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第三章
二十八話
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私は陸地の方から例の悪鬼のそばへと向かう。
ある程度近づいたところで、今度はシンラが湖側から真っ正面に飛んでいった。
シンラや私の姿は、今でも人間には見えていないはずだ。
しかし、妄執の塊である悪鬼にはシンラの姿がわかるらしく、耳を劈くような……不快な雄叫びをあげながら警戒をしていた。
この悪鬼は突然現れたシンラに抵抗しているのか、体から黒くて気持ちの悪い霊気を発して、ジワジワと周りへと広げている。
このままでは崖の上に建っている建物にまで届いてしまうだろう。
早めに手を打たなければ、被害が出てしまうかもしれない。
しかし、こんなことに慣れていない私は、悪鬼の禍々しさや怖さに圧倒され、自然と体がたじろいでしまう。
『……困りました。思っていたよりも私の能力が届きません……母さま、もう少しだけ近づけますか?』
「ベニモモちゃん、どうしよう……足がすくんで……」
私の足は今、震えてしまって思うように進めない。
(悪鬼がこんなに恐ろしいものとは……)
『父さまも、このままでは動けませんね……』
悪鬼は、シンラに向かって黒い触手のようなものを一直線に何度も飛ばしている。
うまく避けているシンラだが、かすった服の部分は焦げていたり溶けたりしていた。
シンラはまだ攻撃が出来ない上、悪鬼の注意が私の方へ移行させないために、避けながらも離れることができないのかもしれない。
(このままでは、シンラがダメージを受けてしまう!)
お願い……動いて……。
もう、足動けっ!
足の震えをなんとか抑え、私はふらふらしながらも出来る限り駆け足で、悪鬼との距離を縮めていった。
『母さま、もう近づかなくて良いですよ。これで届きますっ。悪鬼の周りに空間を展開させて、別次元へっ……』
お腹の中が少々熱い……ベニモモちゃん、頑張って……。
『フゥ……展開できま……したっ! 父さまぁ! 今ですよっ!』
ベニモモちゃんの声かけを合図に、シンラは巨大な神力を悪鬼へと容赦なくぶつけた。
その際、シンラの力が強すぎて、ベニモモちゃんの作った空間はかなり歪んでしまったようだが、おかげで悪鬼は跡形もなく消し飛んでいる。
そして、悪鬼がいたはずの場所には、ベキベキっと透明なヒビが入っていて、なんとも不思議な光景が見えた。
シンラの力の影響か、振動で地面が揺れているが、建物や湖は特に変化することもなく無事だった。
たぶん、その場にいた人々は、ただの小さな地震だと思ったことだろう。
「ベニモモちゃん……大丈夫?」
『はい……でも、父さまの力を抑え込むのに、思ったより体力を取られてしまいました……すいません、もう意識が……』
ベニモモちゃんは限界だったようで、そう言った後、すぐに寝てしまった。
狐神とはいえ、まだまだ赤ちゃんだものね。
私はお休みと言って、腹を優しく撫でた。
シンラは湖の方から戻ってきて、私をぎゅっと抱きしめる。
「志帆……無事でよかった」
「シンラこそ……体は平気なの?」
「俺は大丈夫だよ。あんなのは簡単に弾けるけど、気を引くためにわざと受けてた。多少、着物が焼けただけ。紅百が間に合わなくて、志帆が狙われてしまうくらいなら、上にある建物ごと悪鬼を吹き飛ばすし」
ひぇ、そこに躊躇はないのですね。
うっかり近づき過ぎたりして、私が狙われなくて良かったです。
それにしても、やはりシンラってとんでもない力を持った神様なのだなぁと、今回のことでしみじみと感じました。
ベニモモちゃんの能力も凄まじいですが……すごさのベクトルがまず違いますね。
◇ ◇ ◇
私とシンラはこのまま山梨の隠し村へと帰った。
そして神たちの家までひとっ飛びだ。
シンラとは屋上から入ったので、昇降機を待つまでもなく、そのまま二人で階段を降りた。
そろそろ日も暮れてくる頃である。
「紅百が寝たならチャンスだな」
「シンラ……?」
「二週間ぶりなんだよ? 良いことした褒美をちょうだいよ」
寝室に戻ったとたん、シンラはそういって戸惑う私の口を塞いだ。
シンラの舌が私の舌と絡み、いつもより激しいそれは、口から唾液が漏れるのも気にせずに続いた。
「シ……ンラぁ……もう、息が……」
間髪入れずに続く舌の愛撫に、私の頭は真っ白になっていく。
私の足がカクンと崩れたところで、シンラに腰を支えられてゆっくりとベッドの方へ寝かされた。
そしてその状態のまま、シンラは私の耳を舐めたり、首を吸ったりとやりたい放題だ。
(このまま……始まって……しまう?)
