23 / 41
第三章
二十三話
しおりを挟む
「よぉ、村が大騒ぎになってたから来てみたが」
聞き慣れた声だ。
この声は……。
「燈倭……」
やっぱりトウワさん……心配になって来てくれたのかな。
彼も村の妖狐たちに、今はっきりと姿を見られてしまっているけど、大丈夫なのだろうか。
うっ……またお腹がズキっとする。
心なしか胃もムカムカするような……。
「ん? 志帆殿、どうした?」
「実はお腹が痛くて……」
トウワさんは何か変なものでも食べたのか? と聞いてくるが、そこの店のお団子しか食べていないことを伝えると、あれはもち米で作ってあって、人間でも普通に食べれるやつだと教えてくれた。
じゃあ、やっぱりこの腹痛は別の理由のようだ。
「燈倭、とりあえずこのままだと志帆の体に障る。できれば場所を変えたい。話したいことがあるから、戻ったら俺の階層まで来てくれ。入口で少し待ってもらうことになるとは思うが」
「おう、わかったぜ」
トウワさんの返事にシンラは黙って頷き、二人は姿を消して空を飛んだ。
私の姿も今は見えなくなっているようで、村の妖狐たちは皆あさっての方向を見渡しながら、二人の名前をしきりに呼んでいた。
◇ ◇ ◇
私はシンラに抱き抱えられた状態で寝室まで戻ると、すぐに体を降ろしてもらった。
お腹の痛みには波があって、今はちょっと平気である。
私はその場でシンラにお礼を言って、腰につけたままだったファーの尻尾を外し、買った鞄と一緒に横の棚に置いた。
次いで湯屋のところの洗面所に行き、メイクを落とす。
来ていた着物は盗賊に転ばされ汚れてしまったので、サノメがすでに用意してくれていた浴衣に着替えた。
部屋に戻るため廊下を歩いていたら、またお腹が痛み出したため、たまらず床にしゃがみこんだ。
すると、様子を見ていたシンラがすぐにやってきて、ベッドまで連れてきてくれる。
「シンラ、何度もありがとう……」
「いや」
私が準備を終えるまで、入口の方で待っていてくれていたトウワさん。
彼を呼び寄せたシンラは、寝室の床に胡座をかいて座った。
どうやら今日は客間ではなく、ここでトウワさんと話しをするつもりみたいだ。
私にも聞かせるためだろうか。
「んで? どうしたんだよ。志帆殿は妖狐に擬態して村を堪能してたんじゃないんか? なんであんな騒ぎに?」
「あ? あぁ、そっちはね……」
「トウワさん、実は私が村で盗賊に遭ってしまって、あそこで妖狐の髪の毛を外されてしまったの……」
「あぁ、それで神羅が出でこずにはいられなかったのか」
「まぁ、そういうこと」
それは別に良いんだけど、とシンラが付け加えたあと、それよりももっと大きな問題ができたと、深刻な顔でトウワさんに告げた。
「燈倭……志帆も聞いてくれ……腹痛の原因は、志帆が新しい神を身籠っていたからだ……さっき腹に触ったら、七神以外の狐神エネルギーを強く感じた」
「へ?」
「は?」
私とトウワさんは同時に驚きの声をあげた。
え……嘘でしょう?
まさかシンラの子を妊娠?
もしかしてこの痛みや吐き気は……妊娠の初期症状なの……!
「はぁ?! なんだ、そりゃ……人は神の子を身籠らないんじゃなかったのかよ?!」
「前例がないだけで、身籠らないとは決まっていない。なぁ……燈倭は、志帆の中にいるのが、本当に俺たちの子だと思うか?」
「普通に思うが? お前ら、たぶんそれなりにヤリまくってただろう?」
(ト、トウワさん……そんな大声で……)
シンラはそういう事じゃないんだと真剣な顔で言った。
「普通に妊娠ではなく、次の狐神が生まれるためのただの器にされている可能性もある。それに、成長が早く莫大なエネルギーを持つ狐神なんか産んだら、志帆の体はどうなる? 妖狐とは体の造りが全然違うんだぞ? まだ胎仔が大きくない今のうちに、俺がこの手で消すべきではないかと考えているんだが……」
そんな……そんな……。
でも、もしもシンラと私の子どもだったら?
まだ何も分からないうちに消してしまってもいいの?
急に色々と怖い話ばかり聞かされて、不安ばかりが募る。
私は一体どうしたらいいのだろう。
「神羅、らしくねぇな。ちょっと落ち着けよ……まぁ、確かに心配だが、そこはじじぃ供に相談した方がいいんじゃねぇか? それにまだお前らの子じゃないって決まったわけじゃねぇんだぞ? 前例がないってお前もさっき言ってた通り、神と人間の異類婚でもたまたま体の波長が合っちまったとかあんだろ?」
「そうだとしても……志帆の命には代えられない。それに年寄りどもには相談できない。なぁ、燈倭、なぜこの村にはいつも八神が揃うと思う? このY山が八つに分かれている山だからだ。だから、欠けた分は絶対にあとで補充される。お告げがあって他所の狐神がやってくる場合もあるが、今は妖狐から生まれる方が多い。その方が都合が良い理由があるんだ」
Y山が八つの山に分かれているから、ここの神の数も八?
ここの狐神が八神であることは、何か意味があるんだろうなとは思っていたけども……。
「都合が良い理由ってのはなんだよ?」
「この前消えた最古の狐神に、俺の力が他の狐神より規格外な原因は、俺を産んだ妖狐の能力が異常なほど高かったからだと、過去に聞かされたことがある」
「産んだ妖狐の力が左右されるなんて初めて聞いたぜ」
シンラのお母さんはとても能力の高い妖狐さんだったんだね。
でも、同じ狐神のトウワさんですら知らないなんて……他の狐神も把握していないのだろうか。
「もし、次に生まれてくる狐神が、俺の力を受け継いだ神だったら? しかも事実上は人間とのハーフだ」
「その神の力は計り知れねぇ……さらに言えば、人間との縁がまたできる……もしかして、それが狙いか? それだと最古の狐神が消えたタイミングも怪しいぞ」
「……そういうこと。今回の嫁取りも、結界の入口が消えたことも、どうにも踊らされているような気がしてならない」
人間との縁……。
私が新しい神を産んで育てれば、私たち嫁の生死を問わず、この子の力で人間側の世界も守ることが可能ということだろうか。
それならば、この子が生きている限りは天変地異も防げる?
しかも生贄や誘拐のような形で狐神が嫁を娶ることもなくなる……。
それって……。
聞き慣れた声だ。
この声は……。
「燈倭……」
やっぱりトウワさん……心配になって来てくれたのかな。
彼も村の妖狐たちに、今はっきりと姿を見られてしまっているけど、大丈夫なのだろうか。
うっ……またお腹がズキっとする。
心なしか胃もムカムカするような……。
「ん? 志帆殿、どうした?」
「実はお腹が痛くて……」
トウワさんは何か変なものでも食べたのか? と聞いてくるが、そこの店のお団子しか食べていないことを伝えると、あれはもち米で作ってあって、人間でも普通に食べれるやつだと教えてくれた。
じゃあ、やっぱりこの腹痛は別の理由のようだ。
「燈倭、とりあえずこのままだと志帆の体に障る。できれば場所を変えたい。話したいことがあるから、戻ったら俺の階層まで来てくれ。入口で少し待ってもらうことになるとは思うが」
「おう、わかったぜ」
トウワさんの返事にシンラは黙って頷き、二人は姿を消して空を飛んだ。
私の姿も今は見えなくなっているようで、村の妖狐たちは皆あさっての方向を見渡しながら、二人の名前をしきりに呼んでいた。
◇ ◇ ◇
私はシンラに抱き抱えられた状態で寝室まで戻ると、すぐに体を降ろしてもらった。
お腹の痛みには波があって、今はちょっと平気である。
私はその場でシンラにお礼を言って、腰につけたままだったファーの尻尾を外し、買った鞄と一緒に横の棚に置いた。
次いで湯屋のところの洗面所に行き、メイクを落とす。
来ていた着物は盗賊に転ばされ汚れてしまったので、サノメがすでに用意してくれていた浴衣に着替えた。
部屋に戻るため廊下を歩いていたら、またお腹が痛み出したため、たまらず床にしゃがみこんだ。
すると、様子を見ていたシンラがすぐにやってきて、ベッドまで連れてきてくれる。
「シンラ、何度もありがとう……」
「いや」
私が準備を終えるまで、入口の方で待っていてくれていたトウワさん。
彼を呼び寄せたシンラは、寝室の床に胡座をかいて座った。
どうやら今日は客間ではなく、ここでトウワさんと話しをするつもりみたいだ。
私にも聞かせるためだろうか。
「んで? どうしたんだよ。志帆殿は妖狐に擬態して村を堪能してたんじゃないんか? なんであんな騒ぎに?」
「あ? あぁ、そっちはね……」
「トウワさん、実は私が村で盗賊に遭ってしまって、あそこで妖狐の髪の毛を外されてしまったの……」
「あぁ、それで神羅が出でこずにはいられなかったのか」
「まぁ、そういうこと」
それは別に良いんだけど、とシンラが付け加えたあと、それよりももっと大きな問題ができたと、深刻な顔でトウワさんに告げた。
「燈倭……志帆も聞いてくれ……腹痛の原因は、志帆が新しい神を身籠っていたからだ……さっき腹に触ったら、七神以外の狐神エネルギーを強く感じた」
「へ?」
「は?」
私とトウワさんは同時に驚きの声をあげた。
え……嘘でしょう?
まさかシンラの子を妊娠?
もしかしてこの痛みや吐き気は……妊娠の初期症状なの……!
「はぁ?! なんだ、そりゃ……人は神の子を身籠らないんじゃなかったのかよ?!」
「前例がないだけで、身籠らないとは決まっていない。なぁ……燈倭は、志帆の中にいるのが、本当に俺たちの子だと思うか?」
「普通に思うが? お前ら、たぶんそれなりにヤリまくってただろう?」
(ト、トウワさん……そんな大声で……)
シンラはそういう事じゃないんだと真剣な顔で言った。
「普通に妊娠ではなく、次の狐神が生まれるためのただの器にされている可能性もある。それに、成長が早く莫大なエネルギーを持つ狐神なんか産んだら、志帆の体はどうなる? 妖狐とは体の造りが全然違うんだぞ? まだ胎仔が大きくない今のうちに、俺がこの手で消すべきではないかと考えているんだが……」
そんな……そんな……。
でも、もしもシンラと私の子どもだったら?
まだ何も分からないうちに消してしまってもいいの?
急に色々と怖い話ばかり聞かされて、不安ばかりが募る。
私は一体どうしたらいいのだろう。
「神羅、らしくねぇな。ちょっと落ち着けよ……まぁ、確かに心配だが、そこはじじぃ供に相談した方がいいんじゃねぇか? それにまだお前らの子じゃないって決まったわけじゃねぇんだぞ? 前例がないってお前もさっき言ってた通り、神と人間の異類婚でもたまたま体の波長が合っちまったとかあんだろ?」
「そうだとしても……志帆の命には代えられない。それに年寄りどもには相談できない。なぁ、燈倭、なぜこの村にはいつも八神が揃うと思う? このY山が八つに分かれている山だからだ。だから、欠けた分は絶対にあとで補充される。お告げがあって他所の狐神がやってくる場合もあるが、今は妖狐から生まれる方が多い。その方が都合が良い理由があるんだ」
Y山が八つの山に分かれているから、ここの神の数も八?
ここの狐神が八神であることは、何か意味があるんだろうなとは思っていたけども……。
「都合が良い理由ってのはなんだよ?」
「この前消えた最古の狐神に、俺の力が他の狐神より規格外な原因は、俺を産んだ妖狐の能力が異常なほど高かったからだと、過去に聞かされたことがある」
「産んだ妖狐の力が左右されるなんて初めて聞いたぜ」
シンラのお母さんはとても能力の高い妖狐さんだったんだね。
でも、同じ狐神のトウワさんですら知らないなんて……他の狐神も把握していないのだろうか。
「もし、次に生まれてくる狐神が、俺の力を受け継いだ神だったら? しかも事実上は人間とのハーフだ」
「その神の力は計り知れねぇ……さらに言えば、人間との縁がまたできる……もしかして、それが狙いか? それだと最古の狐神が消えたタイミングも怪しいぞ」
「……そういうこと。今回の嫁取りも、結界の入口が消えたことも、どうにも踊らされているような気がしてならない」
人間との縁……。
私が新しい神を産んで育てれば、私たち嫁の生死を問わず、この子の力で人間側の世界も守ることが可能ということだろうか。
それならば、この子が生きている限りは天変地異も防げる?
しかも生贄や誘拐のような形で狐神が嫁を娶ることもなくなる……。
それって……。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

この度、運命の番に選ばれまして
四馬㋟
恋愛
※章ごとに主人公が変わるオムニバス形式
・青龍の章:
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
・朱雀の章:
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……


タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる