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最終章
三十一話
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もはや遺跡の深部どころか、封印の入口までも全てぶち壊して出てきたリオに、その場にいたアランドの兵たちは驚きを隠せない表情で私たちを見ていたが、異変を事前に察したリュエルさんの月の力のおかげで、彼らの身辺は事なきを得たようである。
「リオがまた暴れるかもしれないと思い、こちらはしっかりと結界を張っておきましたよ。もちろん途中で出会ったアランドの兵たちの周辺へも重点的に。ソアさんが関わることでは、あなたはすぐに暴走しますからねぇ……」
そう言葉を重ねたリュエルさんの表情は、まるで向こう側で起きた全てのあらましを悟っているかのような……至極遠い目をしていた。
今は深部での異常な事態に気がついたアランド兵たちの多くがこの場所へと集まってきており、かなりの人数で賑わっている。
ロバートさんの体調も今は回復しているのか、私がリオに抱き抱えられている姿を見て心配そうに駆け寄ってきた。
「ソアさん、お体に何か……」
「ロバートさん、すみません……少し疲れてはいますが、大丈夫です……」
(リオが中々離してくれないだけで……)
「ちょっと失礼……」
リュエルさんは一言そう告げると、封印の入口があった場所から、中の方を覗き込む。
「あぁ……何か良くないものがこの向こう側に封じられていたようですね。リオが全てを破壊してきたようではありますが、少し淀んだ空気の残滓もまだみられます。リオ、念の為私の方でとどめをさしておきましょうか?」
「悪い。頼むわ」
リオの返答を聞いたリュエルさんは、懐から今度は小さな横笛を取り出すと、再び美しい音色を奏で始めた。
リュエルさんの体から発せられる、透き通ったヴェールのように美しい金色の幕が、この遺跡の壁に沿って広く広く浸透していく。
まるで遺跡内にある全ての淀みを浄化していっているかのような……。
(本当にすごい力……)
「月の女神よ、いつも感謝いたします」
演奏を終えたリュエルさんはそう言って、静かに祈りを捧げた。
その所作の全てが……私やアランドの兵たちが黙って惚れ惚れしてしまうほどに美しい。
(さすがは攻略対象様だわ)
「……さて、ここはもう大丈夫でしょうから、私たちは行きましょうか。後のことはこの国の方々に託してしまいましょう」
リュエルさんに促され、私たちはここの後始末をアランドの兵たちに任せることにして、遺跡の出口へと向かった。
砂漠の遺跡の外へと出ると、空はすでに夕焼け模様であった。
早朝ここへ来てから、おそらく10時間以上の時間が経過しているので当たり前ではあるのだが。
「はー……こっからまた馬車で帰んのかー……」
「あ、リオ、帰りはドラゴンくんを喚ぶよ。私たちだけなら、みんなで一度に乗れると思うわ。その方が絶対に早いでしょ?」
「まじ? でもソア、体調はもう大丈夫なのか?」
「うん、もう平気。途中で歩きながら自分に回復魔法もかけたし」
リュエルさんとロバートさんは私のテイムしたドラゴンくんに会うのは初めてなのだが、特に驚いた様子もなく感謝してくれた。
『このクニはさむくないからボクはすき。どうぞ、のって……』
「良かった。いつもありがとうね」
ドラゴンくんの機嫌もよろしく、これで無事に飛び立てそうである。
ただ、リオとなるべく顔を合わせないようにしてるように見えるのは、只の私の考えすぎであろうか。
(ま、この二人仲悪いからね……)
私はリオとリュエルさん、そしてロバートさんを連れて、ドラゴンくんとともにアランドの国の港まで最速で移動する。
そしてリオの船で合流したクラークさんたちと一緒に、シュノルゲルンへと帰るのだった。
◇ ◇ ◇
再び長い船旅を終えて、シュノルゲルンの街まで着くと、さっそく王城を訪ねた私たちは物凄い歓迎ムードの中、シュノルゲルン国王陛下とミワンナ王女殿下のお二人と無事にお会いすることができた。
「四人とも本当にご苦労だった」
「陛下、ありがたきお言葉でございます」
リュエルさんの深い一礼とともに、私たちも同じようにシュノルゲルンの王へ礼を尽くす。
そして、先日いただいた彫刻の件も含め、私は陛下や殿下のご好意に感謝を伝えると、シュノルゲルンの王は「いいのだよ」と、とても優しそうに微笑んでおられた。
「ソア様、私の方からはこちらを……」
今度は小さな姫から、ロケットではなく美しい装飾のついた小箱のケースを受け取る。
小箱を開けると、リオからもらった婚約指輪が元通りの姿となって中に入っていた。
「すごい……お伝えした通りの状態に……殿下、指輪を直していただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ、ソア様の大切な指輪ですから、これで少しでも恩返しができたのなら幸いですわ」
私は小さな殿下に背丈を合わせるように床へ膝をつき、頭を深く下げて再度感謝の気持ちを伝える。
その姿に、ミワンナ王女はとても驚いていたが、同時にとても嬉しそうであった。
「さて、ずっと長旅ゆえ、主らも疲れたであろう。しばらくはこの城に滞在し、ゆっくりと疲れた体を癒してくれたまえ」
陛下からの気遣いとお言葉に甘えて、私たちは休ませてもらうことにした。
しばらくの間、この城でまた楽しく過ごせそうである。
まぁ私には、まだ色々と聞かなくてはならない相手がいるのだけれども。
指輪が無事に直った今、リオにまた同じ魔法を付けてもらえさえすれば、それもすぐに叶うのだ。
「リオがまた暴れるかもしれないと思い、こちらはしっかりと結界を張っておきましたよ。もちろん途中で出会ったアランドの兵たちの周辺へも重点的に。ソアさんが関わることでは、あなたはすぐに暴走しますからねぇ……」
そう言葉を重ねたリュエルさんの表情は、まるで向こう側で起きた全てのあらましを悟っているかのような……至極遠い目をしていた。
今は深部での異常な事態に気がついたアランド兵たちの多くがこの場所へと集まってきており、かなりの人数で賑わっている。
ロバートさんの体調も今は回復しているのか、私がリオに抱き抱えられている姿を見て心配そうに駆け寄ってきた。
「ソアさん、お体に何か……」
「ロバートさん、すみません……少し疲れてはいますが、大丈夫です……」
(リオが中々離してくれないだけで……)
「ちょっと失礼……」
リュエルさんは一言そう告げると、封印の入口があった場所から、中の方を覗き込む。
「あぁ……何か良くないものがこの向こう側に封じられていたようですね。リオが全てを破壊してきたようではありますが、少し淀んだ空気の残滓もまだみられます。リオ、念の為私の方でとどめをさしておきましょうか?」
「悪い。頼むわ」
リオの返答を聞いたリュエルさんは、懐から今度は小さな横笛を取り出すと、再び美しい音色を奏で始めた。
リュエルさんの体から発せられる、透き通ったヴェールのように美しい金色の幕が、この遺跡の壁に沿って広く広く浸透していく。
まるで遺跡内にある全ての淀みを浄化していっているかのような……。
(本当にすごい力……)
「月の女神よ、いつも感謝いたします」
演奏を終えたリュエルさんはそう言って、静かに祈りを捧げた。
その所作の全てが……私やアランドの兵たちが黙って惚れ惚れしてしまうほどに美しい。
(さすがは攻略対象様だわ)
「……さて、ここはもう大丈夫でしょうから、私たちは行きましょうか。後のことはこの国の方々に託してしまいましょう」
リュエルさんに促され、私たちはここの後始末をアランドの兵たちに任せることにして、遺跡の出口へと向かった。
砂漠の遺跡の外へと出ると、空はすでに夕焼け模様であった。
早朝ここへ来てから、おそらく10時間以上の時間が経過しているので当たり前ではあるのだが。
「はー……こっからまた馬車で帰んのかー……」
「あ、リオ、帰りはドラゴンくんを喚ぶよ。私たちだけなら、みんなで一度に乗れると思うわ。その方が絶対に早いでしょ?」
「まじ? でもソア、体調はもう大丈夫なのか?」
「うん、もう平気。途中で歩きながら自分に回復魔法もかけたし」
リュエルさんとロバートさんは私のテイムしたドラゴンくんに会うのは初めてなのだが、特に驚いた様子もなく感謝してくれた。
『このクニはさむくないからボクはすき。どうぞ、のって……』
「良かった。いつもありがとうね」
ドラゴンくんの機嫌もよろしく、これで無事に飛び立てそうである。
ただ、リオとなるべく顔を合わせないようにしてるように見えるのは、只の私の考えすぎであろうか。
(ま、この二人仲悪いからね……)
私はリオとリュエルさん、そしてロバートさんを連れて、ドラゴンくんとともにアランドの国の港まで最速で移動する。
そしてリオの船で合流したクラークさんたちと一緒に、シュノルゲルンへと帰るのだった。
◇ ◇ ◇
再び長い船旅を終えて、シュノルゲルンの街まで着くと、さっそく王城を訪ねた私たちは物凄い歓迎ムードの中、シュノルゲルン国王陛下とミワンナ王女殿下のお二人と無事にお会いすることができた。
「四人とも本当にご苦労だった」
「陛下、ありがたきお言葉でございます」
リュエルさんの深い一礼とともに、私たちも同じようにシュノルゲルンの王へ礼を尽くす。
そして、先日いただいた彫刻の件も含め、私は陛下や殿下のご好意に感謝を伝えると、シュノルゲルンの王は「いいのだよ」と、とても優しそうに微笑んでおられた。
「ソア様、私の方からはこちらを……」
今度は小さな姫から、ロケットではなく美しい装飾のついた小箱のケースを受け取る。
小箱を開けると、リオからもらった婚約指輪が元通りの姿となって中に入っていた。
「すごい……お伝えした通りの状態に……殿下、指輪を直していただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ、ソア様の大切な指輪ですから、これで少しでも恩返しができたのなら幸いですわ」
私は小さな殿下に背丈を合わせるように床へ膝をつき、頭を深く下げて再度感謝の気持ちを伝える。
その姿に、ミワンナ王女はとても驚いていたが、同時にとても嬉しそうであった。
「さて、ずっと長旅ゆえ、主らも疲れたであろう。しばらくはこの城に滞在し、ゆっくりと疲れた体を癒してくれたまえ」
陛下からの気遣いとお言葉に甘えて、私たちは休ませてもらうことにした。
しばらくの間、この城でまた楽しく過ごせそうである。
まぁ私には、まだ色々と聞かなくてはならない相手がいるのだけれども。
指輪が無事に直った今、リオにまた同じ魔法を付けてもらえさえすれば、それもすぐに叶うのだ。
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