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第二章
十六話
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あれから私は少し気を失っていたらしい。
裸体のまま自分の服の上に寝そべる形で倒れていたことに気がついた時は、かなり焦った。
それに、今この場にリオの姿はなくて……。
「いっ……た……」
(体のあちこちが痛い……)
硬い床の上で寝てしまっていたせいか、それとも先ほどのリオとの出来事のせいなのかは分からないが、いつもにも増して体の不調を感じる。
私は即座に自分の体へ癒しの力を使うと、所々で感じていた体の痛みもすぐに和らいだので、今度は床に散らばった服を急いでかき集めた。
服の上に寝ていたおかげか、私の体はそこまで汚れてはいなかったが、その代わりの犠牲となったモコモコのコートは黒く汚れ、ホコリまみれの状態に私は愕然とする。
(うぅ、ボタンも何個か千切れちゃってるし、汚れてひどい有様……でも、もしかしてこういうのも、聖魔法で浄化とかできるのかな)
ボタンは無理だとしても、最低限の汚れは取ることができるかもしれない。
私は静かに浄化の魔法を唱えると、スッと優しい光の風が服の周りを走り、一瞬で綺麗になった。
あの狼に似た魔物の、闇を消し去る感じで浄化していた時とは違い、今回は物に対して回復魔法をかけるような……守りの浄化を意識して発動させてみたのだ。
すっかり綺麗になった服を見て、このやり方は色々と使えるのではないかと悟った私は、自分の衣服を再び身に着けたあと、リオが床へ落としたままになっていた例の日記を拾って、先ほど服にかけた時と同じ要領で浄化の魔法をこの本にかけてみた。
すると、日記の周りに渦巻いていた黒いモヤは光の風によって浄化され、この部屋の中で感じていた異様な空気も、急にすっきりと晴れてしまう。
この国の問題や、リオと私の身に起きている全ての元凶が、この黒いモヤの存在のせいな気がしていて、今ここで自分の力によって浄化できたことに、まずはホッと肩を撫で下ろした。
(今度はなんとか浄化できた……良かった。でもこれ、ぱっと見は普通の日記なのにどうして……)
私は男性向けに装丁された、深緑色の日記を改めてしっかりと見てみる。
表紙にある金色に印字された文字は、おそらく誰かの名前だったのだろうが、故意に削られた跡があり、何が書いてあるのか私にはよく分からなかった。
なんとなくパラパラと日記のページをめくってはみたが、薄暗い部屋の中で、この小さな手書きの文字を把握するのは中々難しいものがある。
リオがこの場にいれば、彼の持っていた魔光石で一時的にも部屋の中を明るくすることはできたのだろうが……。
しかし、うまく読むことができないとはいえ、丁寧に記載された文字が、紙の上でとても美しく綴られていて、高度な教育を受けた者が手がけた日記だということだけはよく分かった。
(たぶんこの日記は、ダンシェケルト家の人の記録だろうから、持ち帰ってあとでリオに見せた方がいいよね)
私はこの文章の中に、今回の魔物の件やリオの体に異変が起きたことの、何かヒントに繋がるようなことが書かれているかもしれないと思い、床の上にあった自分の鞄を拾い上げ、日記をその鞄の中へと仕舞った。
(それにしても肝心のリオは、一体どこに……)
全てが終わったあの時、リオの体は悪魔の姿から人間の見た目へと戻っていたように見えたのだが、この部屋の中で自分が裸のまま倒れていたことを考えると、リオの意識がきちんと元の彼に戻っていたかどうか定かではない。
普段のリオだったら、私をこんな状況で床に放置したまま、どこかへ行ってしまうなんてこと、ある筈がないから。
(とりあえず今はリオを探さなきゃ……)
ここではもう用がないなと感じた私は、警戒を緩めずに部屋の外へと出た。
