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本編
しおりを挟む「ふー、今日もいっちょやりますかぁ!」
「剛くん、今日もやっちゃう~!!」
「キャハハwww キンモーwww」
昼休みに入ると、金髪の男女ーー剛、常夫、ジズの3人組が俺の席に近づいてくる。
周りのクラスメイトは「お、今日のショウタイムはじまるわ!」「あいつ前、殴られすぎて痙攣してたの面白すぎたから、また見たいわw」などとまるで見せ物を感想を言うような感覚でニヤニヤしながら囃し立てる。
「トミタくぅ~ん、主役が座ってたら始まらないじゃんw 早く椅子から離れろよw」
「グッ!」
いつも通りの展開から腕で頭を守ると、予想通り蹴りが飛んできて、そのまま勢いで椅子を倒された。
「ヒューー!!」「エッグw」「盛り上がってきたーww」と予定調和のようにクラスメイトたちが湧き上がり、俺は全方面から蹴りがくるのに備えて、体を丸めて防御の姿勢をとる。
いつもの通りジズがスマホで録画し、剛と常夫が哄笑を上げながら蹴り続ける地獄が始めるかと思ったがおかしいことに一拍待っても蹴りの衝撃が来ない上、なぜかじめっとした感触が顔を撫ぜるのを感じたので顔を上げると、周りを囲む2、3メートルはありそうな大きな角もつ獅子と蝙蝠が合体したような化け物たちと密林が目に飛び込んできた。
「なんだよ、これ!?」
見上げた先にいた剛が俺が思っていたことを代弁し、異常事態だと言うことを認識したクラスメイトたちが騒ぎ始める。
「おい、なんだよこれ?」「おいこいつら涎垂らしながらこっち見ってんぞ!」「ちょ、マジ勘弁なんですけど!」
「おいおい、みんな落ち着けよ! これ最近流行りの異世界転生とかいうやつだから!」
クラスメイトが慌てる中、常夫が訳知り顔でクラスメイトにそう指摘すると、「ステータス」といい、ステータスウィンドウを目の前に出現させた。
「やっぱりぃ~! 僕ちん、ほんとに賢いわあ!」
常夫は自身を称賛すると、ステータスウインドウを読み上げていく。
「うほお! 剣聖じゃん! かっくうぃぃぃ! なになに、剣術スキル習得速度10倍、剣所持時、ステータスUP(極)! つええけど、剣ないから意味ねええ!」
常夫が落胆した声を上げる中、クラスメイトたちもステータスウィンドウを目の前に出し始める。
俺も例に倣って、ステータスウィンドウを表示する。
ーーー
富田豊雄(17)
ユニークジョブ『いめられっ子』L v1……無視される
ーーー
「なんだよこれ、デメリットだけのゴミじゃないか」
人から無視されるだけの効果に絶望すると、突如上空に大きな火球が飛んでいた。
「どーよー、あーし、すごいしょw ジョブ、赤の大魔導師で、最初から『大火球』とか言うスキルが使えるわ」
「お、でかしたじゃん、ジズ。俺は勇者で、剣聖の常夫と同じで今はなんもできねえからな、ちょうどいいわ。サクッとあそこのやつらやっちゃってよ」
「オーケーw」
剛がジズに指図するとジズはヘラヘラしながら、クラスメイトたちを掻き分け、化け物たちがよく見える位置に出ると10メートル近くの大きな火球を右手に生じせて、投げた。
着地し爆風が生じると、「パネエw」、「これ即死でしょw」とクラスメイトたちが化け物たちの死を確信した声を上げた。
「GuGaaaaaa!!」
だがそれに反して、不機嫌な雄叫びと赤い瞳が見え、パンと何かが弾かれた音が聞こえた。
音のした方を見やると、宙を舞う血に濡れた化け物の尾と、首から先がないジズの姿が見えた。
「うわああああああ!」「いやああああああ!」
それを見たクラスメイトたちは恐慌に陥って、叫び声を上げ始めた。
周囲を化け物に囲まれているので、皆、人を押し除けて内側に逃げていく。
「ぐっ!」
