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第三章
二十五話
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長い船旅を終えて着いた先は、リオと私が住んでいる国からかなり離れた西に位置する大きな大陸だった。
この西大陸の特徴を簡単にあげるとすれば、乾燥した日差しの強い暑さ、そして半分以上が砂漠に覆われ、面積は広範囲にあれど人が住める土地というのが少なく、この大陸の国々はみな海側に偏って発展している、という点だろうか。
ただ、近年の急激な人口増加により、どこの国の街も常に人が溢れ、かなりの飽和状態なのだとか。
最近では、水源の確保のための技術も急激に上がってきており、砂漠側の方へと国の領土を広げていっているらしい。
この大陸で私たちが初めて足を踏み入れた場所は、西大陸の最東端に位置し、かなり貿易が盛んに行われているアランド王国という国の中であった。
そしてこの国の港街をざっと見渡したところ、前世の世界にあったアラブ諸国の雰囲気にとてもよく似ていた。
「はーやっと着いたなー……やっぱ距離クソ長かった。嵐にも巻き込まれねーで、よくここまで無事に来れたよ。運が良かったな、兄ぃ」
「いや、俺はここに来たいとは全くもって思っていなかったのだが……」
リオにとてもよく似た容姿であるロバートさんは、そう言って深い深いため息をついた。
「いい加減諦めて、そろそろ命ぐらい捧げろ」
「はぁ……なんと兄不幸な弟なのだ……あんなにも素直で可愛かったリオは一体どこに……」
「だから俺はもう子供じゃねーっての」
「まぁまぁまぁ……」
実の兄に冷たく言い放つリオを諌めたりしながら、先ほどからずっと落ち着きがないリオの兄ロバートさんと、始終落ち着き払っている美しい青年リュエルさんの二人と共に、私たちは街の中心地にある大きな酒場の中へと入った。
布で覆われた扉を潜り抜け、酒場の中へと入った瞬間、食事をしていたであろう人々から、こちらへ一気に視線を集める。
……が、リオ含め彼らはそんな周りの様子を全く気にする素振りも見せないまま、奥の方にある四人掛けの席へと座った。
今回、あえて貴族らしい服は避け、この国の民族衣装に近づけた格好をしているものの、やはり外国人である私たちの姿は珍しいのか、ここへ来る途中でも周囲からかなりの注目を浴びていた。
(リオたちは人から見られることに、常に耐性ができてしまっているんだろうなぁ……)
でも、酒場があるってことは、この国はお酒を飲んでも大丈夫ってことよね。
確か私が前にいた世界のこういった暑い地方の国では、宗教的な意味でお酒禁止の国もけっこうあったから。
「シュノルゲルンの城で、ロバート様はこの大陸に行ってもらえば分かると仰っていましたが、実際どんなご用事があったのですか?」
料理などの注文を終えて、周囲からの視線も少しずつ和らいできた頃、リュエルさんはそう言って、ロバートさんに話しを振った。
「ん、あぁ……実は、アランドの王がダッタンガラムの王と幼少時に交流があったそうでな。その縁で我が国へ正式に調査をお願いされたそうなのだ。その話が回り回って俺の方にやってきてしまい……いや、ダンシェケルト家に……という言い方が正しいか……」
「調査ですか……」
「うむ、ここからさらに西へ行った砂漠の先に、ある遺跡が出たそうだ。場所はダッタンガラムの人間ならば誰でも知る例の場所だ」
ロバートさんはそう言うと、この話しを黙って聞いていたリオの方をじっと見つめる。
するとリオは、急に納得がいったような顔をして、ゆっくりと首肯した。
「そうか……この大陸には、ナターリアの宿敵である魔族発祥の地つーやべぇ場所があったな……」
「あそこは枯れ果て潰えた土地だ。だが、ここ近年で活発になってきた領土の開拓により、つい最近地下の遺跡が発見されたらしいのだよ」
(え、この世界にそんな危険な場所がまだ残ってたの……)
ロバートさんからの説明いわく、アランド王と親交があったダッタンガラムの王が、女神信仰の強いダンシェケルト家に調査を依頼、しかし頼りの綱であるリオが私と長らく国を離れていたため、長子であるロバートさんに白羽の矢がたった。
しかし、ロバートさんはそれを不服に思い、本来ならば頼む予定であったリオにその役目を押し付けようと、わざわざ遠くの国まで彼を追ってきたのだという。
リオに任務を託し、そこですんなりと帰っていれば良かったのだが、ロバートさん的に居心地のイマイチであった巡回船に乗るという選択を捨て、できるならリオの豪華客船の方で快適に帰りたいという欲目に走ってしまい、無情にもリオに捕まってしまったというのが今回の流れであったらしい。
まぁ運が悪かったというかなんというか……。
「そこは自業自得だろ」
と、リオは冷たく言い放っていた。
「でも、本来ならリオが一人で受けるはずの任務だったのよね」
「そーみてぇだな」
(なんだろう……ナターリアに関する遺跡の調査をリオが一人で……というところに、どこか作為的なものを感じるんだけど……気にし過ぎかな)
確かにリオ自身は魔力も能力も高くて、とてつもなく強い人だけれど、今回シュノルゲルンの雪山であったみたいに、また何らかの力の影響を受けて暴走しちゃったら……とか考えるとちょっと怖い。
そして、ロバートさんの言う発見された遺跡というのは、女神ナターリアが倒したとされる魔族の発祥の地にあるらしいのだが、これはゲームの方では無論なかった設定である。
(女神の周りのことは、ゲームの中ではそこまで深く掘り下げて書かれていなかったし……)
私が前世でやった乙女ゲームは、この世界や実在する人物に非常に似せて作ってあった、女神のこの世でたった一つの自作ゲームなのだが、その設定はこの現実の世界でも度々ズレが起きていた。
あの女神のことだ、私をこちらの世界に呼び出すにあたり、不都合なことは何も伝えてきていない可能性もある。
しかも今は、リオからもらった魔力付きの指輪が壊れてしまい、ナターリアとの連絡がほぼ取れなくなってしまっている状態。
なのでその辺りの確認も、今では実現不可能なのだ。
この西大陸の特徴を簡単にあげるとすれば、乾燥した日差しの強い暑さ、そして半分以上が砂漠に覆われ、面積は広範囲にあれど人が住める土地というのが少なく、この大陸の国々はみな海側に偏って発展している、という点だろうか。
ただ、近年の急激な人口増加により、どこの国の街も常に人が溢れ、かなりの飽和状態なのだとか。
最近では、水源の確保のための技術も急激に上がってきており、砂漠側の方へと国の領土を広げていっているらしい。
この大陸で私たちが初めて足を踏み入れた場所は、西大陸の最東端に位置し、かなり貿易が盛んに行われているアランド王国という国の中であった。
そしてこの国の港街をざっと見渡したところ、前世の世界にあったアラブ諸国の雰囲気にとてもよく似ていた。
「はーやっと着いたなー……やっぱ距離クソ長かった。嵐にも巻き込まれねーで、よくここまで無事に来れたよ。運が良かったな、兄ぃ」
「いや、俺はここに来たいとは全くもって思っていなかったのだが……」
リオにとてもよく似た容姿であるロバートさんは、そう言って深い深いため息をついた。
「いい加減諦めて、そろそろ命ぐらい捧げろ」
「はぁ……なんと兄不幸な弟なのだ……あんなにも素直で可愛かったリオは一体どこに……」
「だから俺はもう子供じゃねーっての」
「まぁまぁまぁ……」
実の兄に冷たく言い放つリオを諌めたりしながら、先ほどからずっと落ち着きがないリオの兄ロバートさんと、始終落ち着き払っている美しい青年リュエルさんの二人と共に、私たちは街の中心地にある大きな酒場の中へと入った。
布で覆われた扉を潜り抜け、酒場の中へと入った瞬間、食事をしていたであろう人々から、こちらへ一気に視線を集める。
……が、リオ含め彼らはそんな周りの様子を全く気にする素振りも見せないまま、奥の方にある四人掛けの席へと座った。
