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第1話 大抵のなろう小説は死亡から始まる

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「 兄ちゃん! 早く! 」
「急かすなよ! ところで、 今日なんの日?」
「忘れたの? 誕生日! 」
「あー、 そっか。そうだな」
「ったく! 兄ちゃんは……」
「それもお兄ちゃんの特権なんだよ」
「意味不明! 」

忘れたわけじゃない。
単に、 朝のこんなくだらない会話を楽しみたいんだ。
母が他界してしまい、しばらく経った。
あれ以来、 俺は自分のことをどこかで責めていた気がした。
母さんが事故に遭ったのは、自分が悪い。
勝手にそうこじつける事で、 今から逃げたかったのかもしれない。
けど、 そんな俺を妹がそっと支えてくれていた事に俺は気づいてなかった。
今では母さんの代わりに俺が色々こいつの為にやっている。
家事は全般俺がやって、まあ、たまに宿題だとか受験勉強だとか手伝ったりしてやってる。
面倒見がいい兄貴だとか、考えたことは今までなかった。
当たり前のように兄貴としてこいつの前に立っているだけだから大したことは無い。

「なあ、 夜は何か外食でもするか? 」
「手抜き? 」
「じゃねーよ。 たまには良いかなってさ」
「まあ、兄ちゃんがそーしたいなら私は別にそれでも良いけど」
「よし、決まりだな。 予約取っとくよ」
「どうせファミレスなんだから予約要らないでしょ」
「……… 雰囲気だよ。 いーだろ、一回言ってみたかったんだから 。ノリ良くねーぞ」
「はいはい、 面白い面白い」
「なんつー………ハァ、もういい」
「あ、そうだ」

と、バックから妹は手紙を取り出した。

「さっきポストに入ってたよ。 兄ちゃん宛だって」
「ん? 俺に?  ………って! 芸能プロダクションからじゃねえか! 寄越せ!」

半ばひったくるようにその手紙を奪取した。
宛先は先週履歴書を書いて送った大手芸能プロダクションからだった。
正直、 朝から心臓が高鳴って仕方がなかった。
長年の夢でもあったし、いや、長年のってつけるほど長く生きているわけでも無いけど、それでも妙な緊張感があった。
現に手紙を持っている手は震えに震えまくってる。
慎重に手紙の封を切り、文面に目を通す。

………………。

……………………。

……………………………。

「ど、 どうだった? 」
「うん、 ………いや、まあ、分かってたよ」

結果は残念ながら落選。
オーディションすら受けられなかった。
まあ、 そう甘くは無いことくらいは分かっていたつもりだが、やはりなんだろう何か堪 (こた) えるモノがあった。

「あー、なんで朝からこんな落ち込まなきゃならんのだ………」
「ま、 まあ、兄ちゃんなら大丈夫だよ。 兄ちゃんが頑張ってるのは私だって知ってるよ?」
「……… うん、 そうだよな? ありがとよ 梓 (アズサ) 」

よし、 今日の妹の誕生日にはこんな事を忘れてしまうくらいに楽しもう。
これでもかー! ってぐらいに楽しむ。
で、 次の機会に賭けて自分の演技力とやらに磨きをかけていく。
せっかく、 応援してくれる人がいるから。
せっかく、出来た夢なんだから。
と、 遠くに人だかりが見えた。
救急車に、数台のパトカー。
閑静な住宅地にも関わらずその空間のみ異様にも見えた。

「 事件かな? 」
「今朝ニュース見ないで出ちゃったからな。 なんだろな」
「 ちょっと野次馬ってみる? 」
「遅刻しても知らねーぞ? 」
「ちょっとだけだから 」
「その好奇心が命取りだってなんかの映画で見たよーな気がすんだけど…… っておい! 」

