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第一章
三話
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「シンラくんはこの辺の人なの?」
「まぁそうだね。ねぇ、志帆、俺にくんは付けなくていいよ。志帆にはシンラって呼んでほしいんだ」
私にも呼び捨て希望?!
しかし、そんな可愛い顔で求められたらお姉さんは断れない。
私ごときが畏れ多いながらも、シンラと呼ばせていただこう。
「志帆は綺麗な黒髪だね。日本人形みたいな艶があって」
シンラは急に立ち止まり、いきなり私の髪を褒め出した。実は黒髪フェチだったりする?
「そう……ですかね。あまり意識したことはなかったです。よくいる日本人かなって」
「まさか……魅力的」
「うわ」
シンラは私の髪を手に取って口元に当てた。
なんとまぁ心臓に悪いことをしてくれる。
自覚してるイケメンってこれだから……でもシンラはどこか天然ぽい気もする。
「そろそろ、その……山から出れますかね?」
「……うん、この結界を通ればすぐだよ」
「これ、結界ですか? なんか茅の輪くぐりみたいな……」
神社でよく聞く大祓の茅の輪くぐり。
茅の輪くぐりとは神道儀式の一つで、茅という草を使って大きく作った輪っかを立てかけて、その輪を人がくぐり抜けることで、厄を払ったり健康をお祈りするための神事のことだ。
「それと似たような感じかな……入口だと思ってもらえれば分かりやすいかも」
やっぱりシンラは神社の子?
この辺のことも詳しそうだし……。
シンラに手を引かれて、私は結界を通った。
その際に周りの空間が一瞬歪んだような変な感覚がしたのだが、これって私の気のせいだろうか。
少し不安そうな私に、シンラは大丈夫と言って手を繋ぎ、一緒に歩いてくれる。
イケメン補正かな……シンラの行動と言葉についつい安心してしまう自分がいた。
しばらくして彼は歩みを止めた。
目の前に見えているその先は行き止まり、崖しか見えない。
こんなところにきてどうするのだろう。
シンラ……一体何を考えているの?
「さて、今から少し飛ぶから、志帆は俺にしっかり掴まっててね」
「え、飛ぶってなんです……か、キャアァァァァ!」
シンラに抱き抱えられ、そのまま勢いよく崖下まで落ちていく。
あまりの恐怖に私の意識はどこかへ飛んでしまった。
◇ ◇ ◇
「う……? ここは……?」
周りを見渡すと、神社本殿の中みたいな立派な内装をしている部屋にいた。
そして手を縛られて、ベッドに寝かされていることに気づく。
「どうして……」
「志帆、気がついた? ごめんね、崖がちょっと高かったから怖かったかな」
そう言って私の目の前に座っているのはシンラだ。
今の状況を説明してほしいと言うと、彼は手で私の顎を上に傾けてから、突然口づけをしてきた。私は思わず変な声を出す。
「……もしかして志帆はキス初めてだった?」
「うぅ……なんで」
シンラの行動に頭がついていかない。
私は一体何をされているのだろう。
「恥ずかしがらなくていいよ? これは期待できそうだ。ここに連れてこられた女の子たちは、経験済みでも命欲しさにみんな『ない』って言うからね……俺たち神を騙せるはずがないのに」
他の女の子たち?
私以外にも連れてこられた子たちがいるの?
それに神っていったい……。
「さて、今度は体の方を改めさせてもらうよ」
「やめ……」
シンラは私のスカートを捲った。
そして……。
「あ……処女。やっぱり当たり」
私は恥ずかしさと恐怖で頭が混乱し、何も言うことができない。勝手に涙が出てくるばかりだ。
そんな私を相手に、シンラは先ほどからずっと一人で喋っている。
「こないだ他の仲間が見つけた女の子たちは、残念なことにすでに破瓜が済んでいてね……狐神との婚姻には至らなかったらしいんだ。記憶を消されて、神より身分の低い妖狐に充てがわられた。神に嫁ぐためには、純潔じゃないといけないから仕方のないことだけど、それって不幸だよね」
私の顔にシンラの手が伸び、顔を近づけてきた。
なんて人間離れした美しさなのだろう。
こんな子が私をこのような目に……?