今回、あえて貴族らしい服は避け、この国の民族衣装に近づけた格好をしているものの、やはり外国人である私たちの姿は珍しいのか、ここへ来る途中でも周囲からかなりの注目を浴びていた。
(リオたちは人から見られることに、常に耐性ができてしまっているんだろうなぁ……)
でも、酒場があるってことは、この国はお酒を飲んでも大丈夫ってことよね。
確か私が前にいた世界のこういった暑い地方の国では、宗教的な意味でお酒禁止の国もけっこうあったから。
「シュノルゲルンの城で、ロバート様はこの大陸に行ってもらえば分かると仰っていましたが、実際どんなご用事があったのですか?」
料理などの注文を終えて、周囲からの視線も少しずつ和らいできた頃、リュエルさんはそう言って、ロバートさんに話しを振った。
「ん、あぁ……実は、アランドの王がダッタンガラムの王と幼少時に交流があったそうでな。その縁で我が国へ正式に調査をお願いされたそうなのだ。その話が回り回って俺の方にやってきてしまい……いや、ダンシェケルト家に……という言い方が正しいか……」
「調査ですか……」
「うむ、ここからさらに西へ行った砂漠の先に、ある遺跡が出たそうだ。場所はダッタンガラムの人間ならば誰でも知る例の場所だ」
ロバートさんはそう言うと、この話しを黙って聞いていたリオの方をじっと見つめる。
するとリオは、急に納得がいったような顔をして、ゆっくりと首肯した。
「そうか……この大陸には、ナターリアの宿敵である魔族発祥の地つーやべぇ場所があったな……」
「あそこは枯れ果て潰えた土地だ。だが、ここ近年で活発になってきた領土の開拓により、つい最近地下の遺跡が発見されたらしいのだよ」
(え、この世界にそんな危険な場所がまだ残ってたの……)
ロバートさんからの説明いわく、アランド王と親交があったダッタンガラムの王が、女神信仰の強いダンシェケルト家に調査を依頼、しかし頼りの綱であるリオが私と長らく国を離れていたため、長子であるロバートさんに白羽の矢がたった。
しかし、ロバートさんはそれを不服に思い、本来ならば頼む予定であったリオにその役目を押し付けようと、わざわざ遠くの国まで彼を追ってきたのだという。
リオに任務を託し、そこですんなりと帰っていれば良かったのだが、ロバートさん的に居心地のイマイチであった巡回船に乗るという選択を捨て、できるならリオの豪華客船の方で快適に帰りたいという欲目に走ってしまい、無情にもリオに捕まってしまったというのが今回の流れであったらしい。
まぁ運が悪かったというかなんというか……。
「そこは自業自得だろ」
と、リオは冷たく言い放っていた。
「でも、本来ならリオが一人で受けるはずの任務だったのよね」
「そーみてぇだな」
(なんだろう……ナターリアに関する遺跡の調査をリオが一人で……というところに、どこか作為的なものを感じるんだけど……気にし過ぎかな)
確かにリオ自身は魔力も能力も高くて、とてつもなく強い人だけれど、今回シュノルゲルンの雪山であったみたいに、また何らかの力の影響を受けて暴走しちゃったら……とか考えるとちょっと怖い。
そして、ロバートさんの言う発見された遺跡というのは、女神ナターリアが倒したとされる魔族の発祥の地にあるらしいのだが、これはゲームの方では無論なかった設定である。
(女神の周りのことは、ゲームの中ではそこまで深く掘り下げて書かれていなかったし……)
私が前世でやった乙女ゲームは、この世界や実在する人物に非常に似せて作ってあった、女神のこの世でたった一つの自作ゲームなのだが、その設定はこの現実の世界でも度々ズレが起きていた。
あの女神のことだ、私をこちらの世界に呼び出すにあたり、不都合なことは何も伝えてきていない可能性もある。
しかも今は、リオからもらった魔力付きの指輪が壊れてしまい、ナターリアとの連絡がほぼ取れなくなってしまっている状態。
なのでその辺りの確認も、今では実現不可能なのだ。
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