40 / 99
怪奇現象の正体
しおりを挟むちょっとした失敗だった。
配信前に処分したと思い込んでいた呪物が、まだ残っていて、彼女ーー相間玲香はそれを配信画面に映してしまったのだ。
当時、呪物の配信前の取り除きはダンジョン協会から念を押されているだけで、別段絶対というわけではなかった。
呪物を映して、画面の向こう側のリスナーに害が及ぶという実例がなかったからだ。
ダンジョン協会とは密接に関わりのある配信事務所所属ならいざ知らず、事務的な関わりしかない個人配信者には、呪物の処理などせずに、そのまま配信することが多かったこともあり、そういう観点から見れば、600人以上を呪死させた玲香はまだマシな方だった。
だが大量死が起こったことで、その姿勢の良さが災いした。
大量死を起こした後に玲香はすることをして起こったのだから、結果として起こったことは深刻だが、それで刑事罰を受けることや遺族たちから袋叩きにされることを理不尽極まりないと感じ、逃げてしまったのだ。
周りの人間がただ自分が起こしたことを口実にして精神的な暴力を振るってくる邪な存在にしか思えなかった。
それにその時、ちょうど潜伏先として都合のいい場所があったことも彼女が一因になっていた。
淳に攻略されてモンスターがいなくなった伽藍堂のS級ダンジョン『怨霊の箱』だ。
そこならばダンジョンにまで手を伸ばせない上に、たとえダンジョン協会が協力して、攻略隊を送り込まれたとしても土魔法の使い手の玲香であれば土の中に潜り隠れるのは容易だった。
目論見は上手くいき、持ってきた食料が1週間ほどで尽きるまで土魔法で攻略隊から身を隠して過ごした。
それから食料の補充のために地上に出た時、スーパーに備えられたテレビから、世の人間からバッシングを家族が受け、兄が自殺寸前まで追い込まれたことと現在も行方不明の自分を捜索していることを知り、あまりの悍ましさに食料も買わずに『怨霊の箱』に玲香は戻った。
ただちょっとしたミスだけで、人を害意を持って傷つけても、それが見逃される世の中が恐ろしく、自分が生きていける環境は地上には残されていないと彼女は思った。
ダンジョンの奥底で身動きができなくなった玲香は、兄の自殺未遂のショックと外界の人間たちの恐怖、そして肝心の食料がないことで飲まず食わずで過ごし、潤沢なダンジョンの魔力があれば食事をせずとも自分の体を保持できることに気づき、一年経ってモンスターがリポップするまでなるべく魔力が濃い深層近くで生活した。
やがてモンスターが再構成する魔力が満ちたのか、空気中に流れる魔力が多くなるのを、魔力が見えるようになった目で確認して実際に深層の魔物がリポップするの見ると彼女は上層に移動した。
ダンジョンにずっと潜っていたことで、魔力の変容が進みS級ダンジョンの深層のモンスターとも戦えるかもしれない可能性があることはわかっていたが、なまじ一年のブランクと玲香が潜っていたダンジョンがBランクダンジョンということもあり、勝てるビジョンが見えなかった故の行動だった。
人から袋叩きにされるため地上に戻れず、逃亡先のダンジョンの中では一日中モンスターに追われる自分の身の上に対して、哀れみを覚えて、涙が出た。
そんな陰鬱な生活をしばらく続けていると、攻略隊が入ってきて、それに気づかなかった玲香が彼らの前を横切ったが、気づかれず、とうに彼らの動体視力の範疇で捉えられる動きをしていないことを理解し、人目を憚る必要性がないと気づいてたせいか、その日以来涙が止まらなくなった。
そんな彼女の泣き声が怪奇現象としてダンジョン協会に報告されるようになる頃になると、突然彼女の前に自分を追いかけてくる男が現れた。
普通に動いていても、玲香の動きはS級ダンジョンで攻略できるほどの攻略者に認識できない程で、今はさらに全力疾走をしているというのに、その男ーー伊藤淳はどんどんと距離を詰めて追い付いてきていた。
21
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
配信の片隅で無双していた謎の大剣豪、最終奥義レベルを連発する美少女だと話題に
菊池 快晴
ファンタジー
配信の片隅で無双していた謎の大剣豪が美少女で、うっかり最凶剣術を披露しすぎたところ、どうやらヤバすぎると話題に
謎の大剣豪こと宮本椿姫は、叔父の死をきっかけに岡山の集落から都内に引っ越しをしてきた。
宮本流を世間に広める為、己の研鑽の為にダンジョンで籠っていると、いつのまにか掲示板で話題となる。
「配信の片隅で無双している大剣豪がいるんだが」
宮本椿姫は相棒と共に配信を始め、徐々に知名度があがり、その剣技を世に知らしめていく。
これは、謎の大剣豪こと宮本椿姫が、ダンジョンを通じて世界に衝撃を与えていく――ちょっと百合の雰囲気もあるお話です。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう
なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。
だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。
バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。
※他サイトでも掲載しています
突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜
平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。
26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。
最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。
レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
魔力即時回復スキルでダンジョン攻略無双 〜規格外のスキルで爆速レベルアップ→超一流探索者も引くほど最強に〜
Josse.T
ファンタジー
悲運な貯金の溶かし方をした主人公・古谷浩二が100万円を溶かした代わりに手に入れたのは、ダンジョン内で魔力が無制限に即時回復するスキルだった。
せっかくなので、浩二はそれまで敬遠していたダンジョン探索で一攫千金を狙うことに。
その過程で浩二は、規格外のスキルで、世界トップレベルと言われていた探索者たちの度肝を抜くほど強くなっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる