隠し村の狐神〜異類婚姻譚〜

みなみ抄花

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第二章

十九話

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 シンラが持ってきてくれたウィッグが綺麗に洗えたので、そのまま湯屋のはしに干した。
 外に出して、もし村の誰かに見られたら意味がないので、そこは念のために……ね。
「志帆、ついでにこのまま一緒に入るでしょう?」
「うん……」
 久しぶりでちょっと恥ずかしいけれど。
 これからシンラと夫婦でやっていくなら、これくらいは自然にできるようにならないとね。
 一緒にお風呂に入るだけ……普通に普通に。

「せっかくだし、お互い洗いっこしようか」
 ひぇ……シンラの一言で、いきなり入浴のハードルが上がりました。
 ということは、私がシンラの体を洗うということですか? 
 つまり体を触るということですよね? 
 うーん……あ、でも背中や尻尾だけなら良いかもしれないです!
 普段、世話になっている恩返しにもなりますし。
「よし! ならば私に任せてください!」
「えっ……志帆、本当に? まじで?」
「では、尻尾の方から失礼しますっ」
 私は石けんをもって、シンラの後ろに回った。

 うわぁ……シンラの尻尾、ちゃんと数えたらやっぱり九尾ある。
 トウワさんの言っていたとおりだった。
 いつもフサフサがいっぱいあるなぁとは思っていたけど、こうやって改めて見ると、本当に狐の神様なんだなぁと実感させられた。
(うーん、私ごときが狐神の象徴である尻尾を気軽に触って、本当に良いのでしょうか。今更ですが、少し不安になってきました)
 でも、やると言ったからには、最後までやらないとね。
 私は石けんを手でいっぱい泡立てたあと、シンラの尻尾を両手で一つずつ優しく洗っていった。
 九尾もあるから、モタモタはしていられない。
 けれど、私の指がシンラの尻尾に触れるたびに、なぜかビクッと反応して、あさっての方向へ行ってしまうのだ。
 それを慌てて手で追いかけるのだけど、たまにバシッと顔や体に跳ね返ってくることもあって、つい変な声を上げてしまう。
(待って待って! なんでそんなに動くの?!)
 仕方ないので、根本を少し強めに持って、片手で優しく撫でるように洗った。
 
 
「あのさ、志帆……俺もう我慢できないんだけど」
「へ?」
「その触り方……わざとやってるの?」
 わざとって……?
 頑張って普通に洗っているだけなんだけど。
 ……ん? 
 って、シンラさん、何で今そちらのほうが臨海体制に……?
「尻尾の根本って、普通に性感帯なんだけど」
「えっ?! うそっ、そうなの? ごめん!」
 ま、まじですか?
 知らなかった……だって、私には尻尾がないから、そんなことになっているなんて、思ってもいなかったんですもの。
 それなのに、めちゃくちゃ掴んだり揉み込んだりしてしまった。
「こうなった責任は、もちろん志帆が取ってくれるんだよね?」
 綺麗な顔で意地悪ぽっく笑うシンラと、下の状態の強烈なギャップが、私の羞恥心に限界を与えて爆発しそう。
 なんだか頭がクラクラしてきた。
 シンラは尻尾にしたように、こちらにもお願いしますとか、美麗スマイルでとんでもないこと言ってきますし!
 
   ◇  ◇  ◇

 そして、濃~い入浴の時間が終わり、私の疲労度はいつもにも増して上がっていた。
 考えてみたら、朝からずっとフェイクファーを作り続けていて、体力的にもそろそろ限界なんですよね。
「湯屋では志帆に任せちゃったから、今度は俺の番ね? というわけで、お疲れの志帆にマッサージをしてあげよう」
「ありがたいけど……変なところは触らないでね」
「えー……分かった」
 シンラが肩や背中を適度に揉んだり指で押してくれる。これけっこう気持ちいい。
 少しずつ体の凝りがほぐれていく感じ?
 体がポカポカしてきて、私は少し眠くなってきた。

「志帆、目がとろんとしてる」
「ひゃっ!」
 シンラにいきなりお尻を強めに掴まれて、私は思わず声が出た。
 ちょっとシンラさん!
 さっきの「分かった」って言葉は、どこにいったんですか?!
「お尻のマッサージは結構ですっ!」 
「これは、志帆が俺の尻尾をいっぱい触ってくれたから、そのお返しだよ」
「うぅ、だって知らなかったんだもん……本当ごめんなさい」
「別に嬉しかったから……それに言ったでしょう? 俺の体はどこでも触って良いって」
 後ろから低めに出した声で耳元に囁かれたら、変に体がゾワゾワっとしてしまう。
 最近のシンラってどうしてこう、私に甘いんだろう。 
「……ん? 志帆も準備万端みたいだから、このまま後ろから始めちゃおっ」
 そんな無邪気な顔をして、無邪気とは程遠いことをしないでください、神様。
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