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理性の向こう側
しおりを挟む剣道さんの配信当日になった。
初めての試みと言うこともあり俺が思ってたよりも、連絡の取り合いや、企業からの案件割り振りに手こずることになったが、なんとか当日には間に合わせることができた。
「剣道さん、今日はよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。配信まであと十分といったところか。攻略隊で人数が多いのは見慣れているが、配信者となるとものが違うな」
周りをドローンが飛び交う光景を見ながら剣道さんが呟く。
「確かにドローンがいっぱい飛んでるのは異様な光景ですね。僕も事務所に勤めてから初めて見ます」
「これは珍しいことなのだな。軽く返事をしてしまったが、逆に負担になってしまっただろうか」
「いえそんなことはないです。俺の一存から動いていることですから。助かることはあっても負担になるなんてことはありません」
「それならばいいが、先ほど今日やる配信内容を聞いたところ伊藤殿は配信を運営する上で1番重要な役割を担っていると聞いたからな」
今回の配信はダンジョンに閉じ込められ、五層まで攻略しないと出れないと言う擬似デスゲームような形式で、俺の役割は配信の進行と配信者さんたちが魔力を枯渇させないように逐次魔力を回復をさせることだ。
配信の進行についてはS級ダンジョンの配信で既にしていることだし、魔力回復については負担にはならないのでそこまで苦ではない。
進行中は俺自体は楽だ。
逆にオールスターで参加しているダンプロの配信者たちが大変だ。
配信者の多くがC級ダンジョンで活動している人が多いので、S級ダンジョンのモンスターとなると、しぶとさから少し固く感じたり、C級までには巨大種がいないので、実際に見て、尻込みしてしまう人もいるだろうことは想像に難くない。
時の人の剣道さんとのコラボということで上手く行けばバズることも夢ではないため皆やる気に満ち溢れているが、初めてで慣れないことばかりなのでいつもより疲れることも確実。
後日響いて配信延期になったりするとリスナーさんたちに申し訳ないので、できれば程々で頑張ってくれればいいが。
「いや俺じゃなくて、一番は配信者の皆さんが一番大変ですから」
「よくよく考えればそうか。攻略者をやっていると感覚がズレてきてダメだな。彼らはS級ダンジョンに初めて入るというのに」
「淳さん! 遅れて、すいませーん! あ、その人剣道さんですよね! よろしくおねがいしまーす!」
剣道さんが認識を修正すると、有名人の剣道さんと会えることを楽しみにしてたのか、姿を現したかと思うとそのまま剣道さんにアスカさんが抱きついた。
しまった。
約束の時間を過ぎて来たため、油断していた。
アスカさんは距離感がバグっているから、同性で初対面の人なら確実に抱きつくというのに。
「す、すまない。スキンシップは苦手なんだ」
抱きついたアスカさんを剣道さんがそのまま誘拐するのではないかと思うと、彼女は抱き返そうとする手を抑えて必死に耐えていた。
人の理性の輝きを感じざるをえない。
「ええ? そうなんですかぁ。 苦手を克服するためにもあたしで慣れないとぉ」
剣道さんの申し出に対して、アスカさんは煽るように身を擦り寄せる。
だめだ、アスカさんは相手が嫌がると嬉しくなってしまうクソガキだった。
「グ!」
理性の限界の向こう側に突入し、剣道さんが目を見開いてすごい表情になっている。
早く引き離さなければ。
「アスカさん、ちょっと離れましょう。無理強いは良くないですから」
「えええ!? いいところなのにぃ!!」
「大丈夫ですか? 剣道さん!」
不服そうなアスカさんを引き離すと、剣道さんに呼びかける。
「き、気絶してる……」
剣道さんは立ったまま気絶していた。
「そ、そのレベルだったの!?」
アスカさんも流石に驚きの声をあげて、助けを求めるようにこちらを向く。
「幸いまだ時間があるので、剣道さんを復活させましょう。アスカさん、配信中は絶対にスキンシップはダメですからね」
「う、うん。流石にこれはちょっとまずかったかなって」
俺はアスカさんの申し訳なさそうな顔を確認して、もうやらないだろうと確信すると、剣道さんに回復をかける。
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