隠し村の狐神〜異類婚姻譚〜

みなみ抄花

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第三章

二十二話

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 あの屋台の食べ物、お団子みたいな見た目で美味しそうだ。
 これなら人間でも食べられるだろうか。
(シンラたちは基本的に食事をしないから、私はサノメの持ってきてくれる人間用のご飯しか食べたことないんですよね)
 シンラにもらった小判数枚をポケットからそっと出してみる。
 小判て……なんかすごく高価な気もするんだけど、普通のものも買えるのかな……。

「あの、すみません、これでそのお団子買えますか?」
「いらっしゃい……これは純金の小判?! お嬢さんどこの家のお方だい? これ一枚でここら一帯の店の商品丸ごと買ってもお釣りがくるよ」
「うっそ……」
 小判てそんなに高価だったんだ……。
 でもそうだよね……昔のお殿様とかが使ってるイメージだもの。
「ちょうどあそこに両替してくれる店があるから、行ってみたらどうだい? 多分相当な量になるから、この布袋をやるよ。袋の代金は両替の後でくれれば良いから」
「は、はい……何から何まで、すみません」
 シンラったら、なんてお金をくれたのかしら。
 小判これじゃあ、庶民的なものが何も買えません。
 私はなんとか頼み込んで両替をしてもらったあと、さっきのお店で団子を買った。
 ついで布袋のお金も払う。
 それにしても、小判を細かいお金にしてもらったら、こんな大量の小銭ができるなんて……正直重い。

 私は村をうろうろして、色々と気になったものを購入した後、少しさびれた空き地まで来た。
 そして、大きな石の上に腰を下ろす。
 買ったお団子を食べてみたが、普通に甘辛くて美味しい。
 味はみたらし団子に似ているが、思っていたよりはずっと甘めな感じである。
 団子を食べ終え、腹も膨れたところで私は、さっき手に入れたかんざしの細工物を袋から出してみた。金色に光っていて、とても綺麗な模様である。
(素敵だったから、思わず買ってしまいました。普段着ている着物に似合うかと思って……)
 それ以外にも色々買ったが、とりあえず一番のお気に入りはアンティーク感のある肩かけタイプのこの皮鞄。
 茶の地にシンプルな形だけど、使いやすくて持ち手も可愛いの。
 しかし、少し調子にのってあちこち村を見過ぎたのか、気づいたらすでに正午を回っていた。
 上で見張っているシンラにも迷惑をかけているだろうし、そろそろ戻らねば……と、私は立ち上がる。

「金持ちのお嬢さんってあんたかい?」
「え……」
「その鞄、よこしな」
 や、やばい……強盗ですかね。
 狐寄りの顔しているけど、とても大きな妖狐の二人組です。武器は持ってなさそうですが、力だけでも絶対に敵わなそう。
 高額なお金を村で安易に出してしまったのは、やはりいけなかったのかもしれない。
 私は彼らが距離を詰める前に、先ほどの賑やかな屋台がある方へと思い切りよく走った。
 たぶん追いつかれるかもしれないけれど、できる限り目立つ場所へ……捕まったら、お金を渡した瞬間にまた逃げてしまうしかない。

 つっ……?
 どうしたんだろう。
 なんか走っていてお腹の方が妙に痛む。
 食べて急に走ったから?
 でも、それだと脇腹が痛いはずだよね。
 どちらかというと痛いのはお腹の下の方……もしかしてさっきの団子、人間の体に合わなかったしら。
 うぅ、こんなときに……。
 屋台が並んでいるところまで、あと少しというところで、盗賊に後ろから髪の毛を強く引っ張られた。
 その際に、つけ耳のウィッグが取れてしまう。
「キャア!」
「へ、なんだぁ? ……おまえ人間か?!」
 これはお金を取られるよりヤバイです。
 どうしよう……急いでどこかに隠れないと。
 でも、もう一人の盗賊に腕を掴まれてしまっていますし、異変に気づいた村の妖狐たちが、周りにどんどん集まってきています。

「離して……」
「この人間がっ! 逃すかっ!」
「お、おい、お前待て! 女の後ろを見ろ!」
「あ?」
 盗賊の目線の先へと振り向くと、そこには銀の髪と九尾の尻尾を持つシンラの姿があった。
「な、狐神……しかも神羅様?! まさか……この人間、いやこのお方は……」
「そんな、神羅様がなぜこんなところに……」
「俺の……嫁だ。お前ら、その汚い手を離せ」
 シンラの登場で、周りにはますますギャラリーが増えてきている。
 それにしても、これが神の本気のオーラ……すごい威圧感である。
 私も盗賊もシンラの神気しんきに圧倒され、一瞬で体が固まってしまった。
(シンラ……村の妖狐たちにバレちゃう……私のことがバレちゃうよ)
 盗賊はシンラの気迫にたまらず、慌てて逃げようとするが、後ろから放たれた神力が体を貫き、突然地面に倒れた。
 目立った外傷はないから、気を失っているだけのようだけど。
 今ここは、シンラを見てその場でひざまずく者や盗賊を縄で縛る者、シンラの名前を呼ぶ者などがいて、かなり騒然としていた。 

「志帆……」
「シンラ……なんで……」
 なんで、出てきちゃったの……これじゃあ村の妖狐たちに完全にバレちゃうじゃん。
 私の偽装していた髪が取られちゃって、人間だって気づかれてはしまったけど、それでもまだ狐神の嫁だって分からなかったかもしれないのに。
 しかし、そんなことを全く意に介さない様子のシンラは、私の体を強く抱きしめた。
 すると不思議なことに、こんな状況にも関わらず、私の緊張は少しずつ解けてくる。
 シンラの腕の中はすごく心地よくて、とても安心できた。
「シンラごめんね……」
「志帆、気にしなくていい。最初に言ったでしょう? ここでは俺が一番偉いんだって。何千年も生きている古い狐神たちだって、今の俺には文句すら言えないんだ。少しくらい弱点が見られたからって……俺にはそこまで大したダメージはない」
 そう言って、シンラは私に口づけをした。
 すると周りから突然、歓喜の歓声があがる。
 ご利益があって「めでたい」とか「ありがたい」とか、拝む者も……。

 え……なんで……?
 妖狐の感性ってよく分からない。
 この周りの反応には、シンラの方もかなり驚いていたが、それよりも村の妖狐たちの視線が今度は私に集中していて、非常に恥ずかしい。
「シンラこれはどういう……って、痛たたたっ……」
「志帆? どこか痛むの?! もしかして、あいつらに傷付けられた?!」
「ち、ちが……なんか、ちょっとお腹が痛いの。さっき食べたお団子が人間の体に合わなかったかもしれない」
「団子……?」
 シンラは私のお腹にそっと手を当てた。
 神力でも使って腹痛を治してくれるのかしら。
「いや、違う……この脈打つ感じは……まさか」
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