国で暗殺されそうなので、公爵やめて辺境で美少女専門テイマーになります

竜頭蛇

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自分のことをプリンセスだと思っている精神異常者

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俺の故郷のノースクラメルと、現在地イースバルツを含む六つの国から成るクルー大陸は精霊の住む土地だ。
 クルー大陸にいる精霊たちは、彼らの縄張りに居る人間に対して加護を与える。
 ノースクラメルではその土地に住む精霊に愛され、他にない強大な加護を授けられたものが現在の武家――貴族になったとされている。

 他の貴族の御多分に漏れず、俺も精霊の加護を受けている。
 俺にある加護は『インスティンクト・テンプル』。
 仲間がいる状態で、先陣をきる場合、自分と仲間に自動回復とダメージカットをつけるというものだ。
 いままで地味にその加護に助けられておいてあれだが、いろいろとバタバタしていたせいで、この国に来て一か月近く、加護の代償である祈りをささげていない。

 だが、それは精霊サイドからは許されないらしく、目が覚めると宿屋の部屋の中でフォース家の領地の精霊様が仁王立ちしていた。

「おお、猿、お主謀反か? 儂に対して祈りを捧げぬとは、ええ?」

 ベッドに腰かける俺を、蔑むような目つきで見下ろすと、精霊様はふくよかな胸と黒髪のポニーテールを苛立たし気に上気させる。

「メリットビリーブ様、苛立った顔も素敵ですぅ」

 その足元では、和服姿のピンク髪美人に化けたクリムゾンが恍惚とした顔で精霊様にしなだれかかっている。
 前から思ってたけど、こいつ、どんだけ精霊様好きなんだよ。
 普段と別人すぎるわ。

「いや、これは何と言いますか。精霊様自ら、ご足労願うこととは思わなかったのもので。滞納した祈りを今捧げますのでご容赦を……」

 俺は良い訳をごねながら、立ち上がって玄関に向かう。
 フォース家で制定されている精霊様と接する上でのルール② 『精霊様の下駄を懐で温めよう』を達成するためだ。
 精霊様の下駄を懐にいれると、先ほどの言い訳通り、膝をついて、精霊様の前で祈りをささげる。

「ふむ。まあよかろう。恭順の意を示すと言うなら、顧みんこともない」

 精霊様はとりあえず矛を下したようで、切れ長の目を閉じて、桃色の瞳を隠した。
 そのまま目を閉じたまま、玄関まで行く。
 足から手を放すしかなくなったクリムゾンは「およよ……」とか言って、去っていく精霊様の方に流し目を送っている。

 誰ですかあなた……。

「これはどういうことじゃ? 猿、儂の下駄がなくなっておるぞ」

「はは、精霊様、下駄が冷えぬように懐で温めておりました」

 俺は懐で温めた下駄を精霊様の足元に置く。

「ふん、気が利くではないか」

 精霊様が毎度おなじみのツンデレを発動させると、やにわに振り向いた。

「儂はここの精霊のカエサルのところに居るから、なにかあればそこに来るがいい」

 そう言うと精霊様は踵を返して、部屋から出ていた。
 精霊様、この土地に待機していくのか、すぐ飛んできそうだな。
 まあ一日に一回、ひざまづいて、祈りささげるだけだし、素直に祈りを捧げるか。

「ふうう。相変わらず、メリットビリーブ様は最高ね。……そういや、あんた今日はどうするの?」

「今日は収入源ゲットの為にギルドに登録して――」

 俺は朝食の黒パンをとりだしながら、何をしなければいけないのか思い出す。

「ここに来るまでのアイテムの換金……」

 ゴンゴンゴン!

 こちらが言葉を紡ごうとする途中で、ドアをノックする音がけたたましく鳴る。

「アダルマンティーだよ。ここを開けな。王城に帰還したらあたしの偽物が居たせいで、中には入れてもらえないし、あんたを騎士団長にできなかったんだよ。今からあたしと一緒に偽プリンセスと騎士団長をぶっコ〇して、あたしとあんたがプリンセスと騎士団長になるんだよ」



 ―|―|―



「はあ、朝から血刻! 血刻ぅ!」

 俺は自分のことをプリンセスだと思っている精神異常者から逃げていた。
 まさか奴がコロシアムのプリンセスでなくて、マジもんのプリンセスだと自分のことを思っているとは……。

「ガイア、いい加減に自分の罪と向き合いなさい。……安心して、あんたが死んだら、あたしが叙事詩『騎士団長ドナドナ』を出して、アンタの一生を後世に伝えるわ」

「うるせえ! まずお前が衛兵にドナドナされろ!」

 主人のピンチだというのに、薄情なことこの上ない叱責を飛ばすと後ろを振り返る。

「待ちなさいよ! あんたは騎士団長になるのよ!」

 血走った目のアダルマンティーが、全力疾走で追いかけてくる。
 血走った眼のうちから、ハート型の桃色の燐光が漏れ出ているのが伺える。

 ヒエ……。あいつは狂っている、バグってるとかそんなもんじゃねえ!
 マジの奴だ!

 俺は再び目を前に向け、目の前の道から逃走ルートを決める。
 このまま馬鹿正直にまっすぐ行ったら、狂化EXのかかった奴の地力に負けて捕まるのは目に見えている。
 コーナーを使ってアダルマンティーを翻弄するしかない。

「右折で差をつける!」

 俺は逃走本能を赴くままに右折を繰り出すと、曲がった先にイケメンと美女メイドがいるのが見えた。

「あ、ヤバ」

 ぶつかることは避けられないと、悟った俺は美女に向けて進路を取り、ラッキースケベに一縷の望みをかける。

「ガイア! 危ない!」

 そこでまさかのピンク野郎のアッパーカットが俺に炸裂した。
 お前が一番危ないよ……。

「うおおおお! おのれ、クリムゾン!」

 俺はアッパーによって衝撃を緩和され、ラッキースケベもかなわず、イケメンと美女メイドの前で血の噴水と化す。

「ヘルメス様! 気を付けてください! 人に血を浴びせて興奮する変態です!」

「フフフ。 そんなに血を迸らせて、あたしに会うのがそんなに嬉しかったのかい」

 俺は美女メイドに変態認定を受けるとともに、アダルマンティーに後頭部をヘッドロックされた
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