隠し村の狐神〜異類婚姻譚〜

みなみ抄花

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第二章

十八話

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「狐の毛を使って、耳と尻尾を再現したあと、折り紙の時のようにシンラに息を吹き込んでもらえれば、生きているように見えるんじゃないかしらって」
「あぁ、なるほど」
 シンラはそこは任せてと言ってくれる。
 えへへ、協力感謝です!
 もちろん、尻尾は紐を付けて腰に引っかける感じにして、生身に直接何かしたりはしませんが。
 えぇ、決して。

 格好は外の妖狐さんに合わせた着物を、サノメが用意してくれたので、あとは私に見えないように顔をメイクをします。
「化粧で誤魔化せるのかな」
「ちっちっち! お化粧の力をバカにしてはいけませんよ。人間社会には詐欺メイクなんてものもあるんです。あと、カラコンでも使えば全くの別人に変身することは可能です」
 ふふふ、シンラはメイクの威力の恐ろしさを全然わかっていませんねぇ。
「からこん……?」
「カラーコンタクト! 目の色を変えたりできるのですが、少し前に興味本位で買ったものが、バックに入れっぱなしになっていました。青とグリーンと、それに赤もあります」
「へぇ……それはすごい」

 というわけで、シンラから了承を得て、明日からさっそくフェイクファーの作成に取りかかるつもりだ。
 リアリティを出すために、サノメには家族100人分の抜け毛を、こっそりここに持ってきてもらうことになっている。
 サノメ家では、実はすごい量の毛玉が毎日出るのだとか……。
 それを洗濯して綺麗にしたら、布に縫い付けて、耳と尻尾にするのですよ。
 今日はもう遅い時間なので、私はこのまま寝床に入り明日のために休むことにした。

   ◇  ◇  ◇

「長毛タイプの毛が、けっこうあるから再現しやすい」
「作用でございますか。長兄の妻の一家はみな長毛種なのでございます。家族の毛が、奥方のお役に立てたようで何よりです」
 朝からつけ耳とつけ尻尾を作り続けていた私は、今最後の耳に取り掛かっている。
「こうやって地道に縫い付けるしかないんですけど、のりでくっつけるよりは確実です」
「しかし、本当によくできてございますな」
 サノメの言うとおり、ファー作りが思ったより上手くいっていて、自分でも少しびっくりしています。
 そりゃあ、プロの人には敵わないでしょうが、ぱっと見は、本物か偽物かまず分からないと思う。
 毛自体はフェイクじゃないし、これなら変装も高リアリティで行けそうです。

「……できた! これで自然にピクピクと動いてくれれば完璧だわ」
 私とサノメ、そしてシンラの力の集大成がもうすぐ出来上がりますね。
 ……と、ここで大事なことを忘れていることに気づきました。
「そういえば髪の毛……どうしよう! 脱色剤なんて、この村にはなさそうだし、ウィッグも……」
「それはダメ! 髪の染め粉はこの村にもあるけど、脱色なんかして志帆の黒髪を狐色に染めるのは、俺的に絶対不可だから」
 うわっ! ……びっくりした。
 シンラ帰ってきていたの?
 ……って、もう夜になっていたんですね。
 今、気づきました。

「黒髪目立ちませんかね……」
「その髪は綺麗なままで。ほら、人間のカツラ……拝借してきたよ」
 おぉ、ブラウン系で派手なウェーブのロング……これはアレンジがしやすそうです。
 でも、拝借ってまさか盗んできたんじゃ……?
「なんか、人間の道に落ちていたんだよ。洗えば使えそうじゃない?」
 どなたかの落とし物ですか……落とし物は交番に!
 でもまぁ、持ってきてしまったのは仕方ないですし、お借りしましょう。
 これから湯屋に入ろうと思っていたので、ついでに洗えますしね。

「しかし、シンラここ最近、出かけることが多いですね」
「最近、山が騒がしいからね。妖狐同士のトラブルも絶えないし、巡回は増やしている。あとは情報交換のために他の地域への出張が多いかな。やっぱり志帆は、俺が長い時間いないと寂しい?」
 なんだか大変そうですね。
 シンラは狐神の中では一番若いですし、隠し村の代表みたいな感じで、かなり忙しそうに見えます。
「少し寂しいですけど、ここにはサノメやトウワさんもいますし、大丈夫ですよ」
「……そこで、どうして燈倭トウワの名前が出てくるのかなぁ? そして志帆、また敬語に戻ってるし」
 うわっ、シンラの顔、なんか一瞬怖かった。
 トウワさんとは他愛もない会話くらいしかしていないんだけどね……。
 そして敬語はただの癖なんだって。

「屋上のこと手伝ってくれたのよ。今日も水やりしてたら来てくれたし、昨日はシンラが壊した破片とか、一緒に片付けてくれたの」
「……そぅ」
 なんか、シンラの声が急に暗い。
 まだあの変な誤解をしているのかな。
 いや、まさかね……。
「明日は用事がないから、俺が……」
「それは大丈夫! 明日の水やりはサノメがしてくれることになっているの。トウワさんにも伝えてあるし。シンラに付け耳と尻尾に命を吹き込んでもらったら、さっそく村を見て回るつもりだから」
 だってここに来てから、かなり久しぶりの外なんですよ。
 私もそれが嬉しくて嬉しくて、仕方がないんです。
 そして狐さんのコスプレも、密かの楽しみの一つだったりして。

「じゃあ、村へは俺も一緒に行こうか?」
「……ダメ! シンラといるところ見られたら、変装してる意味がないじゃない。明日は私一人で行きますから」
 あ……いけない。
 言い方がちょっときつかったかな。
 今回のことだって、シンラが許してくれたから、色々とできていることなのに。
 それにウィッグのことも、まだお礼言ってなかった……。
「その……シンラには、いつも感謝しています」
「そう?」
「だから、私のわがままにあまり付き合わせたくはなくて……でも、じゃあ一つだけ……今からこのウィッグを湯屋で洗うの、手伝ってもらえませんか」
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