妹はすでに脱兎のごとく駆け出してその野次馬の中に紛れていた。
俺は呆れ顔に仕方なしにその後をつけた。

どうやら、昨日のうちに殺人事件があった様だ。
被害者は自宅にて何者かに鋭利な刃物にて殺害されたらしい。
被害者とその犯人との関係性や、 動機も不明。
無論、 犯人の目星がつかめていない以上捕まってはいない。
完全な野放し状態になっているという訳だ。

「 今日は下校時間早まるかもな」
「兄ちゃんは大学生なんだから時間なんて関係ないでしょ? 」
「ま、 そうだけどお前は用心しておけよ?」
「分かってるって」

けど、 俺だって例外じゃ無い。
用心しなくちゃ。





ーーーーーーーーーー





そうだ。
そこまでは覚えている。
あの後、 妹の梓と別れた俺はまだ一限までに余裕があったから妹のプレゼントを買いに街まで出ていたんだ。
何を欲しがっていたかさっぱり分からなかったから選ぶのにかなり苦労したけど。
けど、 女性がよく行きそうな場所に片っ端から行くのはかなり気が引けた。
そもそも、 ブティックとかランジェリー売り場だとか行ったことも入ったこともないとこに行くのはあまりにも恥ずかしかった。
きっともう二度と行くことは無いだろう。

とりあえず、俺は喜ぶかどうか分からない誕生日プレゼントを購入してバックに突っ込み、大学までの道を行った。
その日は、いつもよりやけに日差しが強かった。
ただでさえ、最近は貧血気味だってのに…… 。

「まあ、プレゼントも買ったんだし… テキトーに授業を受けて……」

その時だった。
信号は赤だった。
歩行者用は青だった。
けど、それは俺に向かってあまりに速いスピードで………。


そこから先は憶えていない。
トラックが明らかに制限速度無視してこっちに向かって突っ込んできたって事くらいしか。
ついてないなーって思う反面、 いよいよ俺にもヤキが回ってきたんだなって思った。
妹の誕生日だぞ。
それに1人だ。
あー、 最悪だ。
目の前が真っ暗になってきやがった。
ゴメン、 梓。
あまり頼りない兄貴だったけど、 責めないでくれ。





ーーーーーーーん?



そうして、俺はその中で1人 木に背をもたれて佇んでいた。
瞬時に理解できたことと言えばその世界は俺が見知っていた世界じゃなかったことくらい。
後は、 さっきから殺気剥き出しの………。

「 何で死んでないんだよ!」

このガキくらいだ。
頭にツノがある。
顔形は人間そのものだから、ツノが余計異様に見える。
あと、 フラフラとこいつから逃げようとしてカメラだとか監督含めたクルーとか探したが誰もいなかった。

「 妹の読んでいた小説に、 そーいえば異世界転生だとかってのがあったな。 今はコレが流行りだとか言って、 俺は馬鹿にしてたけど……… 」
「何、 さっきからブツブツ言ってんだ? 」
「 とりあえず、 そのナイフをしまえ。 俺はお前に殺される様ないわれは無いし、 ここがどこなのかだって分からねーんだから 」
「オレにはある! お前は勇者だ! お前はオレの兄ちゃんを倒した! 」
「それさー、 本当に俺か? とりあえず警察行ってこいよ。 納得出来ねーなら、 裁判でもなんでも受けてやる 」
「黙れ! お前が倒したのを見たんだ! 」

俺はふと立ち止まった。

「お前の兄ちゃんって、 何してる人? 」
「 ………… 魔王だ! けど、 父さんは生きてるから次期魔王が正しい 」
「魔王なんて職業があるか。 つまりアレだろ? 自宅を警備してる特殊な部隊所属の方だろ?  今、かなり遠回しに言ったけどなつまりはニートって意味だからな 」
「なんだそれ、 お前、さっきから言っている意味が一つも分からない」
「勉強しとけ 」
「けど」

と、 いきなりそのツノが生えた少年は俺めがけてナイフを突いた。
反射神経が鈍かったら間違いなく死んでいた一撃だった。

「お前は敵だってのは、 はっきり分かる……! 」

となるとこのガキ、 マジで俺を兄貴のカタキとか思ってるのか?
つーか、 それどころじゃない。
妹の誕生日プレゼントを渡さなければ……… って、アレ? そーいえばプレゼントが入ってあるバックはどこいった? 

「 おい、 バックは何処にある? 」
「 剣や鎧ならお前が持っているだろう。 早く脱ぎ捨ててオレと闘(たたか) え! 」
「 いや、 知らねーよ。バックは……… 」

待てよ。
オレ、 どうしてこんな世界にいる?
そーだ……、 オレあの時に。

「 すでに、 死んでいたのか」

なんてこった………。
妹の涙だけは流させないようにずっと気張って頑張ってきたのに。
それよりも、 俺は。
俳優になりたかった。

「 まだ死んでないだろ。 オレが倒してない」
「 死んだんだよ…… そうじゃなきゃ、俺はこんな所に来るはずがない」
「 お前はオレが倒す! それが兄貴にとっても俺にとっても意味を成すんだ! 」
「 まるで人生を達観したような言い方だな 」


俺はその場にへなへなと座り込んでしまった。


「お、 おい? どうした? 」
「なあ、 お前に頼みがあるんだけどさ」
「なんだ? 」
「そのさ、 ナイフで俺を一思いにやってくれないか? 」
「は? 」
「その衝動で俺はこの夢から覚めるかもしれない。だから、 頼む。 流石に、妹残して1人のうのうとなんて出来るわけねーんだよ 」
「さ、 さっきから、 お前は意味わかんないんだよ! 本当に兄貴を倒した勇敢なる勇者なのか!? 」
「 さあな。 こいつがどこの誰かも分からねえし。もしかしたらものすごい強運とかあって無双できたりする超絶無敵のヒーローかも知れない。 けどな、中身は大したこともない普通の町人Aでしかねーんだよ。 力があるわけでもねーし。 なんか出来るわけでもねー。 だったらお前はチャンスじゃねーか。 お前は兄貴のカタキを打てるし、 俺は多分 ”天国” とやらに行けるんだろうな 」
「………………… 」
「 今んなってよーやく思い出した。 俺、 信号無視してきたトラックに轢かれて死んだんだ…。 だから、 頭の後ろから血がたれていたんだ。  なんでこんな世界に来たかは知らねーけど、 きっと妹は俺を散々恨むんだろうな。 あー なんか胸糞悪くなって来やがった……… 」

と、 ひとしきり喋り倒したとき。
少年は手に持っていたナイフを地面に落とした。

「なんか、 馬鹿らしくなってきた 」
「どうした? やめたのか? 」
「拍子抜けしたんだよ。 兄貴を倒した勇者が、 悪魔みたいな奴だって思ったらなんか普通の人だったから 」
「 ………… あっそ 」

悪いな、雰囲気ぶち壊しにして。
けどな、俺みたいのがファンタジーの世界に溶け込めるとか思ったら明らかに思い違いだ。
中身はただの妹思いの優しい兄貴なんだから。

刹那、 目の前の草むらが揺れた。

「 ! 誰かいる! 」
「 見りゃわかる。 動くなよ 」

急に場の空気が張り詰めた。
俺は地面に落ちた剣を手元に手繰り寄せ臨戦態勢を取る。
構えとかRPG 的な流儀は知らないから急に来てもなんとか一打くらいは与えられるよう剣を構えている感じだったが、格好はあまり勇者らしくないかも知れなかった。
右片手持ちだったのもあるかも。
草むらが揺れた不確定要素が確信に変わる。
その影は、 静かに立ち上がる。
とっさに何でそんな行為をしたか分からないが少年の片腕を握っていた。
少年も明らかに不思議な表情を浮かべ見せる。


ーーーーーーーー ガサッ !


その影は姿を現した。

「 !!? おぉ、 勇者殿だ! 勇者殿が帰って参られたぞ!!! 」
「 は? 」

俺はとっさに少年を見つめた。

「知り合い? 」
「いや、 あんただよ 」









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