上 下
14 / 99

攻略隊への勧誘の答え

しおりを挟む

 キメラもどきの頭のライオンの目を光魔法の光球のフラッシュでつぶしたのだが、蛇の尾の方は熱感知ーーピット器官があるのか、こちらを見つめている。
 ウォーキングデッドはこの黒いもやが厄介なのと、棺桶に収納しようとしてくるのが面倒な程度なので、キメラもどきから先に倒した方がいいだろう。
 跳躍するとライオンの頭を殴る。
 骨が折れた音がするとライオンの首があらぬ方向に曲がるが、体は倒れず、蛇の尾がライオンの首がある位置に移動する。

「やっぱりタフだな」

 空中で結界を発動させると、それを踏み台にして蛇の頭を蹴ると、背骨に踵下ろしをする。
 そこまでしてやっと動かなくなった。
 手間がかかるな。
 強化の出力を少しあげてもう少しペースアップしたほうが良さそうだ。

 呪物は魔法でしか破壊できないので、光魔法で唯一の放出系である回復をかける。

「グオオおおおお!」

 回復を掛けると苦しむようにのたうち回り、黒いもやが薄れていく。
 呪物には回復が唯一攻撃として機能するので、ちょっとした感動を覚える。

 しばらくしてウォーキングデッドが絶命すると青い炎が燃え上がり、荼毘になって消えっていく。
 呪物はこれのみだったようで黒いもやが晴れていくと薄暗闇に瞳の光がいくつも見えた。

 複数の目と目が合うとこちらに向けて殺到し始めた。
 浅い層のモンスターのように同類が倒されようと全く怯まない。
 むしろ我先と襲いかかってくる。
 普通なら画面がモンスターでぐちゃぐちゃになって、辟易するところだが今回は早く攻略したいので都合がいい。


 ーーー


 体が魔力で変容される激痛で体が動かせない剣道絢香は光で構築された壁越しに人外の戦闘を見つめた。
 未だ発見されておらず、攻略法も弱点さえもわかっていない深層のモンスターたちを、雑魚と同じように屠っていく。
 あれでも、もはや顔を合わせる前に倒されていた先ほどの中層までのモンスターと比べれば善戦しているのだから、ここで起きていることはどう考えても異常である。
 どこまで行けば伊藤とまともに戦うことができるモンスターが出てくるのか、絢香にはまるで想像がつかない。

「流石にトップ攻略者の方は変容にあまり時間がかからないですね」

 伊藤は虹色のゴーレムを拳をめり込ませ、体内にあるコアを潰すとこの層にある最後のモンスターを倒したようで戻ってきた。
 周りにあった光の膜が消えると伊藤が右手を差しできたことで、絢香は体の魔力の変容が終わったことを悟り、その手を取った。
 ここ最近は実力の高さと物怖じない性格から攻略部隊のまとめ役を任せられることが多く、人をリードすることはあっても自分がリードされることはなかったので、少しこそばゆい気持ちになりつつも立ち上がった。
 手を取ると同時に光魔法の回復をかけられていたようで、苦痛によって失われてしんどかった気分が楽になり、なんとか自分の足で立てる状態になった。

「ありがとう。素晴らしい戦いぶりだった。今の様子からやはり君は攻略隊に必要な人間だと確信したよ。先日の答えを聞かせてくれるか?」

「すいませんが、攻略隊に参加するというのは流石にマネージャー業とは両立できないので。時間が空いた時に参加させていただくという形なら」

「そうか。欲を言えば攻略隊参加が一番だったが、それでも十分だ」

 絢香は返事に対してマネージャーを職を辞職して、攻略をしてもらうというのは現実的ではないと考えていたため特に不安はない。
 唯一の不安な点を言えば、昔人気ダンジョン配信者を目指してダンジョンを潜っていただけで、攻略者として死力を今現在尽くしている絢香よりもダンジョン攻略において高みにいることだ。

「すまいないがひとつ質問をいいだろうか?」

「どうぞ」

「昔、配信者をやっていたと先刻聞いたがそれだけでこれほどの実力をつけられるとはにわかに信じがたい。本当のところどうなんだ?」

「いえ、本当にそれだけですよ。どうにかして知名度を上げたくて多少の無理をしましたが」

「多少の無理?」

「普通の配信者のように攻略されている層を攻略するだけなく、未攻略の層もどんどん攻略していたんです。恥ずかしい話ですが、当時の俺には同接一桁である自分が見られるようになるにはそういう過激な方にシフトしていくしかないと思っていたんです」

