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第二章
十三話
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サノメにお願いされて狐の置物を作る。
大きさは20~30センチほどだが、けっこう時間がかかった。
(でも、思ったよりうまくできました。これは自分でも中々の狐さんだと思う)
サノメとサノメの家族の数に合わせ、あとはシンラたちの髪の色に合わせた狐も一つずつで計八個。
サノメはそれらを台車に乗せて、喜んで焼きに行った。窯に入れて、八~九時間ほどでできるという。
(あ、上にスマホを忘れました……もう外は暗いけど、もし雨が降ったら壊れてしまうので、急いで取りに行こう)
私は昇降機の横のドアを開けて、階段を上がった。
照明が暗い上、夜も深いので足元が少し不安であるが、今は自分の私服なのでそれなりに動きやすい。
屋上につくと案の定、スマホを床に置きっぱなしにしていた。ここで電波は入らないが、すでにダウンロード済みだった『園芸の基本』という電子書籍を読むことができたので、それを見ながら作業していたからだ。
さて、戻ろうとドアのノブを回すと、ガチャっと音がしてなぜか開かない。
(あれ……どうして……鍵が閉まっちゃってる? もしかして慌てて勢いよく開けたからその拍子で……)
これは困った……サノメは八~九時間はかかると言っていたし、シンラはいつ帰ってくるかもわからない。
5月の外はまだ寒い。ましてやここは山梨県の山の中だ。夜の気温は一桁にもなる。
しかも私の服は作業しやすいように、半袖のTシャツで、その上に一枚上着を羽織っているだけだ。
このままでは……。
私はとりあえず、昇降機のある入口の建物の中へ入った。
(ここの上には櫓がある……中に入れば少しは暖かいかな)
私はなんとか上に行けないかと、櫓の入口を探した。
すると天井の一部に、四角く囲った溝を発見する。
そして、その下には金具を引っかけるための開閉棒が壁に立て掛けてあった。
私は開閉棒を使って、溝の金具を引っ張ってみる。
すると、折りたたみ式の階段が降りてきた。
これで少しは寒さを凌げそうだ。
私は急な階段をなんとか登って、櫓の中へと入った。
そしてスマホのライト頼りに周りを照らす。
何も置いてない所だが、外よりはずっと暖かい。
不思議と埃なんかもなくて、狭いがそれなりに綺麗にされている部屋である。
(この建物には普通に電気があるから、ここにも灯りがないかな? もし、シンラが外から帰ってきたら、見つけてもらえるかもしれない)
……ダメだ。
さすがに灯りはないか。
私はとりあえず座って、壁に寄りかかった。
(もし、サノメが途中で戻ってきたらびっくりしちゃうよね。シンラも私が逃げ出したとか思うかな……もしそのせいでサノメが処罰されたらどうしよう……)
スマホの充電は今60パーセント……そこまで減ってないので、なんとかしばらくは保ちそうだ。
これだけは唯一の救いだった。
(あ、昇降機の前にスマホを置いて、音楽をつけてみたらどうだろう?)
曲を流すだけならそんなに充電も減らないはず。
でも、もしそれで明日もシンラが帰らなかったら?
サノメが見つけてくれるかもしれないけど、万が一スマホの充電が切れてたら……。
やっぱりこの手は使えない。
(そして、室内でもやっぱり寒い……これは完全に失敗しましたね)
ドアを開けた時ちゃんと確認すれば良かった……今の私は完全に粗忽者です。
現在の時間は夜の10時くらい。
これからどんどん寒くなります。
しかも、朝からわりとハードな一日だったもので、なんかとても眠くなってきてしまいました。
こんな時は寝てはいけないと思いつつ……意識が遠のく……せめて、スマホのライトを……ONに……。
◇ ◇ ◇
??
下が騒がしい。
誰か来てくれたのでしょうか……でも、体が冷え切っていて、うまく動けません。
「……志帆……志帆!」
「神羅様、奥方を見失って申し訳ありません」
「サノメ、その話は後だ! 下に行った形跡はないんだろう? だったら屋上しかない」
この声はシンラとサノメ……探してくれたんだ。
今はいったい何時なんだろう……。
「……櫓の階段が降りている。志帆! ここにいるの?!」
「シンラ……」
「志帆! なんでそこに?! とりあえず今上に行くから!」
櫓の中は、暗くてよく見えないけれど、スマホのライトを頼りにシンラが走ってきて私を抱きしめた。そして上着を上から着せてくれる。
「こんなに体が冷えて……サノメ! 湯屋は?!」
「支度は済んでいます」
「シンラ、ごめんなさい……忘れ物して、慌てていたから変な勢いで開けたら、ドアの鍵が閉まってしまったみたいで……サノメは何も悪くないの……」
私はそう言ってシンラに寄りかかった。
シンラも帰ってきたばかりで疲れているだろうに……申し訳ない。
「……わかった。志帆はいつからここにいた?」
「夜の10時くらい……」
「もう、四時間くらい経っている……体も冷え切ってるし、このままでは熱が出るかも。とりあえず、下に降りよう。ここの階段は狭いから、窓から飛び降りる」
大きさは20~30センチほどだが、けっこう時間がかかった。
(でも、思ったよりうまくできました。これは自分でも中々の狐さんだと思う)
サノメとサノメの家族の数に合わせ、あとはシンラたちの髪の色に合わせた狐も一つずつで計八個。
サノメはそれらを台車に乗せて、喜んで焼きに行った。窯に入れて、八~九時間ほどでできるという。
(あ、上にスマホを忘れました……もう外は暗いけど、もし雨が降ったら壊れてしまうので、急いで取りに行こう)
私は昇降機の横のドアを開けて、階段を上がった。
照明が暗い上、夜も深いので足元が少し不安であるが、今は自分の私服なのでそれなりに動きやすい。
屋上につくと案の定、スマホを床に置きっぱなしにしていた。ここで電波は入らないが、すでにダウンロード済みだった『園芸の基本』という電子書籍を読むことができたので、それを見ながら作業していたからだ。
さて、戻ろうとドアのノブを回すと、ガチャっと音がしてなぜか開かない。
(あれ……どうして……鍵が閉まっちゃってる? もしかして慌てて勢いよく開けたからその拍子で……)
これは困った……サノメは八~九時間はかかると言っていたし、シンラはいつ帰ってくるかもわからない。
5月の外はまだ寒い。ましてやここは山梨県の山の中だ。夜の気温は一桁にもなる。
しかも私の服は作業しやすいように、半袖のTシャツで、その上に一枚上着を羽織っているだけだ。
このままでは……。
私はとりあえず、昇降機のある入口の建物の中へ入った。
(ここの上には櫓がある……中に入れば少しは暖かいかな)
私はなんとか上に行けないかと、櫓の入口を探した。
すると天井の一部に、四角く囲った溝を発見する。
そして、その下には金具を引っかけるための開閉棒が壁に立て掛けてあった。
私は開閉棒を使って、溝の金具を引っ張ってみる。
すると、折りたたみ式の階段が降りてきた。
これで少しは寒さを凌げそうだ。
私は急な階段をなんとか登って、櫓の中へと入った。
そしてスマホのライト頼りに周りを照らす。
何も置いてない所だが、外よりはずっと暖かい。
不思議と埃なんかもなくて、狭いがそれなりに綺麗にされている部屋である。
(この建物には普通に電気があるから、ここにも灯りがないかな? もし、シンラが外から帰ってきたら、見つけてもらえるかもしれない)
……ダメだ。
さすがに灯りはないか。
私はとりあえず座って、壁に寄りかかった。
(もし、サノメが途中で戻ってきたらびっくりしちゃうよね。シンラも私が逃げ出したとか思うかな……もしそのせいでサノメが処罰されたらどうしよう……)
スマホの充電は今60パーセント……そこまで減ってないので、なんとかしばらくは保ちそうだ。
これだけは唯一の救いだった。
(あ、昇降機の前にスマホを置いて、音楽をつけてみたらどうだろう?)
曲を流すだけならそんなに充電も減らないはず。
でも、もしそれで明日もシンラが帰らなかったら?
サノメが見つけてくれるかもしれないけど、万が一スマホの充電が切れてたら……。
やっぱりこの手は使えない。
(そして、室内でもやっぱり寒い……これは完全に失敗しましたね)
ドアを開けた時ちゃんと確認すれば良かった……今の私は完全に粗忽者です。
現在の時間は夜の10時くらい。
これからどんどん寒くなります。
しかも、朝からわりとハードな一日だったもので、なんかとても眠くなってきてしまいました。
こんな時は寝てはいけないと思いつつ……意識が遠のく……せめて、スマホのライトを……ONに……。
◇ ◇ ◇
??
下が騒がしい。
誰か来てくれたのでしょうか……でも、体が冷え切っていて、うまく動けません。
「……志帆……志帆!」
「神羅様、奥方を見失って申し訳ありません」
「サノメ、その話は後だ! 下に行った形跡はないんだろう? だったら屋上しかない」
この声はシンラとサノメ……探してくれたんだ。
今はいったい何時なんだろう……。
「……櫓の階段が降りている。志帆! ここにいるの?!」
「シンラ……」
「志帆! なんでそこに?! とりあえず今上に行くから!」
櫓の中は、暗くてよく見えないけれど、スマホのライトを頼りにシンラが走ってきて私を抱きしめた。そして上着を上から着せてくれる。
「こんなに体が冷えて……サノメ! 湯屋は?!」
「支度は済んでいます」
「シンラ、ごめんなさい……忘れ物して、慌てていたから変な勢いで開けたら、ドアの鍵が閉まってしまったみたいで……サノメは何も悪くないの……」
私はそう言ってシンラに寄りかかった。
シンラも帰ってきたばかりで疲れているだろうに……申し訳ない。
「……わかった。志帆はいつからここにいた?」
「夜の10時くらい……」
「もう、四時間くらい経っている……体も冷え切ってるし、このままでは熱が出るかも。とりあえず、下に降りよう。ここの階段は狭いから、窓から飛び降りる」
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