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第三章
二十五話
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私はなぜ、今回の旅行にこの場所を選んだのだっけ……。
そうだ、何かこの場に来なければいけないような気がしていたのだ。
そもそもあんな山の中に一人で入っていくなど、普段の自分なら考えられないことだ。
シンラが私を迎えにきたのも、おそらく必然だったのだろう。
全てはあの事故から繋がっていたなんて……。
「志帆?」
「思い出した……全部……!」
そう自覚した途端、体の中で自分の心臓とは違う、ドクンと脈打つものを感じた。
腹の内側を何かがなぞるような感じがして、まるで突然息を吹き返したかように、体の中の命が明確に動き出す。
「あ……」
私は慣れぬ感覚に思わず腹を抱えて疼くまった。
痛いわけじゃないのだけど、中の違和感はすごい。
「志帆? もしかして苦しいの? 俺が今、その腹の中を消し……」
私は首を横に振り、腹に手をかけようとするシンラを慌てて止めた。
「ま、待って、この子は消さないで。シンラに娶られ次の狐神を産むのは、16歳で死ぬはずだった私が生かされた代わりに負う役目……宿命だったの。両親が蒼髪の狐神に頼んだことへの恩を、今こそ返さなくちゃいけない」
私の言葉を聞いたシンラは、どういうことかと大層驚いている。
「やっと全部思い出したの……」
「志帆、ちゃんと一から説明して……」
私はシンラと部屋の中へ戻ったあと、六年前の事故のことや、黄泉の世界との狭間で実際に体験した蒼髪の狐神とのやり取りを、全てシンラに伝えた。
「あの山で俺が志帆を見つけたのは、偶然じゃなかったということか」
「たぶん……」
おそらく、それも最初から決まっていたことだったのだと思う。
最古の狐神が消えてしまった今となっては、詳しいことはよく分からないけども。
そして、私の命を助けた蒼髪の狐神だけど皇蒼狐という名前であったと、シンラから教えてもらった。
現在、存在する神の中では一番古い狐神だったのだという。
「狐神は消える時に、次を指定できるなんて知らなかったよ。だから出現の仕方がバラバラだったのかもな。一度は志帆の命を助けた皇蒼狐のことだ。志帆が神を産むのに耐えられるよう、すでに体を創り変えているかもしれない」
本当にそんなことが?
実際、痛みとか今は全然なくて、さっきまで感じていた違和感も薄まってきているのは確かだ。自分の体なのに不思議である。
「故人である志帆の両親と正式に契約していたのなら、おそらく可能……ふむ、それならば、これからも気にせず愛し合ったとしても、きっと構わないな」
シンラ、今度は一体なんの話でしょうか。
そして、今まさに綺麗な顔を近づけてきますけど……え、まさか……。
『父さま、少しは自重してください』
「……?」
「……は?」
聞き覚えのない子供の声が突如、私たちの周りに響いた。え、一体どこから?
『父さまは、母さまに対してエロすぎます』
「……へ?」
「うそだろ」
父さま、母さま?
これは……まさか、お腹の中から聞こえている?
『私は何年も母さまの中にいたのです。父さまが母さまに最初に注いだ時に、ようやく形ができました。まだその時は話せなかったですけど、今、母さまが私を自覚したことで一気に成長が進みました』
注いだとか言わないでください……。
狐神の成長は早いと言っていたけども、さすがにこれは早すぎでは……それに……。
「皇蒼狐様は、互いに愛すことができたら宿ると言っていたのに……そんな初めから、あなたは形ができたの?」
『そうですよ。そもそも初めて会った時からお二人は惹かれ合っていたじゃないですか。両方どストライクなくせに』
どスト……そんな言葉、この子は一体どこから覚えたんでしょう。
「……俺はそうだったけど、志帆も?」
シンラに顔を覗かれて、私の頬は真っ赤に染まった。
そんな私をシンラは可愛いと抱き締めてくるから、さらに耳まで赤くなっていく。
すると、シンラはゆっくり唇を重ねようとしてくるが……。
『ちょっと!』
「……なに」
『父さまはもう、言ってるそばから……』
「別に今更だろう?」
相手は狐神の胎仔だからだろうか?
