隠し村の狐神〜異類婚姻譚〜

みなみ抄花

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第一章

八話

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「なんでそんな遠くで湯に入っているの?」
 なんでって、お互い裸で……これ以上は私の心臓がもたないからです。
「志帆……こっちにおいで」
 湯船で少し火照ったシンラの顔はいけません。
 色気がすごくてクラッとしてしまいます。
 神がかった美しさです。

 シンラは人差し指を内側にくいっと倒すと、私の体はシンラの元へと宙を舞って引き戻された。
 ひょえ。 
「白くてキレイな体……よく見せて?」
「シンラだめ……恥ずかしいです……」
 風呂の湯気で多少は見えないとはいえ、ここの照明は明るい。
 水ならぬ、お湯も滴るなんとやら……で、少し火照ったシンラの人間離れした美しさに、ついつい見惚れてしまいそう。
 
「……あまり長湯していると、志帆がのぼせてしまうから部屋に行こうか」
 私はシンラに抱き抱えられ、湯屋を後にした。
「あ、タオルを……」
「平気」
 シンラの力で瞬間的に体が乾く。
 これは便利な神力です。
 タオル、ドライヤーいらず。
 すぐに浴衣を羽織れます。

   ◇  ◇  ◇

 二人で部屋まで戻ってきたが、いつのまにかサノメはいなくなっている。
「志帆は、俺になんでも頼みごとしていいんだよ?」
 うっ……その目、なんてキレイなの。
 それにシンラの湯上がり浴衣姿はヤバいです。
 男性の身体にも関わらず、肌が白くてキレイで、これ以上ない色気です。

「ほら、なんでも言って」
 なんでもと言われても……。
 でもこれって、ずっと気になっていたアレを触るチャンスなのでは?
 ここは思い切ってお願いしてみましょう。
「なら耳を……シンラの耳を触ってみたいです」
「え、耳? い、いいけど」
 シンラは少し戸惑いつつも、二つ返事で了承してくれた。やっと念願が叶います。
 
「では失礼します……はぅ、これは! はぁ……ふさふさで気持ちいいです」
「……耳だけでいいの?」
「あ、あの……なら尻尾も……」
「俺の体は好きに触りなさい」
 では、お言葉に甘えて、たくさんある尻尾の方も……。
「はふぅ……もふもふです。とてもフサフサしてます……はぁ……」
 顔を埋めたい。
 吸いたい。
 狐ってもっと獣くさいかと思ったけども、シンラは全然そんなことない。むしろいい匂いがしてくる。
 全てにおいて完璧さを持っていて、さすが神なだけはある。

「……いつでも好きな時にどこでも触っていいからね。俺と志帆はそのためにここにいるのだから。俺は志帆に香油をぬってあげよう。風呂上がりの肌をそのままにしては乾燥してしまう」
「えっ?! それは自分でしますっ……んあ」
 シンラの手が浴衣の中に……!
「そんなのはダ、ダメです……」
「多少くすぐったくてもガマンガマン……」
 シンラを止められません。 
 だんだん何も考えられなくなってきます。
 

「……はい、おしまい。全部ぬれたよ……うわ、志帆の顔も白い体も火照って、すごい色気だね」
「ふぁ……」
 シンラは優しく微笑んで、私の顔を手で傾けた。
「んっ」
 口と口が重なる。
 舌が絡まるいやらしい音が部屋中に響いた。
 神と夫婦になったならば、もちろんこういう営みが起きるということは、ある程度分かってはいたけども、いざとなると思考が停止して私の心はどこかへ飛んでしまう。
「体を重ねるのは、婚姻の儀以来だね」 
「!」
 シンラの言葉で、私はその時のことを思い出し、体が勝手にビクリと反応をした。
 あの時はただ痛くて怖くて……今のシンラと同一物とは思えないくらいに。
「志帆、大丈夫……力を抜いて? あんな無理はもう二度としないから。……怖かったよね、ごめんね。これからはしっかりと愛してあげる。気持ちいいところを一緒に探していこう」
 私は黙って頷くと、シンラの唇が再度私の口を覆った。
 
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