この建物の構造は、自分がシュノルゲルンの街でブルークリスタルに閉じ込められていた時、見ていた夢の中に出てきた聖堂ととてもよく似ている。
しかし、あの場所はこんな暗い感じではなかったし、全然汚くもなかった。
むしろ神秘的ながら、とても美しかったのである。
あの夢は、ここに至るまでの何かの警告だったのだろうか……。
私は勇気を出して、薄暗い廊下を歩いていくが、自分の足音しかしないあまりの静けさに、背筋がゾッとする。
この聖堂に入った最初は、どんどん進んで行ってしまうリオを無我夢中で追いかけて来たが、今はうっすらと感じるリオの気配を頼りに私は歩みを進めた。
例の部屋があった廊下を、来た道とは逆の方向にしばらく行き、小さな礼拝堂を何個か通り過ぎると、奥の広い部屋のさらに奥に、鍵が壊れた鉄格子の入口を見つける。
その鉄格子の扉を内側に開けると、内部の関係者しか入らないような、装飾もされていないシンプルな階段が目に入った。
私はリオの気配を感じるがまま、ゆっくりと階段を降りていく。
薄暗い階段を降り続けてきて、もう四階分くらいは下っただろうか。
階段の最後にあった、地下牢の入口のような鉄格子の扉を開けると、その先には地面があらわになった、建物の中とはとても思えない庭のような場所に出た。
所々に見える木々は、まるで整備のされていない雑木林の中のように乱雑に生え、石や岩などがゴロゴロしている。
壊れた彫刻のような残骸も、相当な数が放置されていた。
ここはまるでハロウィンのお化けでも出てきそうな、ちょっと怖い雰囲気の庭園である。
(胸の聖痕から感じるリオの気配を頼りにここまで来たけど、本当にこんなところにリオがいるのかしら)
私は辺りを見回すも、この庭の先が見えぬほどに相当広く作られていて、気を抜くと迷子になってしまいそうだった。
足元にある様々な残骸を避けながら、私は歩けそうな所を厳選して少しずつ進んでいくと、奥の方にあるひどく荒れた場所に、誰かが倒れているのを発見する。
遠目ではあったが、あの姿はまさしく……。
「リオ!」
私は思わず大きな声で夫の名前を呼び、気がつくと彼の元まで走っていた。
裸体のまま自分の服の上に寝そべる形で倒れていたことに気がついた時は、かなり焦った。
それに、今この場にリオの姿はなくて……。
「いっ……た……」
(体のあちこちが痛い……)
硬い床の上で寝てしまっていたせいか、それとも先ほどのリオとの出来事のせいなのかは分からないが、いつもにも増して体の不調を感じる。
私は即座に自分の体へ癒しの力を使うと、所々で感じていた体の痛みもすぐに和らいだので、今度は床に散らばった服を急いでかき集めた。
服の上に寝ていたおかげか、私の体はそこまで汚れてはいなかったが、その代わりの犠牲となったモコモコのコートは黒く汚れ、ホコリまみれの状態に私は愕然とする。
(うぅ、ボタンも何個か千切れちゃってるし、汚れてひどい有様……でも、もしかしてこういうのも、聖魔法で浄化とかできるのかな)
ボタンは無理だとしても、最低限の汚れは取ることができるかもしれない。
私は静かに浄化の魔法を唱えると、スッと優しい光の風が服の周りを走り、一瞬で綺麗になった。
あの狼に似た魔物の、闇を消し去る感じで浄化していた時とは違い、今回は物に対して回復魔法をかけるような……守りの浄化を意識して発動させてみたのだ。
すっかり綺麗になった服を見て、このやり方は色々と使えるのではないかと悟った私は、自分の衣服を再び身に着けたあと、リオが床へ落としたままになっていた例の日記を拾って、先ほど服にかけた時と同じ要領で浄化の魔法をこの本にかけてみた。
すると、日記の周りに渦巻いていた黒いモヤは光の風によって浄化され、この部屋の中で感じていた異様な空気も、急にすっきりと晴れてしまう。
この国の問題や、リオと私の身に起きている全ての元凶が、この黒いモヤの存在のせいな気がしていて、今ここで自分の力によって浄化できたことに、まずはホッと肩を撫で下ろした。
