26 / 67
盗賊騎士団鉄腕ゲッツ
しおりを挟む貴族としてはこじんまりとしたイクター男爵家の邸宅の庭。
そこで二人の王が対面していた。
一人は、拳闘王ことイースバルツ第十三代目国王アダルト・イースバルツ。
もう一人は神から恐れられる最悪の魔王ガイア・フォース。
彼らはこの土地で起きたイースバルツという国の存在を脅かす出来事の調停の為にここに居る。
この土地で起きた出来事は二つ。
国の象徴である帝龍の殺害と、魔王がこの土地に対して行った事実的な侵略である。
後者については、イクター家の当主ヘルメスがあらかじめ王に直談判したが、王はヘルメスが著しく判断能力を失っているとして判断し、調停の席から外すという結果に終わった。
結果、この土地の領主を除いて王と魔王のみで事態の収拾の話しあいをするという奇妙であるがどこつり合いのとれた光景が生まれた。
周囲の人間は彼らの周りに集まり、王を守護するために睨みを利かすもの、中立に位置し、争いを仲裁に入るだろうもの、魔王に与し、王に与するものに牽制の為に殺気を送るもの。
ゼウスは成り行き上、魔王に与している側にいることになり、そこで二人と周囲の様子を見ている。
こちらの正面に位置している王の背後にいる黒の襤褸を纏った連中にはよく憶えがあった。
イースバルツに進軍する際に、何度もぶつかった連中だ。
彼らは国王の親衛隊である『盗賊騎士団鉄腕ゲッツ』だ。
親衛隊とは名ばかりで、国王を囮にして敵の兵站を奪うことや略奪を行うような奴らだ。
ノースクラメルでの評判は最悪だ。
先に挙げた兵站の強奪、略奪の他にも奴らは敵が嫌がることを全力を尽くしてやって来るからそれもしょうがないだろう。
奴らと交戦したノースクラメルの軍隊の大半は、兵站強奪、新兵殺し、侵攻した領土の焦土化で継戦不可能に追い込まれている。
その最悪の騎士団の団長のウォージマは、睨みを効かせる他の団員とは違い、人の好きしそうな顔のままだが、彼の左手はすでにアーツを発動させて黒いオーラでおおわれていた。
先ほどから奴のアーツがゼウスの、心臓とセイクリッドに対して何度もかけられる感覚がゼウスには不快に感じられてしょうがない。
仕方のないので、彼女はセイクリッドに手を添えるとアーツを発動させる。
宙に小さな雷電が走り、ウォージマがアーツを発動させている左手を貫く。
ウォージマは不自然に左手を痙攣させると、あからさまな殺気をゼウスに向けてくる。
ゼウスは意趣返しにそれを塗りつぶすような殺気をウォージマに向けた。
やっとやめる気になったらしく、視線を席上にいる二人に彼は目を向ける。
すると、しばし無言のままだったアダルトが口を開いた。
「……貴様には娘の件での恩義がある。だがそれと龍殺しと村の祭りに乗じて行った侵略についての話は別だ」
一度そこで区切ると王は魔王に向けて、飢えた獅子のような向け者に根源的な恐怖を植え付ける視線を投げかける。
ゼウスの地点からガイアの様子はみえないが、アダルトが嘲笑をしていないところをみるといつもどおりの冷めた瞳か、心ここにあらずと言った感情を感じさせない瞳をしたことは想像に難くない。
「イクター家の当主から報告でお前がノースクラメルの帝龍を殺した旨の報告を受け、実際に我も確認に駆け付け、その亡骸を確認した。帝龍の死は、一国の王がすべての政務を保留し、処理に回るほどのことだというのはもちろんわかるはずだ。そこで貴様に聞きたい。どうしてノークラメルと我が国の帝龍を殺したのか、その理由を」
アダルトは迂遠な口調で、どうして氷絶龍を殺したのかの真意を魔王に問う。
その質問には多分に魔王に対する威圧も込められていた。
だが一国の頂点からの恫喝に対しても、魔王の背はいつも通り泰然としている。
魔王がどんな解答をするのか?
この場にいる全員の視線が魔王に集中した。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる