20 / 41
第二章
二十話
しおりを挟む
(か、体が異様に重い……です)
今日は、朝から張り切って変装の準備をしようと思っていたのだけど、目は覚めたのに、体の方がすんなりと起きられない。
シンラはすでに起床しているらしく、もう横にはいなかったけど、とりあえず浴衣だけは羽織ろうと、布団の中から手探りで周囲を探した。
(おかしいな……いつもと同じで、その辺に落ちているかと思ったんだけど……)
この状態では、いつまで経っても裸のままだ。
仕方がないので、私はしぶしぶ布団から出て、浴衣がベッドの下に落ちていないかと確認をした……が、うーん、見当たらない。
「志帆、おはよう。なに、朝からそんな格好して……あ、もしかして誘ってるの?」
「ひゃあ?! 全くそんなつもりはありません! むしろ着るための服を探しているのです!」
シンラ相手とはいえ、裸で床に四つん這いになっている姿とか、相当恥ずかしいところを見られてしまった。
なぜこの人は、いつもタイミング悪く、いきなり現れるのでしょうかねぇ。
そしてシンラの方は、もうしっかりと着物を着こなして、朝の準備は万端なのですね。
神って、本当に疲れ知らずで羨ましい。
「着るって……もしかして浴衣? ごめん、サノメが洗濯すると言って持っていっちゃった。妖狐向けの着物はそこのタンスの中だってさ」
「あ、そうだったの」
なんだ……それなら、自分の服でも一時的に着れば良かった。どっちにしろ下着はつけるし。
私は自分のカバンから下着を取って装着したあと、妖狐の着物をタンスから引き出す。
うん、この服はどちらかというと、お着物というよりは甚平みたいな感じだね。
ここまでの一連のやり取りで、私の眠気はいつの間にかどこかへと飛んでいったが、先ほどからずっと自分の下着へ視線を感じていて、ちょっと落ち着かない。
「いつも思うけど、この志帆の付けている下履きって、可愛くてすごく肌触りがいいよね。面積がかなり小さいし、思わず横からめくりたくなる。あ……そうだ、ここに……」
「やっ……ちょっ、シンラ! 本当やめてくださいよ!」
いきなりショーツを触ってきたと思ったら、今度は人の片足を前から急に持ち上げて、太ももを口で吸うとか……あなたは一体、朝から何をやっているのシンラさん!
「ん、マーキング」
シンラはぺろっと舌を出しながらそう言って、こちらの顔を下から覗いた。
その時のシンラの妖艶な目の破壊力がヤバ過ぎて、私の頬は一瞬で真っ赤に染まり、そのまま後ろにひっくり返りそうになる。
美形な少年顔の上目遣い……これはとんでもない不意打ち攻撃です……。
◇ ◇ ◇
あの後、なんとか無事、服を着れた私は、湯屋に干しておいたウィッグを持ってきた。
そして、それなりにカットして整えたあと、軽くゆすいでから、今度はシンラの神力で乾かしてもらった。
そのまま昨日作った狐の耳を、布地の部分に縫い付ける。
それをシンラは、そばで興味深そうにじっと見ていたけど、何がそんなに面白いのだろうか……。
「うん、いい感じ」
耳と髪の毛は仕上がったが、被る前に私はメイクの方を先に始めた。
とは言っても人間に近い見た目……つまり、シンラたちみたいな感じの妖狐もいるらしいので、このメイクの目的は、今の私の顔から遠くなるよう少し手を加えるだけだ。
まつ毛をビューラーとマスカラで上げて、アイライナーを強めに引く。
そこに赤目のコンタクトをすれば、これだけでもう全然違う別人みたいになる。
そしてウィッグを被り、尻尾を装着と……えへへ、妖狐コスプレの完成です。
「よおし、これで行ってこよっ!」