(今度はなんとか浄化できた……良かった。でもこれ、ぱっと見は普通の日記なのにどうして……)
私は男性向けに装丁された、深緑色の日記を改めてしっかりと見てみる。
表紙にある金色に印字された文字は、おそらく誰かの名前だったのだろうが、故意に削られた跡があり、何が書いてあるのか私にはよく分からなかった。
なんとなくパラパラと日記のページをめくってはみたが、薄暗い部屋の中で、この小さな手書きの文字を把握するのは中々難しいものがある。
リオがこの場にいれば、彼の持っていた魔光石で一時的にも部屋の中を明るくすることはできたのだろうが……。
しかし、うまく読むことができないとはいえ、丁寧に記載された文字が、紙の上でとても美しく綴られていて、高度な教育を受けた者が手がけた日記だということだけはよく分かった。
(たぶんこの日記は、ダンシェケルト家の人の記録だろうから、持ち帰ってあとでリオに見せた方がいいよね)
私はこの文章の中に、今回の魔物の件やリオの体に異変が起きたことの、何かヒントに繋がるようなことが書かれているかもしれないと思い、床の上にあった自分の鞄を拾い上げ、日記をその鞄の中へと仕舞った。
(それにしても肝心のリオは、一体どこに……)
全てが終わったあの時、リオの体は悪魔の姿から人間の見た目へと戻っていたように見えたのだが、この部屋の中で自分が裸のまま倒れていたことを考えると、リオの意識がきちんと元の彼に戻っていたかどうか定かではない。
普段のリオだったら、私をこんな状況で床に放置したまま、どこかへ行ってしまうなんてこと、ある筈がないから。
(とりあえず今はリオを探さなきゃ……)
ここではもう用がないなと感じた私は、警戒を緩めずに部屋の外へと出た。
この建物の構造は、自分がシュノルゲルンの街でブルークリスタルに閉じ込められていた時、見ていた夢の中に出てきた聖堂ととてもよく似ている。
しかし、あの場所はこんな暗い感じではなかったし、全然汚くもなかった。
むしろ神秘的ながら、とても美しかったのである。
あの夢は、ここに至るまでの何かの警告だったのだろうか……。
私は勇気を出して、薄暗い廊下を歩いていくが、自分の足音しかしないあまりの静けさに、背筋がゾッとする。
この聖堂に入った最初は、どんどん進んで行ってしまうリオを無我夢中で追いかけて来たが、今はうっすらと感じるリオの気配を頼りに私は歩みを進めた。
例の部屋があった廊下を、来た道とは逆の方向にしばらく行き、小さな礼拝堂を何個か通り過ぎると、奥の広い部屋のさらに奥に、鍵が壊れた鉄格子の入口を見つける。
その鉄格子の扉を内側に開けると、内部の関係者しか入らないような、装飾もされていないシンプルな階段が目に入った。
私はリオの気配を感じるがまま、ゆっくりと階段を降りていく。
薄暗い階段を降り続けてきて、もう四階分くらいは下っただろうか。
階段の最後にあった、地下牢の入口のような鉄格子の扉を開けると、その先には地面があらわになった、建物の中とはとても思えない庭のような場所に出た。
所々に見える木々は、まるで整備のされていない雑木林の中のように乱雑に生え、石や岩などがゴロゴロしている。
壊れた彫刻のような残骸も、相当な数が放置されていた。
ここはまるでハロウィンのお化けでも出てきそうな、ちょっと怖い雰囲気の庭園である。
(胸の聖痕から感じるリオの気配を頼りにここまで来たけど、本当にこんなところにリオがいるのかしら)
私は辺りを見回すも、この庭の先が見えぬほどに相当広く作られていて、気を抜くと迷子になってしまいそうだった。
足元にある様々な残骸を避けながら、私は歩けそうな所を厳選して少しずつ進んでいくと、奥の方にあるひどく荒れた場所に、誰かが倒れているのを発見する。
遠目ではあったが、あの姿はまさしく……。
「リオ!」
私は思わず大きな声で夫の名前を呼び、気がつくと彼の元まで走っていた。
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