隠し村の狐神〜異類婚姻譚〜

みなみ抄花

文字の大きさ
上 下
12 / 41
第二章

十二話

しおりを挟む
(シンラ、本当に戻ってきませんね……)
 あれから私はずっと屋上で土いじりをしている。
 サノメが一緒に手伝ってくれているけど、あの村のガーデンのようにできるかは不安だ。
「……ま、まぁ、そもそもこの景観で、あのイングリッシュガーデンを再現するには無理がありますが……」
「奥方、とはなんぞ?」
 サノメは不思議そうにしていたが、異国の庭の様式の一つだと伝えると少しは納得していた。
 この村から出たことがないサノメにとっては、世界や国際社会などと言った事情は未知すぎる話題だろう。

「私、仕事は事務ばかりでしたから、こういうの憧れていたんです。でも東京じゃ、庭付き一戸建てを借りたり買ったりは中々難しいですしね」
 せいぜい植木鉢を買って、種や球根を植えたらベランダや室内に置くくらいである。
「ほう、奥方はから来た女子おなごでありましたか。やたら人の多い危険な場所ところだと聞いておりますゆえ」
「そう……かな。まぁ人が多いのは確かですけどねぇ」

 しかし、サノメの両手で土掘りをしている姿、こうみると狐さんそのものですね。
 とても可愛いらしいです。
 猫の置物に対しては神妙な顔をしていましたけども、申し訳ないことに狐グッズは買ってなくてですね。
「奥方、これは土を固めて焼いた陶器のようです。材料を集めるので、ぜひ狐を作っていただきたく」
「え、この置物は私が作った作品ではなくて……挑戦してみても良いですけど、うまく作れるかどうか分からないですよ?」
 サノメはそれでも良いと言っていた。
 種や球根をある程度植え終えたら、下に戻って作ってみますかね。
 焼き窯がどこにあるかは知らないのだけど、村の方にはあるのかな。

   ◇  ◇  ◇

 数時間ほど熱中していたら、だいぶ日が傾いていた。
 ある程度キリの良いところまで進んだので、屋上の作業はもう終いにしようと、サノメと二人で下へ降りる。
 サノメがいたから、昇降機を使用できた。

「サノメ……シンラが結界の入口が消えたと言っていましたけど、こんなこと過去にもあったんですか?」
「サノメが生きている間には聞いたことがありませぬ。そもそもあの入口は人間をこちら側に引き込むための場所ですゆえ、単純に人間世界との契約が切れたことを指すかと」
 人間を隠し村に引き込むための……まぁシンラは全国を回っていましたし、狐神は出入り自由ですものね。妖狐は分からないけども。
 今さらだけど、隠し村ってどんな感じの村なんだろう?
 そういうことも私は全然知らないんですよね。
 なんせ、ここを出て行ってはいけない決まりになっているもので……。

「人との契約が切れると、どうなるの?」
「どうもしませぬ。天変地異が起きるとか」
「えっ、それは……」
 全然どうもしなくない。
 天変地異って相当な危機ですよ? 
「こちら側は異界なので、とくに問題もなく……」
「でも、向こうは?」
「分かりませぬ。火山噴火か大地震、かたや病の蔓延など、ただ神が守ってやれないだけで」
「そんな……」

 そういえば、シンラたちの守っている範囲ってどのあたりなんだろう。山梨県のY山限定なのだろうか。
「狐神も万能ではないので、契約の切れた場所で起こる超自然的なことはどうにもできませぬ。ただ、神羅様と爽翠そうすい様はすでに嫁御をめとられておられるので、あと百年くらいは大丈夫かと思います。しかし、奥方お二人が何らかの理由で死去した場合は、おそらくその場で断ち消えとなるでしょう」
 それって、私たちが存在することの責任がかなり重大になってくるんですけど……。
 下手に怪我もできないじゃないですか!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

この度、運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
※章ごとに主人公が変わるオムニバス形式 ・青龍の章: 蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。 ・朱雀の章: 美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

[完結]裏切りの学園 〜親友・恋人・教師に葬られた学園マドンナの復讐

青空一夏
恋愛
 高校時代、完璧な優等生であった七瀬凛(ななせ りん)は、親友・恋人・教師による壮絶な裏切りにより、人生を徹底的に破壊された。  彼女の家族は死に追いやられ、彼女自身も冤罪を着せられた挙げ句、刑務所に送られる。 「何もかも失った……」そう思った彼女だったが、獄中である人物の助けを受け、地獄から這い上がる。  数年後、凛は名前も身分も変え、復讐のために社会に舞い戻るのだが…… ※全6話ぐらい。字数は一話あたり4000文字から5000文字です。

処理中です...