「それでS級ダンジョンを素手で攻略するような破天荒な攻略スタイルに?」

 攻略者として武器を持たないというのはあり得ないことであり、ましてや攻撃魔法が一切使えない光魔法使いである伊藤が武器に頼らないというのを不思議に思っていた絢香がそう尋ねると、伊藤は苦笑した。

「いや、素手で攻略しているのはそういう意図があったわけではないんです。最初は武器を持って攻略をしていたんですが、強化が使えるようになってから武器を使って攻撃すると武器が壊れてしまって。持っていくだけで初層で壊れてしまう無駄なものになってしまって、それで素手のみの今のスタイルになったんです」

「そ、それはすごいな。武器が破損するとは。確かに伊藤殿ならあり得ないことではないのだが、にわかには信じられん」

「試してみますか?」

「やめろ」

 伊藤が冗談で試し斬りを持ちかけてきたので、急いで伊藤から大剣と太刀の二つの武器を背中に隠す。
 武器が使えないというのは元から使っていたものからすると、あるものが失われてしまうようできついものがあるということを、怪我で攻略から手を引いた攻略者から聞いており、試し斬りをしたいというのはあながち嘘ではないと感じたからだ。

「素手で攻略するというのなら目立つはずだ。それなりには人気があったのだろう?」

「いえ、全然。一応本邦初のS級ダンジョンの配信までやったんですが、同接は大体1桁でしたね」

「厳しい世界なんだな、配信は」

「俺が難易度の高いダンジョンを攻略すればいいと思って、見る視聴者が高速で動く俺の動きが見えているのかとか、一瞬でその層にいるモンスターを倒してしまうのはつまらないということを考えずに脳死で配信していたのも悪かったんでしよね。当時はそういうことを考える余裕がなくてまだ過激さが足りないとか思ってたんですが」

「命の危機に挑み続けても君はそう考えれたのか。凄まじいな。その情熱から攻略者にならずにダンジョン配信業界に進んだのも納得したよ。ダンジョン配信事務所で仕事するのは楽しいかい?」

「ええ、楽しいですね。俺が六年掛けて手に入れることができなかった1分1秒を生きる人たちのサポートができるし、彼らには俺の苦しんだ六年があるからこそ、彼らが大きな価値を持つ人間だと深くわかるから、俺がやっていることがとても価値のあることだと思える。それにもう2度と挑戦できることはない配信のチャンスをまたもらえたんだから楽しくないわけがない。これからどんどん楽しくなると確信してますよ」

 伊藤の言葉で彼が愚直に生きて、苦しみ、今に希望を見出していることを絢香は感じた。
 絢香は愚直な人間が好きだ。
 報われずとわからずとも腐らずに挑戦することは勇気のいることだと知っているからこそ、好意を持たずにはいられない。
 心の底から友人になりたいと思った。

「伊藤殿、私の友人になってくれないか?」

「剣道さんのような方と友人になれるなんて思いもよらないことです。もちろん」

「ありがとう。これからは個人としても君に力添えすることを約束するよ。時間をとらせてしまってすまない。進もう」

 絢香はそう言うと、友人と共に深層の奥に潜っていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

配信の片隅で無双していた謎の大剣豪、最終奥義レベルを連発する美少女だと話題に

菊池 快晴
ファンタジー
配信の片隅で無双していた謎の大剣豪が美少女で、うっかり最凶剣術を披露しすぎたところ、どうやらヤバすぎると話題に 謎の大剣豪こと宮本椿姫は、叔父の死をきっかけに岡山の集落から都内に引っ越しをしてきた。 宮本流を世間に広める為、己の研鑽の為にダンジョンで籠っていると、いつのまにか掲示板で話題となる。 「配信の片隅で無双している大剣豪がいるんだが」 宮本椿姫は相棒と共に配信を始め、徐々に知名度があがり、その剣技を世に知らしめていく。 これは、謎の大剣豪こと宮本椿姫が、ダンジョンを通じて世界に衝撃を与えていく――ちょっと百合の雰囲気もあるお話です。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜

平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。 26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。 最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。 レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。

処理中です...