シンラと同レベルに会話が成り立っていて、摩訶不思議だ。
「この子の言う通りですよ、シンラ。少し抑えていただきたいものです……と、そういえばこの子の名前はどうしようかな。いつまでもこの子じゃ可哀想。シンラたちの名前はやっぱり産んだ妖狐がつけたの?」
「これでも抑えてる方なのに……。名前はそう、妖狐は単純だから、髪の色とか見た目でつけるようだね。俺を産んだ妖狐は皇蒼狐に近い身分の者で、その縁から俺は蒼狐神羅と名付けられた。苗字まであるのは狐神でも珍しいよ」
これでも抑えてるって、末恐ろしいのですけど……。
シンラの名前はトウワさんたちと違って、本当に神様ですって感じですものね。
最初に名前を教えてもらった時は、普通に凄い名だなと思っていましたが。
そもそも神社のお家の方だと勝手に思い込んでいましたし……。
もちろん、他の狐神のお名前も素敵ですけれど。
『名前をつけてくださるのは嬉しいですね。私はたぶん、母さまと同じ性別です。姿も母さまに似て生まれてくると思います。耳と尻尾はありますが』
「あなたは女の子の狐神なんですね」
「おい、娘、お前は生まれたら、即別室だからな?」
シンラ、相手は狐神とはいえ、自分の子にいささか態度が冷たすぎでは?
『父さまは大人気がないですね。まぁいいでしょう。あと二ヶ月も経たずに腹から出ていきますから、安心してください。そして、それで母さまが苦しむことも腹が膨れることもありません。今の私は母さまの腹の中に、別次元の空間を作ってそこで体を成長させていますから』
はぃ?
腹の中に別次元の空間?
なんですか、その急なファンタジー展開は……。
「これはこれは……大層立派な力を持つ孝行娘であるな。志帆を苦しめないことには大賛成だが」
『さっきお腹を痛くしてしまったのは、まだその力が完全ではなかったから。でも、今は大丈夫です』
なんだか、とんでもない話になってきました。
ただの人間の私には到底、理解が追いつかない。
そして、母体を気遣う赤ちゃんというのも凄いですね。
『母さまが人間なので、力の方はたぶん今の父さまには遠く敵いませんが、私は私で優れた能力があります。まずはこの知能の高さと人に似た感情を生まれ持ったことですかね。きっと他にもペラペラ……』
「こいつ話せるようになったら、急にお喋りだなぁ。いつ切れるんだ」
「はは、可愛いですけどね……」
変な話ではありますが、まだ生まれてもいないのに家族が一人増えたようです。
そうだ、何かこの場に来なければいけないような気がしていたのだ。
そもそもあんな山の中に一人で入っていくなど、普段の自分なら考えられないことだ。
シンラが私を迎えにきたのも、おそらく必然だったのだろう。
全てはあの事故から繋がっていたなんて……。
「志帆?」
「思い出した……全部……!」
そう自覚した途端、体の中で自分の心臓とは違う、ドクンと脈打つものを感じた。
腹の内側を何かがなぞるような感じがして、まるで突然息を吹き返したかように、体の中の命が明確に動き出す。
「あ……」
私は慣れぬ感覚に思わず腹を抱えて疼くまった。
痛いわけじゃないのだけど、中の違和感はすごい。
「志帆? もしかして苦しいの? 俺が今、その腹の中を消し……」
私は首を横に振り、腹に手をかけようとするシンラを慌てて止めた。
「ま、待って、この子は消さないで。シンラに娶られ次の狐神を産むのは、16歳で死ぬはずだった私が生かされた代わりに負う役目……宿命だったの。両親が蒼髪の狐神に頼んだことへの恩を、今こそ返さなくちゃいけない」
私の言葉を聞いたシンラは、どういうことかと大層驚いている。
「やっと全部思い出したの……」
「志帆、ちゃんと一から説明して……」
私はシンラと部屋の中へ戻ったあと、六年前の事故のことや、黄泉の世界との狭間で実際に体験した蒼髪の狐神とのやり取りを、全てシンラに伝えた。
「あの山で俺が志帆を見つけたのは、偶然じゃなかったということか」
「たぶん……」
おそらく、それも最初から決まっていたことだったのだと思う。
最古の狐神が消えてしまった今となっては、詳しいことはよく分からないけども。
そして、私の命を助けた蒼髪の狐神だけど皇蒼狐という名前であったと、シンラから教えてもらった。
現在、存在する神の中では一番古い狐神だったのだという。
「狐神は消える時に、次を指定できるなんて知らなかったよ。だから出現の仕方がバラバラだったのかもな。一度は志帆の命を助けた皇蒼狐のことだ。志帆が神を産むのに耐えられるよう、すでに体を創り変えているかもしれない」
本当にそんなことが?
