隠し村の狐神〜異類婚姻譚〜

みなみ抄花

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第二章

十六話

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 あれから、さらに数日が経ち、私の体はだいぶ元気になったので、久しぶりに屋上へ向かうと、階段のドアの鍵が壊されていた。
 厳密に言うと、ここの鍵はかんぬきなので、今は根本から完全に折れて床に転がっている状態だ。
 そして昇降機のある建物のやぐらの窓は広範囲に破壊されていて、破片が遠くの方に吹っ飛んでいる。これは私を助ける時に派手に壊していたな……シンラ。

 昨日、そのシンラが「鍵のことは、もう大丈夫だと思うけど、また閉じ込められないように気をつけてね。屋上にも強力な結界を張っといたから、上から誰も入れないし、一応俺も気にして屋上を回るようにはするから」と言ってくれたが、その意味が今になってやっと分かった。 
(シンラって、クールな美人顔に似合わず意外と短気な所があるんだから……)
 壊れたものはそのままにしたら危ないし、片付けるのだって大変なんですよ?
 と、一人で不満を募らせても仕方がないので、後でサノメに掃除道具でも借りましょう。
 私がお休みしている間、ここに植えた種には、サノメが水やりをしてくれたようだ。
 そしてありがたいことに、私が作った狐の置物たちも無事に完成していて、サノメがいい感じの配置に並べてくれている。
 殺風景だった屋上がだいぶ賑やかになってきて、私もとても嬉しい。

 前回に残した種まきの続きをしていると、後ろの方で昇降機の上がる音がした。
 もしかして、サノメが手伝いに来てくれたのかな?
「よぉ、志帆殿。シンラの階に行ったけど、誰もいなかったからやっぱりここだったか。あんたも結界の入口が消えた日、大変だったんだってな?」
 あ、この声はトウワさん?
 屋上まで来たんですね。
「その日はちょっと色々とやらかしてしまいまして……なんだかお久しぶりです」
 ここの住人の方たちとは、シンラやサノメ以外にほとんど接点がなくて、気兼ねなくこうやって話しかけてくれる、トウワさんの存在は私的にかなりありがたかったりする。

「あぁ、久しぶり……シンラは今いねぇのか?」
「ええ、いないですよ。東北の方へ色々と用事があるようなのです」 
 なんでも、上の方で代表の集まりがあるとか……猫の集会ならぬ狐の集会ですね。
「用事ねぇ……んで? あんたはこんな所で何やってんだ?」
「暇なのでこの場を借りて園芸しています」
「あぁ、外に出れねぇもんなぁ……嫁は」
「……はい。トウワさんはその、残念でしたね。入口が消えてしまって」
 私の言葉に少し驚いたあと、ちょっと照れくさそうにしながらトウワさんは笑った。
 顔は強面だけど、こういう風に笑顔を見せてくれると私も安心して話せる。
「まぁ、もう嫁探ししてなかったからな」
「え、そうなんですか?」
「あぁ……」
 お嫁さん探し疲れちゃったのかな。
 でも、まぁその辺も自由でいいと思いますよ。

   ◇  ◇  ◇

「ふぅ、残りの種まきと水やりが終わったので、これからサノメに掃除道具を借りに行ってきます。シンラが色々と壊してしまったので、その片付けをしたいのです」
 私は使い終わったジョウロを床に置いて、伸びをした。うーん、とりあえず一仕事終えると気持ちいい。
「……手伝おうか? 窓枠とか重いだろ」
「そうしてくださると助かりますけど……トウワさんは時間大丈夫なのですか?」
「俺は今、とくにやることねぇからな。自分の管轄の巡回も終わったし」
 それなら、確かにありがたいかな。
 トウワさん優しいですね。
「なら、お願いしちゃいます!」
 私はサノメの待つ部屋まで一旦戻って、ゴミを入れるための紙袋とほうき、そして塵取りを借りた。
 その時に、サノメが手伝いを申し出てくれたが、トウワさんがいるから大丈夫と伝えた。
 サノメは私たちの身の回りの世話でいつも忙しそうだから、こんな時くらいは暇人に任せてほしい。

 屋上に戻ると、トウワさんが大きいゴミをすでに紐でまとめてくれていた。
 ゴミを燃やす焼却炉は村の方にあるから、全部自分が持っていくと言ってくれる。
 ゴミをある程度まとめたら、空いた部屋に一旦置いて、あとでシンラにお願いしようと思っていたんだけどね。
(だって壊したのシンラだし。その原因になったのは私だけど)
「そういえば、トウワさんたちって子供時代とかあったんです?」
「なんだよやぶから棒に……」
「急に知りたくなってしまって」
 ちょっと変なこと聞いちゃったかな。
 トウワさんにとっては、かなり大昔のことだしね。
 少し不躾ぶしつけな質問だったかもしれない。

「……あるよ。ちゃんと赤ん坊から現れるし、ある程度育つまで、生んだ妖狐に育てられる」
「狐神は妖狐から生まれるんですね……じゃあ、ここの狐神のみんなには、お母さんやお父さんがいるということですか?」
「正しくはだな。ここの妖狐の寿命が大体150~200歳くらいだから、たぶんシンラを育てた妖狐すらもう生きてねぇと思う」
 そうか……神は非常に長生きだから。
 嫁をめとるまで、長い年月を一人で生きるのね。
「狐神が生まれた時って、すぐにわかるものなんですか?」
「腹の中の時から分かるらしい。成長が異様に早いし、数ヶ月と経たずに生まれてくる。そして生まれた瞬間から尻尾が六からスタート……最終的にはみんな九になる」
 普通の妖狐とはそんなに違うんだ……。
 気になっていたから色々と聞けて良かった。
 私はトウワさんにお礼を言って、片付けに集中することにした。
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