転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました[3]

みなみ抄花

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第一章

八話

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「ソアはどーせ、現地に行く気なんだろ?」
「う、うん……だって気になるし……」
「それでも、今日とかすぐは無理だからな。行くなら明日だ」
「分かってるわよ。ただ……」
 私はリュエルさんの方へと視線を合わせる。
 すると、リュエルさんは私が何が言いたいのかをすぐに察してくれた。
「ソアさんが明日ここを発つことを、侍女からミワンナ様に伝えてもらいましょう。この後、お二人に時間があれば、昼食でも一緒にいかがですか?」
「俺は別に構わねーが……」
「そういえば、もうそんな時間ですね」
 今、こうしている間にも、小さな王女様を待たせているのだ。
 彼女は私に何かを聞きたがっていたようだし、少しの時間でもいいから、お話ししてあげたい。
「王女様が一緒なら、庭とかのがいいんじゃねぇか?」
「そうですね。せっかくですし、外に出ますか」
 リュエルさんはそう言うと、そばで控えていた城の侍女に、庭での王女との食事を提案する。
 彼女はその場で快く了承してくれると、すぐに対応してくれた。
 時間的にはあと一時間くらいで正午になるけれど、きっとまだ間に合うだろう。
 私たちの方も、外に出るための着替えをする時間は十分にある。
(この国の外気温はかなり低いからねぇ。城の中は暖かいけれど、外に出たら一気に氷点下だもの)

 私とリオ、リュエルさんは一度、部屋の前で別れ、それぞれ王女との食事のために準備をすることにした。
 そしてしっかりと対策を取った上で、再び合流し、私たちは移動を始める。
 無駄話などせず、速やかに城の庭園まで来ると、いつでも食事が開始できるよう、すでに昼食の用意は済まされていた。
 少し経って、ミワンナ王女もこちらに到着し、王女に挨拶を済ませた私たちは、美しくセッティングされた席へと着席する。

「殿下、ここはとても素敵なお庭ですね」
「ありがとうございます。この城の庭には、冬の花しか咲かないのですが、美しい自慢の庭なのです」
 ミワンナ王女はそう答え、嬉しそうな顔をこちらへ向けた。
 小さな王女の笑顔は、年相応でとても可愛らしい。
 シュノルゲルン城の周りは、リオの家の庭園とは全く違う雰囲気だが、うっすらと氷に包まれながらも、健気に咲いている花々に囲まれた庭は、かなりの絶景だった。
「ソア様、わたくし、あなたにとても聞きたいことがありまして……」
「なんでしょうか?」
 リオとリュエルさんが私たちの席から少し離れたところで、侍女に食事を出してもらっている頃、殿下は先ほど言いかけていた言葉を口に出す。
「街の中心にある、あの聖なるクリスタルに認められるには、一体どうしたら良いのでしょうか。わたくしも、国民のために癒しの力が使えるようになりたいのです。この国の国王の後継者は、今やわたくしだけ……。王妃であった母様もわたくしが幼い頃に亡くなっています。わたくしもいつか、父と同じ立場となった時、国民のために尽くせるよう、まずはクリスタルに認められたいのです」
「殿下……」
 真剣な面持ちで、国民のために頑張りたいとおっしゃる小さな姫の言葉からは、意志の固さを強く感じた。
 ミワンナ王女は、将来きっと立派な君主となられるに違いない。
「ミワンナ様、素晴らしいお考えですね。でも、ごめんなさい。私自身、あの出来事については、よく分かっていないのです。街のブルークリスタルのそばを通った時、気がついたら私は、知らない世界を彷徨っていました。しばらくして、自分は夢の中にいるのだと確信を持ちましたが、すると突然世界が壊れ始めて、夢から覚めることができたのです。目を開けてみれば、いきなりクリスタルの中でしたけど……」
「クリスタルに閉じ込められている間、ソア様はずっと夢の中を彷徨っていたのですか……」
「はい。私の時間感覚的には半日くらいでしたけれど。どうやらその間、クリスタルにずっと何かを試されていたようです」
「それは……この短期間に、すごい体験をされましたね」
「ええ。でも今の殿下のように国民を想い、真っ直ぐな心をお持ちなら、いつかきっとクリスタルは答えてくださると思います」
「そうなってくれればよいのですが……。ソア様、貴重なお話をしてくださり、感謝いたします」
 この小さな姫はそう言って、穏やかに笑って見せた。
 幼い少女とは思えないほど、とても真っ直ぐな目をしている。

 その後も王女とたわいもない話をしながら食事を取っていたら、時間はあっという間に流れていった。
 殿下は午後の授業があるため、ランチが終わるとすぐに城の中へと戻ってしまったが、私たちも殿下を見送った後は、そばにいた侍女たちに任せ、この場を後にした。
 そして三人で、城の中にある談話室へと移動する。
「北の雪山はいったいどんなところなのかな……」
「あっちはこの首都よりも、かなり厳しい気候だとは聞いてますけどね」
 まぁ、そうよね。
 ここでも充分に寒いのに……さらに北にあるんだもの。
「おい、ソア」
「なによ」
「雪山行ってもよ、また相手が動物だからって、会話しようとかすんじゃねーぞ? 今回の相手は悠長に話なんかしてられねぇ……気がつくとこちらの急所が一気にやられてるような、厄介な相手だ」
「も、もちろん分かってるわよ」
 今回はさすがにない。
 だって魔物になってなくても、狼は怖い存在だもの。
 彼らとのんびり意思疎通ができるなんてことは、全く思っていない。
 向こうからしたらこちら人間側は、ただの食料としか見られていないんだからさ。
「まじで勝手に死ぬなよ? 今ソアがいなくなったら、俺どうなるかわかんねーからな?」
 えっ、あんたそういうの、頑張って成長したんじゃなかったの?
 いや、私のことでそんなに悲しんでくれるのは嬉しいんだけどさ、色々と重いんだよ、ほんとに。
 今回クリスタルの時も闇に落ちかけたりしてないでしょうね。
 でも、もしかして……。
「ま、まさか最近の魔物騒ぎ……」
「んー……いや、たぶん俺じゃ……いや、どうだろ」
 そこ、断言できんのかい!
 恐ろしいやつだ……本当に……。
「でも今回は魔力の暴走なんてさせてない……はず? なぁ?」
「知りませんよ、私は」
 リオに突然同意を求められたリュエルさんは、さらっと流すように目を逸らした。
「あ、リュエてめぇ、なんか最近冷てーぞ!」
「私だって冷たくもなりますよ。何回繰り返す気なんです、あなたは。島の時のように、この国の人たちを避難させなきゃいけない状況とかは、さすがに勘弁願いますよ。お願いですから、あの黒い力はもう二度と出さないでください」
「だー! わかってるっつの! 俺だってちゃんと途中で抑えただろうが!」
 やっぱり出したんだ……なんか黒いの。
 
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