そう言って部屋を出ようとする私の腕を、シンラはパッと掴んだ。
「妖狐の姿の志帆も可愛いすぎる……心配だからやっぱり俺も一緒に行きたい」
シンラ、ここに来てまたわがままを……。
「ちょっと村を見て回るだけだから……少しだけ我慢して……シンラにとってはいつもと変わらない見慣れた村でしょう?」
「それはそうだけど、前に妖狐同士のトラブルも増えてるって言ったでしょ? 色々と不安なんだよ」
うーん、シンラから見て、私ってそんなに頼りないのかなぁ。
トラブルなんて、巻き込まれないように気をつければ、大丈夫だと思うんだけど。
「俺が言うのもなんだけど、志帆は初対面で知らない男について行っちゃう警戒心の無さだからさぁ……」
「だって、あの時はシンラがすごく良い人そうに見えたんだもの……」
「で、実際は? 襲われるし、まして人ですらなかったでしょ?」
「あー、はい……」
それを当の本人が言ってくる辺りが、ちょっとオカシイけれど、確かにその通りではある。
「……じゃあ上にいる。それならいいでしょ?」
「上?」
「姿を見えないようにして、少し離れた空から見張っておくってこと」
「もう過保護……」
まぁ、これ以上はシンラも譲ってくれなさそうなので、そこはこちらも良いということで妥協しましょう。
ここまで本当に色々とありましたが、久しぶりの外をこれから堪能してきます。
今日は、朝から張り切って変装の準備をしようと思っていたのだけど、目は覚めたのに、体の方がすんなりと起きられない。
シンラはすでに起床しているらしく、もう横にはいなかったけど、とりあえず浴衣だけは羽織ろうと、布団の中から手探りで周囲を探した。
(おかしいな……いつもと同じで、その辺に落ちているかと思ったんだけど……)
この状態では、いつまで経っても裸のままだ。
仕方がないので、私はしぶしぶ布団から出て、浴衣がベッドの下に落ちていないかと確認をした……が、うーん、見当たらない。
「志帆、おはよう。なに、朝からそんな格好して……あ、もしかして誘ってるの?」
「ひゃあ?! 全くそんなつもりはありません! むしろ着るための服を探しているのです!」
シンラ相手とはいえ、裸で床に四つん這いになっている姿とか、相当恥ずかしいところを見られてしまった。
なぜこの人は、いつもタイミング悪く、いきなり現れるのでしょうかねぇ。
そしてシンラの方は、もうしっかりと着物を着こなして、朝の準備は万端なのですね。
神って、本当に疲れ知らずで羨ましい。
「着るって……もしかして浴衣? ごめん、サノメが洗濯すると言って持っていっちゃった。妖狐向けの着物はそこのタンスの中だってさ」
「あ、そうだったの」
なんだ……それなら、自分の服でも一時的に着れば良かった。どっちにしろ下着はつけるし。
私は自分のカバンから下着を取って装着したあと、妖狐の着物をタンスから引き出す。
うん、この服はどちらかというと、お着物というよりは甚平みたいな感じだね。
ここまでの一連のやり取りで、私の眠気はいつの間にかどこかへと飛んでいったが、先ほどからずっと自分の下着へ視線を感じていて、ちょっと落ち着かない。
「いつも思うけど、この志帆の付けている下履きって、可愛くてすごく肌触りがいいよね。面積がかなり小さいし、思わず横からめくりたくなる。あ……そうだ、ここに……」
「やっ……ちょっ、シンラ! 本当やめてくださいよ!」
いきなりショーツを触ってきたと思ったら、今度は人の片足を前から急に持ち上げて、太ももを口で吸うとか……あなたは一体、朝から何をやっているのシンラさん!
「ん、マーキング」
シンラはぺろっと舌を出しながらそう言って、こちらの顔を下から覗いた。
その時のシンラの妖艶な目の破壊力がヤバ過ぎて、私の頬は一瞬で真っ赤に染まり、そのまま後ろにひっくり返りそうになる。
美形な少年顔の上目遣い……これはとんでもない不意打ち攻撃です……。
◇ ◇ ◇
あの後、なんとか無事、服を着れた私は、湯屋に干しておいたウィッグを持ってきた。
そして、それなりにカットして整えたあと、軽くゆすいでから、今度はシンラの神力で乾かしてもらった。
そのまま昨日作った狐の耳を、布地の部分に縫い付ける。
それをシンラは、そばで興味深そうにじっと見ていたけど、何がそんなに面白いのだろうか……。
「うん、いい感じ」
耳と髪の毛は仕上がったが、被る前に私はメイクの方を先に始めた。
とは言っても人間に近い見た目……つまり、シンラたちみたいな感じの妖狐もいるらしいので、このメイクの目的は、今の私の顔から遠くなるよう少し手を加えるだけだ。
まつ毛をビューラーとマスカラで上げて、アイライナーを強めに引く。
そこに赤目のコンタクトをすれば、これだけでもう全然違う別人みたいになる。
そしてウィッグを被り、尻尾を装着と……えへへ、妖狐コスプレの完成です。
「よおし、これで行ってこよっ!」
そう言って部屋を出ようとする私の腕を、シンラはパッと掴んだ。
「妖狐の姿の志帆も可愛いすぎる……心配だからやっぱり俺も一緒に行きたい」
シンラ、ここに来てまたわがままを……。
「ちょっと村を見て回るだけだから……少しだけ我慢して……シンラにとってはいつもと変わらない見慣れた村でしょう?」
「それはそうだけど、前に妖狐同士のトラブルも増えてるって言ったでしょ? 色々と不安なんだよ」
うーん、シンラから見て、私ってそんなに頼りないのかなぁ。
トラブルなんて、巻き込まれないように気をつければ、大丈夫だと思うんだけど。
「俺が言うのもなんだけど、志帆は初対面で知らない男について行っちゃう警戒心の無さだからさぁ……」
「だって、あの時はシンラがすごく良い人そうに見えたんだもの……」
「で、実際は? 襲われるし、まして人ですらなかったでしょ?」
「あー、はい……」
それを当の本人が言ってくる辺りが、ちょっとオカシイけれど、確かにその通りではある。
「……じゃあ上にいる。それならいいでしょ?」
「上?」
「姿を見えないようにして、少し離れた空から見張っておくってこと」
「もう過保護……」
まぁ、これ以上はシンラも譲ってくれなさそうなので、そこはこちらも良いということで妥協しましょう。
ここまで本当に色々とありましたが、久しぶりの外をこれから堪能してきます。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】人生で一番幸せになる日 ~『災い』だと虐げられた少女は、嫁ぎ先で冷血公爵様から溺愛されて強くなる~
八重
恋愛
【全32話+番外編】
「過去を、後ろを見るのはやめます。今を、そして私を大切に思ってくださっている皆さんのことを思いたい!」
伯爵家の長女シャルロッテ・ヴェーデルは、「生まれると災いをもたらす」と一族で信じられている『金色の目』を持つ少女。生まれたその日から、屋敷には入れてもらえず、父、母、妹にも虐げられて、一人ボロボロの「離れ」で暮らす。
ある日、シャルロッテに『冷血公爵』として知られるエルヴィン・アイヒベルク公爵から、なぜか婚約の申し込みがくる。家族は「災い」であるシャルロッテを追い出すのにちょうどいい口実ができたと、彼女を18歳の誕生日に嫁がせた。
しかし、『冷血公爵』とは裏腹なエルヴィンの優しく愛情深い素顔と婚約の理由を知り、シャルロッテは彼に恩返しするため努力していく。
そして、一族の中で信じられている『金色の目』の話には、実は続きがあって……。
マナーも愛も知らないシャルロッテが「夫のために役に立ちたい!」と努力を重ねて、幸せを掴むお話。
※引き下げにより、書籍版1、2巻の内容を一部改稿して投稿しております
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています


この度、運命の番に選ばれまして
四馬㋟
恋愛
※章ごとに主人公が変わるオムニバス形式
・青龍の章:
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
・朱雀の章:
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる