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第三章

二十四話

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「リオ、またずいぶんと来るのが遅かったですね」
「一応これでも急いだんだがなぁ……いつもより早めに切り上げたし」
 私とリオがのシャワーを終えて船の甲板までくると、すでに食事を始めていたリュエルさんとロバートさんに、テーブルの席で迎え入れられた。
 最初は、リオにどこへ連れて行かれてしまったんだろうとちょっと心配はしてたんだけど……良かった、ロバートさんもちゃんと人間らしい待遇はされていたみたい。
「なんだ、リオはずっと勉強でもしてたのかい?」
「いあ? つーか勉強ってなんだよ。俺ももう学校はとっくに卒業したろーが」
「あぁ、そうだったか……あの小さかったリオが……そうか、いつの間にか大人になっていたんだな……」
 ロバートさんはそう言って、頭を上下に「うんうん」と振っていたかと思うと、今度はしんみりとした顔でリオを見つめていた。
 リオとはかなり年の離れた兄弟だったみたいだから、きっと今でも弟が可愛くて仕方ないんだろうな……どんな仕打ちされても。
 でも確かに、雪山の神殿で出てきた精神体のリオは完全に幼児の姿だったけれど、かなり可愛かった。
 思わず母性をキュンとくすぐられるような……そんな素敵な男の子だったのだ。
 
「想像以上に盛りあがってはいたから、数回で済ますのはやっぱ惜しかったけどよ。そこで気を失われちゃかなわねーからな……まぁ仕方なく途中で……」
「ん? 今度はいったい何の話してます?」
「ははーん、俺には分かったぞ。弟も中々隅には置けないな。はははは」
(ひゃーリオもロバートさんもそれ以上はもうやめてぇ……そしてリュエルさんはできればそこスルーでお願いしますぅ……)
 はぁ……リオも子どもの時はあんなに可愛かったのに……。
 大人になるとなんでなっちゃうのか……。
 この時の私は、赤くなった顔をロバートさんたちに見られないように、リオの後ろで隠れているのが精一杯だった。

「素晴らしい星空だ」
 あれから少し経って、船の上から見える夜空を眺めながら、ワインを片手にご満悦な様子のロバートさん。
 私たち四人はこの満点の星空の中で、順番に運ばれてくる食事を各々のペースで楽しんでいた。
「ほら、なんと美しい……ソアさんはそれ以上に美しいがね」
「あ、ありがとうございます」
 リオに似た大人の男性に、容姿を褒められるってすごい複雑な気分。
 なんだろう……嬉しいのと同時になんか妙にドキドキしてしまうわ。
あにぃ、すでにけっこう飲んでやがるな?」
「そうだとも。これが飲まずにやってられるかね。しかしなぜ俺がこんなこと西へ強制連行になったのか……本当に不思議でならないよ」
「さてね。面倒ごとを誰かに押し付けようとした罰でも落ちたんじゃねーか?」
 リオはそれだけ言うと、ふんっと鼻を鳴らしてみせた。
「ほぅ、その罰というのを与えてくる元凶がまさか自分の実の弟なのだが」
「俺以外に誰があにぃを罰せられるよ? まぁ、どっちにしろあにぃが義姉さんに怒られるのはまず間違いねぇけどな」
「うぅ……それは言わんでくれ。帰国した時のことを考えると、今からでも気が重いのだ……」
 あれから食事が運ばれるたびに、ワインを要求するロバートさんなのだが、少し飲むペースが早い気もする。
 まぁ彼の心中を思えば、それも致し方なし……か?
(そういえば、私もリオもお酒を飲んでも良い年齢にはなっているのだけど、祝いの席以外ではあまり飲んだことがないな……)

「あの……ソアさん、良かったらこちらを見てくださいますか?」
 そう言ってリュエルさんから差し出されたものは、装飾に手の込んであるかなり立派な小箱だった。
「え、リュエルさん、これ一体どうされたんですか?」
「シュノルゲルン国王陛下から、ソアさんへの贈り物です。ソアさんたちが戻ってくるまでの間に、陛下自ら手配をされていたようで……」
「へ、陛下自ら……? ひとまず……開けてみますね」
「はい」
 私はリュエルさんから受け取った小箱のフタを、ゆっくりと上に開いてみる。
 すると小箱の中から出てきたものは、シュノルゲルン城が彫刻された、手のひらサイズのとても美しい置物だった。
「こちらは陛下から、ソアさんたちが国を助けるために色々と手伝ってくださったお礼だそうです。それと、ソアさんがあの城をとても褒めてくださっていたことが、どうやら陛下の耳にも入っていたようで、あえてシュノルゲルンの城を起用されたようですよ」
 リュエルさんの言葉を聞いた私は、陛下からの心温まる気遣いを受けて、思わず言葉に詰まってしまう。
「本当に……とても……綺麗です。ありがとうございます。大切にします」
「はい。できればシュノルゲルンに戻った際にでも、ソアさんの口から直接お礼を言っていただけると、陛下もとても喜ばれるかと思います」
「はい、そうですね。絶対にそうします」
 あの美しい城が、この小さな世界の中に隅々まで精巧に再現されている。
 そのあまりの完璧な出来栄えに、私の心は感動が止まらず、ずっと目が離せないでいた。
 すると、その様子をそばで見ていたリオも、興味深そうにじっと私の手元を覗いてくる。
「へぇ、本当にあの城そっくりじゃねーか。それにずいぶんと純度の高けぇ宝石使ってんなぁ、これ」
(えっ……)
 そんな高価なものを陛下から……?
 い、いいのかな……。
「ミワンナ王女にも指輪の修理をお願いしてしまっているのに……」
「それだけのことをソアさんがあの国にしてくださったということですよ。そんな気にされなくてもきっと大丈夫ですから」
「そ、そうですかね……」
 でも今回のトラブル、元はといえばリオの親戚の人が原因だったし、シュノルゲルンはむしろ巻き込まれちゃっただけの気もするんだよね。
 だから、親族である私たちがそれを調査するのは当然……。
「そうそう、あんま気にすんなよーもらっとけもらっとけ」
 って……ほぼ要因でもあるお前がそれ言うか!
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