隠し村の狐神〜異類婚姻譚〜

みなみ抄花

文字の大きさ
上 下
13 / 41
第二章

十三話

しおりを挟む
 サノメにお願いされて狐の置物を作る。
 大きさは20~30センチほどだが、けっこう時間がかかった。
(でも、思ったよりうまくできました。これは自分でも中々の狐さんだと思う)
 サノメとサノメの家族の数に合わせ、あとはシンラたちの髪の色に合わせた狐も一つずつで計八個。
 サノメはそれらを台車に乗せて、喜んで焼きに行った。窯に入れて、八~九時間ほどでできるという。

(あ、上にスマホを忘れました……もう外は暗いけど、もし雨が降ったら壊れてしまうので、急いで取りに行こう)
 私は昇降機の横のドアを開けて、階段を上がった。
 照明が暗い上、夜も深いので足元が少し不安であるが、今は自分の私服なのでそれなりに動きやすい。

 屋上につくと案の定、スマホを床に置きっぱなしにしていた。ここで電波は入らないが、すでにダウンロード済みだった『園芸の基本』という電子書籍を読むことができたので、それを見ながら作業していたからだ。
 さて、戻ろうとドアのノブを回すと、ガチャっと音がしてなぜか開かない。
(あれ……どうして……鍵が閉まっちゃってる? もしかして慌てて勢いよく開けたからその拍子で……)
 これは困った……サノメは八~九時間はかかると言っていたし、シンラはいつ帰ってくるかもわからない。

 5月の外はまだ寒い。ましてやここは山梨県の山の中だ。夜の気温は一桁にもなる。
 しかも私の服は作業しやすいように、半袖のTシャツで、その上に一枚上着を羽織っているだけだ。
 このままでは……。
 私はとりあえず、昇降機のある入口の建物の中へ入った。
(ここの上にはやぐらがある……中に入れば少しは暖かいかな)
 私はなんとか上に行けないかと、やぐらの入口を探した。
 すると天井の一部に、四角く囲った溝を発見する。
 そして、その下には金具を引っかけるための開閉棒が壁に立て掛けてあった。

 私は開閉棒を使って、溝の金具を引っ張ってみる。
 すると、折りたたみ式の階段が降りてきた。
 これで少しは寒さをしのげそうだ。
 私は急な階段をなんとか登って、やぐらの中へと入った。
 そしてスマホのライト頼りに周りを照らす。
 何も置いてない所だが、外よりはずっと暖かい。
 不思議と埃なんかもなくて、狭いがそれなりに綺麗にされている部屋である。 
(この建物には普通に電気があるから、ここにも灯りがないかな? もし、シンラが外から帰ってきたら、見つけてもらえるかもしれない)
 
 ……ダメだ。
 さすがに灯りはないか。
 私はとりあえず座って、壁に寄りかかった。
(もし、サノメが途中で戻ってきたらびっくりしちゃうよね。シンラも私が逃げ出したとか思うかな……もしそのせいでサノメが処罰されたらどうしよう……) 
 スマホの充電は今60パーセント……そこまで減ってないので、なんとかしばらくは保ちそうだ。
 これだけは唯一の救いだった。
 
(あ、昇降機の前にスマホを置いて、音楽をつけてみたらどうだろう?)
 曲を流すだけならそんなに充電も減らないはず。 
 でも、もしそれで明日もシンラが帰らなかったら?
 サノメが見つけてくれるかもしれないけど、万が一スマホの充電が切れてたら……。
 やっぱりこの手は使えない。

(そして、室内でもやっぱり寒い……これは完全に失敗しましたね)
 ドアを開けた時ちゃんと確認すれば良かった……今の私は完全に粗忽者そこつものです。
 現在の時間は夜の10時くらい。
 これからどんどん寒くなります。
 しかも、朝からわりとハードな一日だったもので、なんかとても眠くなってきてしまいました。
 こんな時は寝てはいけないと思いつつ……意識が遠のく……せめて、スマホのライトを……ONに……。

   ◇  ◇  ◇

 ??
 下が騒がしい。
 誰か来てくれたのでしょうか……でも、体が冷え切っていて、うまく動けません。
「……志帆……志帆!」
「神羅様、奥方を見失って申し訳ありません」
「サノメ、その話は後だ! 下に行った形跡はないんだろう? だったら屋上ここしかない」
 この声はシンラとサノメ……探してくれたんだ。
 今はいったい何時なんだろう……。

「……やぐらの階段が降りている。志帆! ここにいるの?!」
「シンラ……」
「志帆! なんでそこに?! とりあえず今上に行くから!」
 やぐらの中は、暗くてよく見えないけれど、スマホのライトを頼りにシンラが走ってきて私を抱きしめた。そして上着を上から着せてくれる。

「こんなに体が冷えて……サノメ! 湯屋は?!」
「支度は済んでいます」
「シンラ、ごめんなさい……忘れ物して、慌てていたから変な勢いで開けたら、ドアの鍵が閉まってしまったみたいで……サノメは何も悪くないの……」
 私はそう言ってシンラに寄りかかった。
 シンラも帰ってきたばかりで疲れているだろうに……申し訳ない。
「……わかった。志帆はいつからここにいた?」
「夜の10時くらい……」
「もう、四時間くらい経っている……体も冷え切ってるし、このままでは熱が出るかも。とりあえず、下に降りよう。ここの階段は狭いから、窓から飛び降りる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

処理中です...