ジョブの効果でステータスが強化されているのか、俺はクラスメイトたちにいとも簡単に吹き飛ばされると、いつの間にかバケモノの眼前に来ていた。
「っ!!」
先ほどの頭を吹き飛ばされたジズのことを思い出し、息を呑むと、バケモノは俺をまるで無視する様に脇を通り抜けていく。
「え……?」
てっきり頭を齧られるかと思っていたので、その反応に驚くと、『無視される』効果の対象が人だけではないのではないかと気づいた。
「俺だけはもしかしてここで助かるのか?」
俺が絶望の中で希望を見出すと、俺を素通りしていくバケモノたちの姿と他人を押し除けてできるだけ中央に逃げようとするクラスメイトの姿が見えた。
あまりにも壮絶な光景に足を止めて見いてしまう。
バケモノたちがついに外側にいるクラスメイトたちの元に辿り着いて、頭から齧り始めるとほとんどのクラスメイトが諦めた様にその場にへたり込み始める。
「と、富田! お、お前、ふざけるなよ! 見せもんじゃねえぞ! こいつらに狙われてないスキル持ってることはわかってんだ、早く助けろよ!」
「トミッチ、一緒に今までクラスのバイブス上げてきたじゃ~ん! ここは協力してさ、一緒に異世界の天下を取ろうぜ!」
全員がへたり込む中で立っていた剛と常夫が助けるように指図していくる。
散々俺を見せ物にしてきたくせに自分が見せものになる側になると逆キレする剛と急に馴れ馴れしくなったに不快感を感じるとともに、現実的に助けられるかどうか考えてみる。
俺は無視されているので、おそらくバケモノの近くにはいけるが、密集状態で蠢く奴らの足を掻い潜って包囲網の中央にいくのは無理だろう。
それにまず俺のジョブの『無視される』効果があいつらに適用されるかがわからないし、ジョブと紐付いていることを考えればおそらく俺以外には適応されない。
現状こいつらは助けることは不可能だろう。
「無理だよ。もう化け物に固められて人っこ一人入れないんだから。苦しいのも怖いのも一瞬だけだし、それくらい我慢してくれよ。ずっと苦しくて、怖いのがエスカレートしていくイジメよりは100倍ましだろ」
「ふざけんじゃねえ! 人の命をなんだと思ってんだテメエ!」
流石にこれ以上見るのも声を掛けられるのも嫌だったので、踵を返して、その場から立ち去ろうとすると背後から剛の怒号が聞こえた。
散々生きている人の命を弄んで蔑ろにしてきたこいつが、命ごいで人の命の重さを俺に説くのか。
「ハハハ!」
いじめられて以来、久しぶりに心の底から笑えた。
「ハア! ハア! 笑ってんじゃえ! 冗談じゃねえ! お前みたいなカスが食われりゃいいのになんで俺が!」
振り向くと隣にいた常夫が齧られ始め、逃げ場などないのにバケモノの口から逃れる様に剛が動き始めるのが見えた。
剛は口から3度ほど逃れたが、頭から齧られる先入観があったのか、足を齧られ、空中に持ち上げられた。
「ぎゃあああ! 俺の足があああ!」
空中に持ち上げられた剛にバケモノたちの口が殺到し、咥えられた剛の四肢が引っ張られ始めた。
「だずけてくれええ!」
「ハハハハハハハ!!」
人を弄んだやつが弄ばれているのがたまらなくおかしかった。
「だずけてえ! お願いだから、だずけてくれえ!」
「だから無理だって。それに散々やめてくれてってお願いしたけど無視したじゃん」
俺が最後通牒を告げると、一際剛の絶叫が大きくなり、体がバラバラになった。
地面に散らばった肉片をバケモノたちが貪り始める。
流石にグロいのでこれ以上見るのはやめっておこう。
「これからどうしようか。とりあえず街に行こうか。ああでも無視されるしな。うん? いやさっき剛たちには無視されてなかったよな」
人間関係も経歴もまっさらになった俺は異世界の見知らぬ街で新たな人生を始めることに決めた。
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