隠し村の狐神〜異類婚姻譚〜

みなみ抄花

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第二章

十一話

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 あの不思議なエレベーター(のようなもの)を操作しているシンラを目の前で見ていても、仕組みがよく分からなかった。
 ボタン一つでどうやって目的の階に到達できているのだろう。
「ここが屋上なのですか?」
「そう」
「けっこう広いですけど……」
「何もないでしょう? だから誰も来ない」

 本当に何もない。
 室外機とか貯水槽とか、人間のビルなら普通にあるものが、ここには一切見当たらないし、植木とかそういったオシャレなものも皆無だ。
 周りは神社にあるような朱色で太めの柵格子に囲われ、私たちが今いる入口のここは、まるで楼門ろうもんのように立派な造りになっている。
(何もない屋上に楼門ろうもんと朱色の格子……違和感、違和感がすごいです)
 つまり全てが……この一言につきますね。
 そして……。

「シンラ、屋上なのにこの大量の土はいったい?」
「俺にもよく分からないんだ。なんせ俺が生まれるよりずっと前からここにあるから」
 シンラにもよく分からない謎な場所なんですね。
 まぁこの建物は元々神秘だらけですし、今さらではあります。そして水道の蛇口らしきものも発見。
「ここは水場もあって、種があれば色々できますね。そういえば、私はちょうど村で、ハーブや作物の種を……あ、シンラ! ここの屋上、私にしばらく使わせていただいてもいいでしょうか?!」
「良いと思うよ? 俺の階より上はいないし」
 せっかくですし、なんか色々とこの屋上を有効活用してみたい欲求が出てきました。
 しかし、ここで問題が一つできます。

「シンラ、私はエレベーターが操作できないから、ここを自由に移動するのは難しいですよね?」
「エレベーター? って、もしかしてこの昇降機しょうこうきのこと?」
「そうです」
「あ~……あれは、とらえた嫁を逃さないように、人間には色々と見えない仕組みになっているんだ」
 やはりそんな仕掛けがありましたか……。
 ボタンが一つしかないなんて、オカシイとは思っていたのです。

「それだと厳しそうですね」
「うん……まぁ、あれだよ、俺の階は今のところ最上階だし、屋上まですぐだから階段を使うという手もあるよ」
「階段! ここにあるのですか?!」
「あるよ、普段は施錠してあるけどね」
「もしかして、あの開かない部屋のどれかが……」
 するとシンラは私の手を取って、楼門ろうもんのような建物の外側へと連れて行く。
「屋上からの階段はここ、この横の扉を開けると……ほら、階段の登場だ」
「わぁ……」 
「試しに一緒に降りてみようか?」
 この階段、二人で横に並んで上り下りできるくらいの幅はある。
 照明は少し暗いが行けなくもない。
 黒い手すり以外は壁も床も天井も全部朱色だけど、その辺はもう慣れたものである。

 私はシンラと一緒にゆっくりと階段を降りてきたら、客間のそばの廊下まで戻ることができた。
 位置的には昇降機しょうこうきの横にあった、鍵がかかっていたドアのところである。
「屋上に行きやすいよう、いつでも鍵を開けといてあげる。間違っても下の階に行かないと約束ができるなら……だけど」
「は、はい! 約束します! シンラ、ありがとうございます」
 さっそく私は寝室まで荷物を取りに行った。
 スコップやシャベルとかはないから、全部手作業になるけど、それはそれで楽しいだろう。
 それと、着物が汚れてはいけないので、私は自分の持ってきた私服に着替えた。
 ちなみに下着は、荷物があることを知ってからずっと自分のを使っています。
(ここの下履きって、本当に当てるだけって感じで、スカスカなんですもの)

「そんなにいっぱい上に持って行ってどうするの?」
「植えるんですよ。せっかく土がありますし、ここはいつも霧やモヤがかかっていて、天気もドンヨリとしていますが、きっとできないことはないはずです。ガーデニング用の可愛い置物も小さいですが買っていたので、これも使えると思います」
 私はそう言って、黒猫の置物を見せた。
 すごい可愛くてお店で見た瞬間から、魅入られてしまったグッズだ。
 ちなみにオシャレな黒猫ジョウロもある。
 室内の観葉植物用なので小さいが……。
「なるほどね。まぁ好きに使っ……て……ん?」
「シンラ、どうしました?」
 シンラが急に真面目な顔で、窓の方を見ている。
 そして、だんだん顔が険しくなった。
 本当にどうしたのだろう。

「まさか……結界の入口が消えた……?」
「結界の入口……ですか? 開いている期間が終わったのでしょうか?」 
「違う……閉じたわけじゃない……入口そのものが消えた」
 あのくぐりみたいな場所自体が消えてしまった?
 なにやら大変な事態が起きているような……。
「志帆、俺はちょっと燈倭とうわたちに声をかけて、様子を見に行ってくる。しばらくは帰れないかもしれないけれど、志帆もあまり無理はしないようにね。俺の代わりにサノメをつけるから」
「は、はい……どうかお気をつけて……」
 シンラはそれだけ言うと、昇降機しょうこうきで下の階へ降りて行った。
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