そう覚悟したが、シンラの手が私の着物にかかったところで、突然動きが止まった。
「……あぁ、ごめん。欲求不満すぎて我を失っていた。まぁ俺の服もアレだし、とりあえず湯屋に入るか」
「よ、欲求不満て……そんなに?」
「この二週間は相当我慢した……よ?」
「んっ……」
耳元でそう囁かれ、私の顔はカァァと熱くなる。
シンラのような綺麗な男性に、余裕なさそうな顔でそこまで求められたら、こちらも正気なんかではいられませんね。
私の女の部分がジワっと熱くなるのを感じた。
(でも、とりあえず止まってくれて良かったです。湖の方で一労働しましたし、汗を流したかったので……)
シンラは名残惜しそうに体を離し、荒い呼吸をしながらこちらをじっと見ている。
私も起き上がり、静かにベッドから降りた。
「では、シンラが先に入りますか?」
「は? なんで? 別に一緒で良いでしょ。風呂でまず一回、ベッドでは……紅百が起きるまでかな。ハァ、もう無理……このままじゃ、また襲っちゃうから、早く湯屋にっ!」
シンラはそう言って、私を抱きながら湯屋の方へと駆けていく。
私は、疲れ知らずな神様に恐ろしいことを宣言されて、思わず体が固まってしまいました。
ベニモモちゃんが起きるまでって……この状態だとおそらく当分は起きなさそうですよ?
え、これって……世に言う絶倫というコースのやつですか?!
そんなの無理ですっ。
ある程度近づいたところで、今度はシンラが湖側から真っ正面に飛んでいった。
シンラや私の姿は、今でも人間には見えていないはずだ。
しかし、妄執の塊である悪鬼にはシンラの姿がわかるらしく、耳を劈くような……不快な雄叫びをあげながら警戒をしていた。
この悪鬼は突然現れたシンラに抵抗しているのか、体から黒くて気持ちの悪い霊気を発して、ジワジワと周りへと広げている。
このままでは崖の上に建っている建物にまで届いてしまうだろう。
早めに手を打たなければ、被害が出てしまうかもしれない。
しかし、こんなことに慣れていない私は、悪鬼の禍々しさや怖さに圧倒され、自然と体がたじろいでしまう。
『……困りました。思っていたよりも私の能力が届きません……母さま、もう少しだけ近づけますか?』
「ベニモモちゃん、どうしよう……足がすくんで……」
私の足は今、震えてしまって思うように進めない。
(悪鬼がこんなに恐ろしいものとは……)
『父さまも、このままでは動けませんね……』
悪鬼は、シンラに向かって黒い触手のようなものを一直線に何度も飛ばしている。
うまく避けているシンラだが、かすった服の部分は焦げていたり溶けたりしていた。
シンラはまだ攻撃が出来ない上、悪鬼の注意が私の方へ移行させないために、避けながらも離れることができないのかもしれない。
(このままでは、シンラがダメージを受けてしまう!)
お願い……動いて……。
もう、足動けっ!