騙されたショックで、私の心は今すぐにでも壊れてしまいそうだ。
「俺はこう見えて、この村で祀られている一番偉い神様なんだ。ここでは力が全てだから、俺に選ばれた志帆は運が良いよ。俺も志帆と婚姻を済ませられれば、周りから文句を言われなくて済む。ここの年寄りどもは、はやく嫁を娶れ娶れと煩くてね」
シンラが神様……これが冗談じゃないってことは、シンラの頭の耳と、後ろに見えているたくさんの尻尾でよく解る。
てっきり神社の子だと思ったのに、シンラは本当に人間じゃなかったみたいだ。
まぁあんな高さの崖を落ちて、なんともないって時点で分かることだけど。
「……さて、婚姻儀を済まそうか。首に印はつけたけど、それだけじゃ心許ないからね。狐はずる賢いから、せっかくの上物……いつ他の神に横取りされるか分からない」
さっきの首の虫も嘘だった?
何も信じられない。
ただ怖い、怖いよ……。
「もう帰してください……」
「大丈夫、そんな難しいことじゃない。志帆が処女を捧げて、俺に抱かれれば儀式は終わる。ね? とてもシンプル。最初の痛みさえ我慢してくれればいいんだよ……」
私の足にシンラの手が伸びた。
手が縛られて動けないけど、私はできる限りの抵抗をするしかない。
「志帆……俺のことが嫌いになった? とりあえず最初だけで良いんだ。最初は俺がもらっておかないと他の狐神に狙われる。この村に入った人間は年を取らなくなり、二度と外へ出ることはできない。結界をこえた志帆はずっと村にいなきゃならないんだから、ここで一番力がある俺にしておいた方がいいよ。その後にゆっくり俺を好きになればいい。この村の神に娶られた嫁はみんなそうなるんだから」
本当に、この神は何を言っているんだろう。
そんなこと急に言われて、「はい、そうですか」なんて気持ちになるわけないじゃないか。
あまりにも考え方が人から離れ過ぎていて、ついていけない。
「私はシンラを絶対好きになんかならない」
「……随分嫌われちゃったなぁ」
この神には、きっと何を言ってもこちらの気持ちなど通じないのだろう。
こうなったら……!
「あ、ダメだよ」
「ぅぐ」
私の企みも虚しく、シンラに布を口に詰め込まれて止められた。
「……まさか、自分の舌を噛もうとするとはね。この村では年は取らないけど、致命傷を負ったら君たち人間は死んでしまう。うーん、そこまで嫌か……随分と貞操観念が高いんだなぁ……まぁ、それでも抱くけどね」
シンラの蒼い目が急に鋭くなり、私はこれ以上どうすることもできなかった。
「まぁそうだね。ねぇ、志帆、俺にくんは付けなくていいよ。志帆にはシンラって呼んでほしいんだ」
私にも呼び捨て希望?!
しかし、そんな可愛い顔で求められたらお姉さんは断れない。
私ごときが畏れ多いながらも、シンラと呼ばせていただこう。
「志帆は綺麗な黒髪だね。日本人形みたいな艶があって」
シンラは急に立ち止まり、いきなり私の髪を褒め出した。実は黒髪フェチだったりする?
「そう……ですかね。あまり意識したことはなかったです。よくいる日本人かなって」
「まさか……魅力的」
「うわ」
シンラは私の髪を手に取って口元に当てた。
なんとまぁ心臓に悪いことをしてくれる。
自覚してるイケメンってこれだから……でもシンラはどこか天然ぽい気もする。
「そろそろ、その……山から出れますかね?」
「……うん、この結界を通ればすぐだよ」
「これ、結界ですか? なんか茅の輪くぐりみたいな……」
神社でよく聞く大祓の茅の輪くぐり。
茅の輪くぐりとは神道儀式の一つで、茅という草を使って大きく作った輪っかを立てかけて、その輪を人がくぐり抜けることで、厄を払ったり健康をお祈りするための神事のことだ。
「それと似たような感じかな……入口だと思ってもらえれば分かりやすいかも」
やっぱりシンラは神社の子?
この辺のことも詳しそうだし……。
シンラに手を引かれて、私は結界を通った。
その際に周りの空間が一瞬歪んだような変な感覚がしたのだが、これって私の気のせいだろうか。
少し不安そうな私に、シンラは大丈夫と言って手を繋ぎ、一緒に歩いてくれる。
イケメン補正かな……シンラの行動と言葉についつい安心してしまう自分がいた。
しばらくして彼は歩みを止めた。
目の前に見えているその先は行き止まり、崖しか見えない。
こんなところにきてどうするのだろう。
シンラ……一体何を考えているの?