実際、痛みとか今は全然なくて、さっきまで感じていた違和感も薄まってきているのは確かだ。自分の体なのに不思議である。
「故人である志帆の両親と正式に契約していたのなら、おそらく可能……ふむ、それならば、これからも気にせず愛し合ったとしても、きっと構わないな」
シンラ、今度は一体なんの話でしょうか。
そして、今まさに綺麗な顔を近づけてきますけど……え、まさか……。
『父さま、少しは自重してください』
「……?」
「……は?」
聞き覚えのない子供の声が突如、私たちの周りに響いた。え、一体どこから?
『父さまは、母さまに対してエロすぎます』
「……へ?」
「うそだろ」
父さま、母さま?
これは……まさか、お腹の中から聞こえている?
『私は何年も母さまの中にいたのです。父さまが母さまに最初に注いだ時に、ようやく形ができました。まだその時は話せなかったですけど、今、母さまが私を自覚したことで一気に成長が進みました』
注いだとか言わないでください……。
狐神の成長は早いと言っていたけども、さすがにこれは早すぎでは……それに……。
「皇蒼狐様は、互いに愛すことができたら宿ると言っていたのに……そんな初めから、あなたは形ができたの?」
『そうですよ。そもそも初めて会った時からお二人は惹かれ合っていたじゃないですか。両方どストライクなくせに』
どスト……そんな言葉、この子は一体どこから覚えたんでしょう。
「……俺はそうだったけど、志帆も?」
シンラに顔を覗かれて、私の頬は真っ赤に染まった。
そんな私をシンラは可愛いと抱き締めてくるから、さらに耳まで赤くなっていく。
すると、シンラはゆっくり唇を重ねようとしてくるが……。
『ちょっと!』
「……なに」
『父さまはもう、言ってるそばから……』
「別に今更だろう?」
相手は狐神の胎仔だからだろうか?
シンラと同レベルに会話が成り立っていて、摩訶不思議だ。
「この子の言う通りですよ、シンラ。少し抑えていただきたいものです……と、そういえばこの子の名前はどうしようかな。いつまでもこの子じゃ可哀想。シンラたちの名前はやっぱり産んだ妖狐がつけたの?」
「これでも抑えてる方なのに……。名前はそう、妖狐は単純だから、髪の色とか見た目でつけるようだね。俺を産んだ妖狐は皇蒼狐に近い身分の者で、その縁から俺は蒼狐神羅と名付けられた。苗字まであるのは狐神でも珍しいよ」
これでも抑えてるって、末恐ろしいのですけど……。
シンラの名前はトウワさんたちと違って、本当に神様ですって感じですものね。
最初に名前を教えてもらった時は、普通に凄い名だなと思っていましたが。
そもそも神社のお家の方だと勝手に思い込んでいましたし……。
もちろん、他の狐神のお名前も素敵ですけれど。
『名前をつけてくださるのは嬉しいですね。私はたぶん、母さまと同じ性別です。姿も母さまに似て生まれてくると思います。耳と尻尾はありますが』
「あなたは女の子の狐神なんですね」
「おい、娘、お前は生まれたら、即別室だからな?」
シンラ、相手は狐神とはいえ、自分の子にいささか態度が冷たすぎでは?
『父さまは大人気がないですね。まぁいいでしょう。あと二ヶ月も経たずに腹から出ていきますから、安心してください。そして、それで母さまが苦しむことも腹が膨れることもありません。今の私は母さまの腹の中に、別次元の空間を作ってそこで体を成長させていますから』
はぃ?
腹の中に別次元の空間?
なんですか、その急なファンタジー展開は……。
「これはこれは……大層立派な力を持つ孝行娘であるな。志帆を苦しめないことには大賛成だが」
『さっきお腹を痛くしてしまったのは、まだその力が完全ではなかったから。でも、今は大丈夫です』
なんだか、とんでもない話になってきました。
ただの人間の私には到底、理解が追いつかない。
そして、母体を気遣う赤ちゃんというのも凄いですね。
『母さまが人間なので、力の方はたぶん今の父さまには遠く敵いませんが、私は私で優れた能力があります。まずはこの知能の高さと人に似た感情を生まれ持ったことですかね。きっと他にもペラペラ……』
「こいつ話せるようになったら、急にお喋りだなぁ。いつ切れるんだ」
「はは、可愛いですけどね……」
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