足の震えをなんとか抑え、私はふらふらしながらも出来る限り駆け足で、悪鬼との距離を縮めていった。
『母さま、もう近づかなくて良いですよ。これで届きますっ。悪鬼の周りに空間を展開させて、別次元へっ……』
お腹の中が少々熱い……ベニモモちゃん、頑張って……。
『フゥ……展開できま……したっ! 父さまぁ! 今ですよっ!』
ベニモモちゃんの声かけを合図に、シンラは巨大な神力を悪鬼へと容赦なくぶつけた。
その際、シンラの力が強すぎて、ベニモモちゃんの作った空間はかなり歪んでしまったようだが、おかげで悪鬼は跡形もなく消し飛んでいる。
そして、悪鬼がいたはずの場所には、ベキベキっと透明なヒビが入っていて、なんとも不思議な光景が見えた。
シンラの力の影響か、振動で地面が揺れているが、建物や湖は特に変化することもなく無事だった。
たぶん、その場にいた人々は、ただの小さな地震だと思ったことだろう。
「ベニモモちゃん……大丈夫?」
『はい……でも、父さまの力を抑え込むのに、思ったより体力を取られてしまいました……すいません、もう意識が……』
ベニモモちゃんは限界だったようで、そう言った後、すぐに寝てしまった。
狐神とはいえ、まだまだ赤ちゃんだものね。
私はお休みと言って、腹を優しく撫でた。
シンラは湖の方から戻ってきて、私をぎゅっと抱きしめる。
「志帆……無事でよかった」
「シンラこそ……体は平気なの?」
「俺は大丈夫だよ。あんなのは簡単に弾けるけど、気を引くためにわざと受けてた。多少、着物が焼けただけ。紅百が間に合わなくて、志帆が狙われてしまうくらいなら、上にある建物ごと悪鬼を吹き飛ばすし」
ひぇ、そこに躊躇はないのですね。
うっかり近づき過ぎたりして、私が狙われなくて良かったです。
それにしても、やはりシンラってとんでもない力を持った神様なのだなぁと、今回のことでしみじみと感じました。
ベニモモちゃんの能力も凄まじいですが……すごさのベクトルがまず違いますね。
◇ ◇ ◇
私とシンラはこのまま山梨の隠し村へと帰った。
そして神たちの家までひとっ飛びだ。
シンラとは屋上から入ったので、昇降機を待つまでもなく、そのまま二人で階段を降りた。
そろそろ日も暮れてくる頃である。
「紅百が寝たならチャンスだな」
「シンラ……?」
「二週間ぶりなんだよ? 良いことした褒美をちょうだいよ」
寝室に戻ったとたん、シンラはそういって戸惑う私の口を塞いだ。
シンラの舌が私の舌と絡み、いつもより激しいそれは、口から唾液が漏れるのも気にせずに続いた。
「シ……ンラぁ……もう、息が……」
間髪入れずに続く舌の愛撫に、私の頭は真っ白になっていく。
私の足がカクンと崩れたところで、シンラに腰を支えられてゆっくりとベッドの方へ寝かされた。
そしてその状態のまま、シンラは私の耳を舐めたり、首を吸ったりとやりたい放題だ。
(このまま……始まって……しまう?)
そう覚悟したが、シンラの手が私の着物にかかったところで、突然動きが止まった。
「……あぁ、ごめん。欲求不満すぎて我を失っていた。まぁ俺の服もアレだし、とりあえず湯屋に入るか」
「よ、欲求不満て……そんなに?」
「この二週間は相当我慢した……よ?」
「んっ……」
耳元でそう囁かれ、私の顔はカァァと熱くなる。
シンラのような綺麗な男性に、余裕なさそうな顔でそこまで求められたら、こちらも正気なんかではいられませんね。
私の女の部分がジワっと熱くなるのを感じた。
(でも、とりあえず止まってくれて良かったです。湖の方で一労働しましたし、汗を流したかったので……)
シンラは名残惜しそうに体を離し、荒い呼吸をしながらこちらをじっと見ている。
私も起き上がり、静かにベッドから降りた。
「では、シンラが先に入りますか?」
「は? なんで? 別に一緒で良いでしょ。風呂でまず一回、ベッドでは……紅百が起きるまでかな。ハァ、もう無理……このままじゃ、また襲っちゃうから、早く湯屋にっ!」
シンラはそう言って、私を抱きながら湯屋の方へと駆けていく。
私は、疲れ知らずな神様に恐ろしいことを宣言されて、思わず体が固まってしまいました。
ベニモモちゃんが起きるまでって……この状態だとおそらく当分は起きなさそうですよ?
え、これって……世に言う絶倫というコースのやつですか?!
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