「さて、今から少し飛ぶから、志帆は俺にしっかり掴まっててね」
「え、飛ぶってなんです……か、キャアァァァァ!」
シンラに抱き抱えられ、そのまま勢いよく崖下まで落ちていく。
あまりの恐怖に私の意識はどこかへ飛んでしまった。
◇ ◇ ◇
「う……? ここは……?」
周りを見渡すと、神社本殿の中みたいな立派な内装をしている部屋にいた。
そして手を縛られて、ベッドに寝かされていることに気づく。
「どうして……」
「志帆、気がついた? ごめんね、崖がちょっと高かったから怖かったかな」
そう言って私の目の前に座っているのはシンラだ。
今の状況を説明してほしいと言うと、彼は手で私の顎を上に傾けてから、突然口づけをしてきた。私は思わず変な声を出す。
「……もしかして志帆はキス初めてだった?」
「うぅ……なんで」
シンラの行動に頭がついていかない。
私は一体何をされているのだろう。
「恥ずかしがらなくていいよ? これは期待できそうだ。ここに連れてこられた女の子たちは、経験済みでも命欲しさにみんな『ない』って言うからね……俺たち神を騙せるはずがないのに」
他の女の子たち?
私以外にも連れてこられた子たちがいるの?
それに神っていったい……。
「さて、今度は体の方を改めさせてもらうよ」
「やめ……」
シンラは私のスカートを捲った。
そして……。
「あ……処女。やっぱり当たり」
私は恥ずかしさと恐怖で頭が混乱し、何も言うことができない。勝手に涙が出てくるばかりだ。
そんな私を相手に、シンラは先ほどからずっと一人で喋っている。
「こないだ他の仲間が見つけた女の子たちは、残念なことにすでに破瓜が済んでいてね……狐神との婚姻には至らなかったらしいんだ。記憶を消されて、神より身分の低い妖狐に充てがわられた。神に嫁ぐためには、純潔じゃないといけないから仕方のないことだけど、それって不幸だよね」
私の顔にシンラの手が伸び、顔を近づけてきた。
なんて人間離れした美しさなのだろう。
こんな子が私をこのような目に……?
騙されたショックで、私の心は今すぐにでも壊れてしまいそうだ。
「俺はこう見えて、この村で祀られている一番偉い神様なんだ。ここでは力が全てだから、俺に選ばれた志帆は運が良いよ。俺も志帆と婚姻を済ませられれば、周りから文句を言われなくて済む。ここの年寄りどもは、はやく嫁を娶れ娶れと煩くてね」
シンラが神様……これが冗談じゃないってことは、シンラの頭の耳と、後ろに見えているたくさんの尻尾でよく解る。
てっきり神社の子だと思ったのに、シンラは本当に人間じゃなかったみたいだ。
まぁあんな高さの崖を落ちて、なんともないって時点で分かることだけど。
「……さて、婚姻儀を済まそうか。首に印はつけたけど、それだけじゃ心許ないからね。狐はずる賢いから、せっかくの上物……いつ他の神に横取りされるか分からない」
さっきの首の虫も嘘だった?
何も信じられない。
ただ怖い、怖いよ……。
「もう帰してください……」
「大丈夫、そんな難しいことじゃない。志帆が処女を捧げて、俺に抱かれれば儀式は終わる。ね? とてもシンプル。最初の痛みさえ我慢してくれればいいんだよ……」
私の足にシンラの手が伸びた。
手が縛られて動けないけど、私はできる限りの抵抗をするしかない。
「志帆……俺のことが嫌いになった? とりあえず最初だけで良いんだ。最初は俺がもらっておかないと他の狐神に狙われる。この村に入った人間は年を取らなくなり、二度と外へ出ることはできない。結界をこえた志帆はずっと村にいなきゃならないんだから、ここで一番力がある俺にしておいた方がいいよ。その後にゆっくり俺を好きになればいい。この村の神に娶られた嫁はみんなそうなるんだから」
本当に、この神は何を言っているんだろう。
そんなこと急に言われて、「はい、そうですか」なんて気持ちになるわけないじゃないか。
あまりにも考え方が人から離れ過ぎていて、ついていけない。
「私はシンラを絶対好きになんかならない」
「……随分嫌われちゃったなぁ」
この神には、きっと何を言ってもこちらの気持ちなど通じないのだろう。
こうなったら……!
「あ、ダメだよ」
「ぅぐ」
私の企みも虚しく、シンラに布を口に詰め込まれて止められた。
「……まさか、自分の舌を噛もうとするとはね。この村では年は取らないけど、致命傷を負ったら君たち人間は死んでしまう。うーん、そこまで嫌か……随分と貞操観念が高いんだなぁ……まぁ、それでも抱くけどね」
シンラの蒼い目が急に鋭くなり、私はこれ以上どうすることもできなかった。
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