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第二章
十七話
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屋上での事がひと段落したので、私はトウワさんと解散して、そのまま部屋に戻ってきた。
体もだいぶ汚れたので、サノメにお願いして湯屋を準備してもらう。
「ねぇ、サノメはあまり家に帰ってないみたいだけど、大丈夫なんですか?」
「……特に問題はありませぬ。うちは100人規模の大家族なもので」
「ひゃ、ひゃく……?!」
知らなかった。
サノメの家はそんなに大家族だったんだ。
100人も妖狐がいる家って、どれだけ大きなお屋敷なのだろう。
「親とその親と姉妹夫婦と兄弟夫婦が一緒に暮らしておりますゆえ……そのお子たちもそれぞれ生まれておりますし、人手ならぬ狐手ならたくさんありまする。一族にとっても神に仕える者がいるなど、とても名誉なこと。家ではサノメはかなり出世頭でありまする」
あ、自分で言っちゃうんだ。
でも、そうだよね……村にはいっぱい妖狐が住んでいて、その中でここへ呼ばれているのは少数だもの。
「そういえば、ここのお料理って誰が作ってるの?」
「料理上手な妖狐を集めて、出させておりまする」
つまり妖狐族のコックさんですね。
ここの暮らしって、本当に致せり尽くせりというか……どこのお貴族様かなって。
「はぁ、村に遊びに行ってみたいですねぇ……ダメかしら」
「奥方は一箇所には、じっとしておられない性格なのですな」
「うん、まぁね……だって、これじゃあただの引きこもりニートなんですもの。私にも、もっと自由がほしいのです」
ショッピングもしたいし、お出かけもしたいし、旅行だってしたい。
だって、私これでもまだ22なんですよ?
こういう風に思うことって、この世界ではそんなに悪いことなのかしら。
「ニートとは如何に? しかし、そうなると……神羅様にお願いしてみるしかありませぬな」
「ニートは家で何もしてない人って意味です。やっぱり、それしかないですよねぇ……シンラ、怒るかな」
でも、最近シンラとの仲は良好だし、せめて気持ちを伝えるだけでも……やってみるか。
◇ ◇ ◇
夜になってシンラが帰ってきたので、顔を見た瞬間にとりあえず抱きついてみた。
「俺、外から帰ってきたばかりで、あんま綺麗じゃないよ」
何をおっしゃる狐さん。
あなたはいつも綺麗なお顔をしています。
って、そうではなくて……。
「シンラぁ……外に出たい……」
「あー……うん、志帆はいつか言い出すんじゃないかなって思ってた」
あ、これは好感触!
ちょっと期待できるんじゃないですかね。
よ~し! いっちょ説得頑張ってみますか。
「ここに居なきゃいけないのって、狐神の嫁が見られちゃマズイからなんでしょ? だったらバレないように狐のコスプレとかはどうかなって」
「こ、こすぷれ……? なに、その卑猥そうな言葉は……俺もぜひ作戦に混ぜなさい」
顔が急に真剣になったシンラは何なんでしょうかね。
作戦に混ぜろもなにも、現に今こうやって相談しているじゃありませんか。
それに……。
「全然、卑猥な言葉なんかじゃありません! 変装して、アニメとかのキャラに成りきるみたいな感じの意味です」
「あにめ? とかきゃら?」
「えっと……それは例で、今回成りきるのは狐ですが」
どうやら、あまり通じていないようです。
まぁアニメとかゲームとか、神にとっては未知の世界ですよねぇ……。
「つまり、志帆に狐の耳や尻尾をつけるということ?」
「そうねぇ……あとは、サノメみたいな感じの着ぐるみでも別にいいけど」
狐寄りの妖狐の姿も可愛い。
問題はどうやって作るかだけどね。
「耳は髪でいいけど、尻尾は志帆の尻のどこにつければ……あ、そうか、俺がやる」
「待って、やるってなにを? あの、サノメみたいな着ぐるみでも良いんだけど……(二回目)」
「着ぐるみは匂いでバレる。耳と尻尾は……あ、想像したらヤバい」
「そっちも普通にバレますよね? 匂いで分かるなら」
そして、なにを興奮しているんだ、この神。
もしかして、やっぱり狐神は人間より狐に似た風貌の方が好みなんだろうか。
自分と同じように耳と尻尾を矢鱈とつけたがるんだから。
「ちょっと偽物感を感じても、可愛いからきっとみんなスルーするはずだよ」
「んなっわけはないですっ!」
そんなんで解決したら、苦労しないですから!
隠し村の神にとって、嫁を隠すことはとても大事なことなのでしょう?
それを覆そうという人間の嫁、初の試みなのだから、もっと真剣に考えてほしいのに……。
でも、この感じだとやっぱりバレなければ、外に出ても良いって、シンラも思ってくれてるってことなのかな。
そこは前進してると思ってもいいかもね。
「志帆は本当何言ってんの! 耳と尻尾をつけた志帆は、絶対に可愛いに決まっている! そこは俺が保証する!」
って、そっちかい!
普通に嬉しいけど、なんか話が違ってきています!
体もだいぶ汚れたので、サノメにお願いして湯屋を準備してもらう。
「ねぇ、サノメはあまり家に帰ってないみたいだけど、大丈夫なんですか?」
「……特に問題はありませぬ。うちは100人規模の大家族なもので」
「ひゃ、ひゃく……?!」
知らなかった。
サノメの家はそんなに大家族だったんだ。
100人も妖狐がいる家って、どれだけ大きなお屋敷なのだろう。
「親とその親と姉妹夫婦と兄弟夫婦が一緒に暮らしておりますゆえ……そのお子たちもそれぞれ生まれておりますし、人手ならぬ狐手ならたくさんありまする。一族にとっても神に仕える者がいるなど、とても名誉なこと。家ではサノメはかなり出世頭でありまする」
あ、自分で言っちゃうんだ。
でも、そうだよね……村にはいっぱい妖狐が住んでいて、その中でここへ呼ばれているのは少数だもの。
「そういえば、ここのお料理って誰が作ってるの?」
「料理上手な妖狐を集めて、出させておりまする」
つまり妖狐族のコックさんですね。
ここの暮らしって、本当に致せり尽くせりというか……どこのお貴族様かなって。
「はぁ、村に遊びに行ってみたいですねぇ……ダメかしら」
「奥方は一箇所には、じっとしておられない性格なのですな」
「うん、まぁね……だって、これじゃあただの引きこもりニートなんですもの。私にも、もっと自由がほしいのです」
ショッピングもしたいし、お出かけもしたいし、旅行だってしたい。
だって、私これでもまだ22なんですよ?
こういう風に思うことって、この世界ではそんなに悪いことなのかしら。
「ニートとは如何に? しかし、そうなると……神羅様にお願いしてみるしかありませぬな」
「ニートは家で何もしてない人って意味です。やっぱり、それしかないですよねぇ……シンラ、怒るかな」
でも、最近シンラとの仲は良好だし、せめて気持ちを伝えるだけでも……やってみるか。
◇ ◇ ◇
夜になってシンラが帰ってきたので、顔を見た瞬間にとりあえず抱きついてみた。
「俺、外から帰ってきたばかりで、あんま綺麗じゃないよ」
何をおっしゃる狐さん。
あなたはいつも綺麗なお顔をしています。
って、そうではなくて……。
「シンラぁ……外に出たい……」
「あー……うん、志帆はいつか言い出すんじゃないかなって思ってた」
あ、これは好感触!
ちょっと期待できるんじゃないですかね。
よ~し! いっちょ説得頑張ってみますか。
「ここに居なきゃいけないのって、狐神の嫁が見られちゃマズイからなんでしょ? だったらバレないように狐のコスプレとかはどうかなって」
「こ、こすぷれ……? なに、その卑猥そうな言葉は……俺もぜひ作戦に混ぜなさい」
顔が急に真剣になったシンラは何なんでしょうかね。
作戦に混ぜろもなにも、現に今こうやって相談しているじゃありませんか。
それに……。
「全然、卑猥な言葉なんかじゃありません! 変装して、アニメとかのキャラに成りきるみたいな感じの意味です」
「あにめ? とかきゃら?」
「えっと……それは例で、今回成りきるのは狐ですが」
どうやら、あまり通じていないようです。
まぁアニメとかゲームとか、神にとっては未知の世界ですよねぇ……。
「つまり、志帆に狐の耳や尻尾をつけるということ?」
「そうねぇ……あとは、サノメみたいな感じの着ぐるみでも別にいいけど」
狐寄りの妖狐の姿も可愛い。
問題はどうやって作るかだけどね。
「耳は髪でいいけど、尻尾は志帆の尻のどこにつければ……あ、そうか、俺がやる」
「待って、やるってなにを? あの、サノメみたいな着ぐるみでも良いんだけど……(二回目)」
「着ぐるみは匂いでバレる。耳と尻尾は……あ、想像したらヤバい」
「そっちも普通にバレますよね? 匂いで分かるなら」
そして、なにを興奮しているんだ、この神。
もしかして、やっぱり狐神は人間より狐に似た風貌の方が好みなんだろうか。
自分と同じように耳と尻尾を矢鱈とつけたがるんだから。
「ちょっと偽物感を感じても、可愛いからきっとみんなスルーするはずだよ」
「んなっわけはないですっ!」
そんなんで解決したら、苦労しないですから!
隠し村の神にとって、嫁を隠すことはとても大事なことなのでしょう?
それを覆そうという人間の嫁、初の試みなのだから、もっと真剣に考えてほしいのに……。
でも、この感じだとやっぱりバレなければ、外に出ても良いって、シンラも思ってくれてるってことなのかな。
そこは前進してると思ってもいいかもね。
「志帆は本当何言ってんの! 耳と尻尾をつけた志帆は、絶対に可愛いに決まっている! そこは俺が保証する!」
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