かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇

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CR人生

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「昨日のことを思い出すとまだ肝が冷える」

 谷崎は昨日のことを思い出して、ヒヤヒヤとした緊張を感じ、心を落ち着かせるために缶コーヒーを口に流し込む。
 先日、剣道絢香との配信に望月エボリューションを組み込む交渉をするために、社長室前までいくと社長の神崎アリサがアスカを組ませると言っていたため谷崎は爆発的なヒットをしてエボリューションの心が折れることを危惧してストップをかけたのだ。
 流石に剣道とコラボをして、ヒカリがS級ダンジョンを初配信をしたような爆発的なヒットを叩き出せば、再び湧き上がり始めたエボリューションのやる気が消えてしまうことは必定。
 それだけは避けたかった。

 社長がアスカを全面的に売り出そうとしているとわかったことは悪い知らせだったが、アスカの身を案じた伊藤が機転を効かせて、他の配信者も剣道とのコラボにも来られる状況を作ってくれたことは行幸だった。

 ここでエボリューションがバズることが出来れば、アスカを超えるまでの途方のない道のりをたった1日で走破できる。
 今週の末にそんな一発逆転のチャンスが訪れるのだ。
 谷崎は週末までの5日と言う短い時間で、できるだけエボリューションの勝率を上げるためにできることをするためエボリューションのアパートに訪れていた。

「コーヒー口に合いましたか、谷崎さん?」

「ああ、うまい。缶はたまにしか飲まんから沁みるよ」

 訪れた時に出された缶コーヒーを谷崎は机に上に乗せると、改めて言葉を紡ぎ始める。

「エボリューション、今週の末に行われる剣道とのオールスターコラボ配信は知ってるな」

「ええ、先日谷崎さんから教えてもらいましたし、大事な大一番ですから」

「大事な大一番。まさにその通りだ。だが気持ちだけではまだ足りない。あの場で注目されるほど目立つ何かを持たねば」

「目立つなにかですか?」

「そうだ。お前には遠目から見ても周囲より際立って見える外見的特徴がいる」

「目立つ格好って初配信の時と同じようにゴー☆ジャスの格好をしろっと言うことですか」

「いや、そこまでは必要ない。派手な見た目の最新鋭武器を持つだけでも十分目立つからな」

「最新鋭武器か。手持ちがVtuberのスパチャで溶けてて買うお金がないんですが」

「そうか。若いお前のことだ。なんとなくそんな気はしていた。事務所からお前に使える今月の予算の残り20万は持って来ている」

「色々とグッズ販売とかで使ったからもう残り20万ですか。最新鋭となると最低でも300万くらいになるから、それじゃ全然」

「安心しろ、足りない分は増やせばいい」

「それって……」

「そうだ、これから会社の金でパチンコを打ちに行く」

 谷崎の不穏な発言の続きをエボリューションが推測すると谷崎は呆気らかんとそれを肯定した。


 ーーー

 最初は「会社の金なんてまずいですよ」と引き留めにかかっていたエボリューションだったが、谷崎行きつけのパチンコ屋に入ると徐々にパチンコの熱に飲まれ始めていた。

「うわああああ! すごい! どんどん玉が穴の中に吸い込まれていく!!」

「ふふふ、これでも私のパチンコ歴は年齢とほぼ同じ。これくらいの当たりは出すのは朝飯前」

 エボリューションが興奮した声を上げ、普通の店には存在しない千円パチンコからどんどんと谷崎は玉を排出させていく。

「箱からざっと見積もっても4000万近い!これならカタログの1番上にある5000万のゲーミングサーベルも狙えます」

 谷崎は人生をパチンコと歩んできた生粋のパチンカー。
 だからこそ引き際がわかる。
 現時点が彼にとっての引き際。
 しかし今の軍資金で手に入る2500万の妖曲刀ムラマサでは赤黒く発光するだけでいささか地味。
 本能が七色に光るゲーミングサーベルしかないと語りかけていた。
 無謀とも言えることに挑戦するのに、安全策などあり得ない。
 頂上を目指すものは自ら地獄の中に身を投じなければならない。
 谷崎は引き際の向こう側に手を伸ばした。

「うおおおおおおおお!!!」


 ーーー


「失った。全て全部」

「うううううう! 玉の山が一瞬で消えた」

 パチンコ屋の路地裏。
 男2人。
 地面に四つん張り、苦鳴をあげる。

 しばらくすると気持ちが落ち着き、谷崎は懐を探る。

「あるのはポケットマネーの一万円だけか…」

 谷崎が諦観したようにぼそりとそう呟くと、突如として現代に降臨した悪魔のような風貌のスーツの男が近づいてきた。

「お客様、ちょうどこちらに一万円で遊べる一万円パチンコがあります。どうでしょうか?」

「一万円しか持ってないのに一万円パチンコだと! ふん!一発しか打てんではないか、やるわけがない! たかられるだけだ。いくぞ、エボリューション!」

 あまりにも馬鹿馬鹿しい提案に谷崎が踵を返すと、呼びかけたエボリューションの声が聞こえなかったため振り返ると彼は止まっていた。

「エボリューション、お前……!」

「ここで勝てば取り戻せるんです……。やらせてください、谷崎さん」

「馬鹿野郎……」

 全てを無に返した自責の念から谷崎は文句は言いつつも一万円札をエボリューションに渡すしかなく、彼に全てを委ねた。

「ではご案内しますね」

 ーーー

 スーツの男に案内された場所には、大きなパチンコ台とそれを見る上級国民と言った感じのスーツの男たちがいた。

「またカモが来たか」「ふふふ、どこまで楽しませてくれるのかの」

 内心を包み隠さず言葉にする男たちに不気味なものを感じながらエボリューションと谷崎はパチンコ台の前にあるハンドルだけがついた台の前に立たせられる。

「どうぞお客様、当店にしか極限パチンコスロット『CR人生』をお回しください。玉はもう詰まっています」

「い、行け!」

 スーツの男に案内されるとエボリューションが覚悟を声にするようにしてハンドルを回す。

「一玉!?」「当たるわけがないだろ」「ほほほほ!」

 会場が嘲笑に包まれる中、玉は釘の森を抜けて穴の中に入った。

「何ィ!?」「当たった!!」「ほげえええええ!?」

 ルーレットが回り始めて、7が揃い始める。

「来る!」「来るぞ、結婚が!」「馬鹿なわしでさえ残業が限界だったのじゃぞ!」

 画面に結婚という字と共に、天使が踊り出し、大量の玉が排出され始めた。

「うわああああ!」

「でかしたぞ、エボリューション!」
 
 玉の雨を浴びながら抱き合う。
 最後に大金星を当てたことにより2人が得た金額は5500万。
 ゲーミングサーベルを手に入れることに成功した。


 
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