを呼びに出て行ってしまった。
どういうことだ。
今、リオに会わないと何か不都合でもあるのか?
私としては彼に会わなくとも特段、困ることなどないのだが……。
このまま一人で馬車の御者のところまで行って、さっさと送ってもらってしまおうかと思い、とりあえず立ち上がったところで、この部屋のドアが開いた。
「体調はどうだ?」
ちっ、逃げられなかったか。
「……おかげさまで元気よ。私そろそろ帰ろうかと思って」
「まぁ、待て。見せたいものがある。こっちに来な」
リオは私の手を引いて、今度は外まで連れ出した。
別に手を繋いでなくとも普通に行けるのに。
「ここは? ……綺麗」
「バラ園だ。そこに座って」
私は言われた通りにベンチに腰掛けた。
ここには色鮮やかなバラが綺麗に整備されている。
まるでおとぎの国の世界みたいに、神秘的な空間だった。
「バラは好きなだけ切っていい。こういう場所好きだろ? 最初に会ったのも庭だったし、わざわざ夜中にも出てたくらいだ。よっぽど好きなんだなと思ったんだが」
「まぁこういう場所は好きだけど、夜中にいたのはたまたまね……そういえばあんた、あの時どうして深夜リペンドール家に?」
リオは少しバツが悪そうな顔をして大したことじゃないんだけど……と語り出した。
「あの時は確か、ダチと夜、遊び歩いてて帰りにチンピラに絡まれたんだよな。ダチはもう家に帰ってたから、まぁ俺一人だったんだけど、片っ端からぶっ倒してったら、思ったより人数多くてな~…キリがないから逃げて気づいたらあの庭にいたってわけ」
「変態」
「なんだよ、変態ってのは! そういう時は大変だったね、の一言をかけるのが普通だろうが!」
私はなんとなく面白くない。
こいつ、人に求婚しておいて……のうのうと。
「遊び歩いてって、どうせ女遊びでしょ。あんな辺境地までご苦労様」
「違う! 近くにダチの家があるだけ。それに最近はあまり行ってない。一応言っておくけど、そいつ男だからな?」
「べ……別にそこまでは聞いてません」
これじゃあまるで嫉妬してるみたいじゃない。
そんなんじゃ全然ないんだから。
「っていうか、あんた昼間私の周りによくいるけど、学校はどうしてんの?」
「あんなつまんねーところ、この年になって行けるかよ」
「いや、行けよ……」
不良そのものじゃないか。
侯爵家の御曹司が聞いて呆れる。
「家族はご両親だけ?」
「今はな。上4人はみんな独立した」
「4人?!」
「俺は五男だからな。全部、兄。みんな10歳以上年上」
(あ~……女っ気の少ない家庭の末っ子で甘やかされて育っちゃったパターンね。どうりで女の扱いが強引で自分本位なわけだ)
「俺の話はこの辺でいいだろ? 聞きたいことがあったら言ってくれれば答えてやるから。あと今日はもうここに泊まって行けよ。さっきお前の家まで馬飛ばして、お前の両親には挨拶がてら、色々と了承得てきたから。色々と」
「は?」
なにそれ! 根回し怖っ!
人が動けない間にそこまでするか?!
呑気に食事など取ってはいけなかったのかもしれない。
私はとんでもない相手に目をつけられてしまったのではないかと今更ながらに、思う。
こうなったら、国外逃亡も視野に入れてトンズラ計画を早々に立てなきゃ危ないんじゃない?!
ああ、私の異世界転生どうしてこうなった。
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