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見合いに失敗したそこのYOU! 敵国の辺境に逝っちゃいなよ!
しおりを挟む俺の名前はガイア・フォース。
公爵家の長男。
SSSランクの男だ。
だがしかし、令嬢アマゾネスたちには全くそんなことは関係ない。
奴らにとっては強きものこそ絶対なのだ。
それ故、クリムゾンの助けがなければ戦闘力ゼロの俺の見合いは困難を極めた。
だが、今夜は違う。
いける。そう、本能が告げていた。
相手の名前はクロノス・セル。
青いセミロングの髪に、黄色の瞳が印象的なおとなしそうな娘だ。
この令嬢は今までのアマゾネスどもとは違う。
挨拶の抱擁も包み込むように柔らかく、見合いで初めて、ベッドインまで許された。
しかも今日は家にクリムゾンを置いてきている。
途中で邪魔が入ることはない。
いける。これはいけるはずだ。
あとは俺の頭の中に集積されたヤリチンたち(薄い本)の行動をまねればいいだけだ。
「うひょひょぉ~! クロノスちゃん、今夜は寝かせないよお!」
「きゃあああああああ!」
俺はベッドの隅で縮こまっているクロノスちゃんに向かって張り手をぐるぐるさせながら、近づいていく。
彼女の涙に潤んだ黄色い双眸がことさらに見開かれる。
これまでの展開は本通りだ。
「おほ! おほ!」
俺はことさらに、息を荒くして、距離を詰める。
クロノスちゃんはここで、やめてええと言いながら、体からほとばしるオーラ的な何かで服を弾き飛ばすはずだ。
「近づかないでぇぇ!」
すると、一瞬だけクロノスちゃんの姿がぶれて見えた。
あれ、おかしいな……。
本とは違う何か別のアクションが発動したんだけど。
おそるおそるクロノスちゃんの腕を手でつかむ。
重みも弾力もあったが、それは一瞬で消えてしまった。
嫌な予感がする……。
「いやあああぁぁぁ!」
こちらの気づきと同時に背後で叫び声が上がる。
振り返ると、クロノスちゃんがもう一体。
じゃあ、今触れているクロノスちゃんは?と思って、視線を戻すと正面のクロノスちゃんが二体に増えていた。
「いやああああぁぁ!」
今度は左右同時に叫び声が上がり、見ると左右それぞれに三体ほどのクロノスちゃんがいた。
クロノスちゃんがいっぱい……。
気づいたら、周りを囲まれていた。
気の弱そうな子だと思っていたが、さすがは『暗器』をBランクまで上げた令嬢と言ったところか。
火のないところに煙は立つわけないか、噂を信じとけばよかった。
誤っても殺されないとわかっていても、周りにほぼほぼ実体を残した残像を囲まれるのはなあ。
俺とクロノスちゃんの実力を考慮すれば、こちらは体を木に括りつけられた挙句、四方八方から槍を投擲されている状態に等しい。
その様子はただただ恐怖でしかない。
~30分後
「うひょひょぉ~! ガイアちゃん、今夜は寝かせないよお!」
残像を伴い、距離を詰めてくるクロノスちゃん。
「近づかないでぇぇ!」
俺はベットの隅に身を寄せながら絶叫する。
あっちを向いても、こっちを向いてもクロノスちゃんがいっぱい。
めちゃニコニコしながら、こっちに近づいて来る。
「君たち、何をやってるんだ……?」
クロノスちゃんのパパ、メメル・セル伯爵がそんな言葉を上げて、俺のお見合いは25回目の失敗を迎えた。
処刑待ったなしだ。
―|―|―
フォース家――ミルフィ専用執務室。
我々、フォース家の面々は家族会議の真っ最中だ。
「まったく! お前は何回即落ち二コマやったら気が済むんだよ! もう庇いきれないよ。しかも逆に見合いの件が露見して、見合いの申し出25回来るもすべてお断りとか、筋金入りのカマ野郎に強化されてるし」
黒の長髪を揺らして、パパ――ディゼル・フォース侯爵が悲鳴にも似た怒声を鳴らす。
少しオーバーな気がするが、息子の危機だ。
この人も何かしら思うことがあるのだろう。
「さすがにこのままでは、公爵家と言っても、ガイアの暗殺は免れないですね。身内だろうと自分に仇をなす人間にはウラノスは厳しいですから」
細く長い指で焦りを抑えるように何度もテーブルを叩いて、ママ――ミルフィ・フォース公爵も現状況についての所感を述べる。
「そんなこと言われても、僕にどうしろと」
自分でも事態のヤバさを把握して、どん詰まりに居るのに、そんなことを再び突きつけられても困る。
国の宰相であるママが思いつかんことを俺がなにがしか思いつくわけがないのだ。
それにいくらなんでも相手が悪すぎる。
ウラノス王はやると決めたら一直線な上、それを達成するための手段は択ばない、しかも権力の頂点ゆえに手段も人脈も無限大だ。
現状、ママとパパが色々な手練手管で何とかやっているが、それでも限界があるというのに。
そんな厄介な相手にドンデン返しみたいなことを、人生経験の薄い俺が考えつくのは無理がある。
これはアレだ。
俺の専門領域に持っていくしかないだろう。
流石にごり押し系に拠点防衛するのは難易度が高すぎるのだから。
「対応策はないですけど、逃げてもいいのなら逃亡しますけど」
「逃亡だと? どこに逃げるというんだ。フォース家は他国に遺恨を多く残しているし、国内ではお前の顔は割れているんだぞ。すぐに領主にみつけられて、暗殺者を派遣されるのがオチだ」
パパはふざけたことを言うんじゃないと言った感じで、目くじらを立てて言う。
流石にそう簡単にはいかないようだ。
というか、フォース家、他国から疎まれてるのか。
「あら、そうでもないんじゃないかしら」
「なに?」
「逃亡先がイースバルツならば、国王も手を出しづらいんじゃなくて?」
ママがとんでもないことを言った。
敵国に逃亡しろって。
そんなもん、身を隠すためにハイエナの巣に入っていくようなものだ。
本末転倒にもほどがある。
「なるほど」と、パパが納得したように呟くが、俺は納得できない。
「いや、それはさすがにきついですよ、敵地の中に僕一人なんて。そんなことしたら五秒で肉塊になります」
「大丈夫よ。あなたには正面から戦ったら誰も勝てない護衛がいるんだから」
近くで丸いボール状になって、寝むているクリムゾンにママは目を向ける。
当の本人は顔がないので表情からは推測できないが、誇らしそうに見えないことはない。
まあ、確かに防御の面ならママの言うとおりだ。
だけど、攻撃の面ではそうでもない。
こいつは基本、攻撃はしないのだから。
その理由を本人に尋ねると「強いものは簡単に手を上げないものなのよ」とニヒルに言っていたが怪しさムンムンだ。
俺はおそらく攻撃手段を持っていないと踏んでいる。
「護衛がいると言ったてですねえ……」
「ここで、毒入りの食事やら、油断したタイミングでいきなり刺客に襲われるよりはましでしょう」
そのことばを聞かされてぐぬぬとなるが、確かにそういうところもあるので言い返せない。
敵国に潜れば、正面からの反発のみに集約されて、毒殺、暗殺を免除される。
だがその分、素性がばれた時、よりリスキーになる。
敵国の重鎮の息子なのだから、見せしめに広場で拷問されて処刑されることもあるかもしれない。
もしそうなったら、最悪だが、まあそれでもかもしれないかだし、まだ敵国の方がなのだが。
「そうですね。敵国の逃亡の方がいいかもしれませんね」
二択の選択肢がどちらもまともでないので半分やけくそな気持ちになりつつ答える。
青汁と苦汁どちらがいいと言われているようなものだ。
「では、早速敵国の国境に向かいましょうか」
「えらく、用意がいいのですね、母上」
「ちょうど、出陣だったもので」
そんな都合のいいことあるかよ。
「そういうことだ、ガイア。馬車は私が手配しておいてやろう」
俺が食い下がろうとすると、パパがそれを抑えるように先手を打った。
そう言えば、なんか最初から演技臭い匂いがしたのだ。
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