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鑑定科の転生聖女、現在の聖女がヤブで治せなかった隣国の王子を呪い持ち認定したせいで戦争になりそうなので暗躍して戦争回避します
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この世には聖女と言われる生きる奇跡が存在する。
祈りを捧げれば、たちまちに傷が癒え、枯れた草木は生気を取り戻す。
人々は皆こぞって聖女を信仰し、神のように崇め、聖女信仰を重んじる神聖プリシアーナ王国においては王族を差し置いて聖女が権力構造の頂点に存在していた。
私が通う聖プリシアーナ学園は次代の神聖プリシアーナ王国の聖女を養成するために用意された学園だ。
そんな学園で私、ティアナ・ルナリアはその学園の花形である神聖術科ではなく、あまりパッとしない鑑定科に所属している。
「今日は災難だったね。まさか聖女様の癒しを求めてきた隣国の王子様が“呪われてた“なんて」
「“呪われてる“ね。聖女様が治せなかっただけで生徒まで出動させるレベルの大騒ぎするのも、迷惑ね」
ルームメイトのキャンディ・ホークウェイバーと文句を言いながら、寮の部屋にカバンを置く。
今日は聖女の居所である聖域たる学園内で、“呪い“持ちが出たと言うことで、鑑定科の一年のDクラスーー家柄も能力も最低クラスである鑑定科の最底辺である私たちが、“呪い“持ちを移送する納屋の掃除に緊急で駆り出されることになった。
課業が終わった後、2時間ほどやらされたため、結構な労働となった。
「確かに呪いが移ったて言うのは聞いたこともないわ。本当にさっきまでの重労働は無駄だったね。思い出したら、疲れが倍以上になって気が……。ティア、疲れを取るためにも前作ってくれた飲むとよく眠れるお茶作ってよお」
「そうね。私も飲みたかったし、ちょうどいいかな」
「流石、ティア。あたしにとっての聖女様はティアだよ」
「ありがと。じゃあ、茶葉切らしてるから買ってきてくれる」
「前言撤回。鬼、アクマ」
お茶淹れの対価にお使いを頼むと、キャンディはズゴズゴとカバンを引き摺りながら部屋から出ていく。
お茶の専門店はすぐ近くなので、すぐ戻って来るだろう。
すぐお茶を入れられるように水を沸騰させる準備をしようかと思うと、にわかに外が騒がしいのが聞こえた。
「道を開けろ! 陛下がお通りになられる!」
窓から外を見ると、夕暮れの大通りに鎧をきた集団が人々に道を開けさせているのが見えた。
状況から考えると、あれが“呪い“持ち認定された例の王子一向だろう。
中央に立っている背筋の伸びた銀髪の青年がその王子当人と思われる。
「少し鑑定してみるか」
ウチのトップが匙を投げたということで気になり、学園で使い物にならないと太鼓判を押されている私の鑑定を使う。
視界に映った王子の臓器や血管の内部まで見えるようになり、隅に体の状態を示すパラメータが表示される。
「……すごいな、この人。今まさに死にそうになってるのに、全く外に出してない」
生命力のパラメータの数値はほぼゼロに近く、もうすでに心臓の音が止まりそうだと言うのに、まるでそれを感じさせない立ち振る舞いをしている。
普通ならば意識が混濁して、譫言を言っていてもおかしくない状態だと言うのに、虚勢を張るためにここまで気張れるのが凄まじい。
「全く王子を呪われた者などという難癖をつけた挙げ句、馬車を用意することを拒否し、学外にある納屋におしこめようとするとはとんでもない国だ! 本国に帰ったら目に物を見せてくれる!」
先頭を行く、2m超はありそうな赤髪の大男が憤懣やるかたないと言った感じで、青筋を浮かべながら怒鳴ると、周りの市民が怯えたように道を開けて行く。
かなりやばい事態かもしれない。
もうすでに隣国の使者のこの国に対するヘイトは最高潮になっているというのに、もし王子が死にましたとなったら確実に隣国との戦争が始まることは想像に難くない。
そうなれば、隣国と接している私の実家ーールナリア家の領地にある茶畑も焼け野原になることは必定だろう。
私はこの学校を卒業した後は、ルナリア男爵領の茶畑を発展させることに余生を心に決めているのだ。
このままでは私の人生設計はめちゃくちゃだ。
王子のあの完璧な痩せ我慢ぷりから、王子やばくね!?となって気づく神聖術師がいるわけもないし、おそらく気づいても信心深い者が多いので呪いを嫌って、王子に近づく可能性も低い。
「他人頼りだと詰むな」
ーーー
自分の運命は自分で切り拓かなければならない。
今日ほどそう感じたことはない。
「王子を納屋に置いたら、馬車確保に散り散りになってくれたから暁光だったな」
中級神聖術であるライトニングレイーー光で出来た剣を指先で発動させて、納屋の錠を壊し、中に入る。
流石に人目のない場所では去勢を張っていない様で、急造で作られた藁のベッドに横たわっていた。
血色のない顔が窓から指す月光に照らされて青白く見えるが、鑑定で見る限り、まだ命はあるようだ。
「神聖術師としての力は久しぶりに使うけど上手く使えるかな」
最後に神聖術を使ってから10年近く経つので若干不安があるが、前世の聖女時代に30年近く積んだ経験を信じよう。
「まあ、心臓近くの血管に詰まってる魔石を取るだけだから簡単な物だけど」
まず痛み止めのために、口に含むと魂が飛ぶほど気持ちよくなるタイマー草を溶かした水ーー本家本元の聖水を微量王子の口に含ませる。
飲ませすぎると全身の筋肉が弛緩し、脳みそが破壊されるので、飲ませる時は細心の注意が必要だ。
鑑定で見ているが、赤く表示されている患部は心臓近くの魔石が詰まっているだけなので、とりあえずは大丈夫だろう。
下準備は整ったので、血管内で結晶化してしまった魔力ーー魔石の除去に入る。
上級神聖術、クリエイト・セイグリッドで、手のひらに神聖力で構成した青白いメスを形作ると、上半身の服を左手で捲り、右手のメスを患部の上にある皮膚に入れる。
続けて開いた切り口を初級神聖術、結界作成で作った四つの小さな結界で固定する。
後は血管を開いて、魔石を取り出すだけだ。
「う」
すると王子の口から呻きが漏れた。
聖水の効きがあまり良くないせいで、痛みからくるものかと思ったが顔には苦悶は出ておらず、穏やかな状態だった。
神聖術を発動する際に、体からでる聖光が眩しくて、意識を撫ぜたといったところだろう。
治療中はよくあることだ。
そのまま続行して、血管にメスを入れると、切り口を結界で固定し、メスをピンセットに変化させて緋色の魔石を取り出した。
歪なダイヤモンドを形をしており、鋭角な部分が多いため、日頃かなり傷んでいたことは想像に難くない。
魔石を脇に奥と心臓の血管ということで出血も多いため、結界を解除して、祈りを姿勢を取ると初級神聖術ヒールで切り口を塞ぐ。
鑑定を使い、もう一度王子を見ると、患部の赤い部分が消え、パラメータも平均的な値に戻っていた。
治療完了だ。
ヒールで体力も回復しているので、目を覚ませばすぐに動けるようになるだろう。
王子が目を覚さないうちに、早く立ち去ろう。
追い剥ぎと勘違いされたくはない。
ーーー
瞼に青白い光を感じて、隣国の王子ことヴィンスライブ王国第一王子ジーク・フォン・ヴィンスライブは微かに目を開く。
ジークの意思に反して、瞼は重く満足には持ち上がらない。
夢と現実が半々になっているような判然としない意識の中で納屋に辿り着いた瞬間に、胸の苦しみと痛みから意識を手放したことを思い出す。
ここは死後の世界か?
一瞬、意識を飛ばす前に味わった痛みの壮絶さから疑問が生まれるが、何かが肌を撫ぜる感覚と素早く動く手がそれを否定した。
死んでいるのならばこうして何かを感じることはないはずだ。
何をしているのかとぼんやりと眺めていると、ジークの瞳に緋色の魔石が取り出されるのが見えた。
それと同時に胸の中につっかえていたものが取れたような感覚を感じ、目の前の人物が祈りを姿勢をとっていることが見えた時、自分を治療されていたことに気づいた。
聖女に見放されて、呪い持ちの烙印まで押された自分が誰かに手を差し伸べられるとはジークは思いもしていなかった。
ジークの凍えた心に温かみが生じると、周りに青白い聖光が輝く。
ジークの瞼が持ち上がるのならば、目を見開くような光景だった。
なぜならその色の聖光を生じさせることができるのは、伝説上に存在し、現在神として崇められる初代聖女だけだからだ。
通常の緑色の聖光を見間違えているのではないかと思うが、漂う青白い残光がそれを否定した。
間違いなく目の前の人物は初代聖女だ。
万全に回復した体が失った体力と気力を取り戻すために、瞼を閉じさせようとするのに、抗い、一瞬だけ拮抗させると立ち去る後ろ姿だけが見えた。
艶やかな黒髪と聖プリシアーナ学園の制服であることを確認すると、再びジークの意識は微睡の向こう側に深く沈んでいった。
ーーー
「ティアぁぁ……!」
寮に帰ると髪を逆立てて、オーガのような形相になったキャンディがいた。
そういえば、キャンディにお使いを頼んだまま、ほったらかしにしていたのだった。
「キャン、ごめん、ちょっと学校に忘れ物をして」
「嘘をつきなさいよ! 上物の香水の匂いがする! どこの男を引っ掛けてきたのよ、この浮気者を!!」
完全に冤罪だ。
「いや、ちょっと面白いものを行商が売ってるて言って、偶々一緒にいた紳士の匂いが移っただけだって。ほら、いいもの見してあげるから目を閉じて」
「ティアは人たらしだから信用できないんだけどなあ」
キャンディは胡散臭そうな顔をしながらも、興味が湧いたのか目を閉じた。
いまだ。
部屋の明かりを消し、中級神聖術エクスヒールを使って部屋の全域に青白い聖光で満たす。
「開けていいよ」
「わあ! 綺麗! なに、これ!」
キャンディはお気に召したようで、目を輝かして歓声を上げる。
「月光のかけら」
実際のところは聖女の体質で魔が弾かれ、月光の魔力が周囲に解けているだけだが、それっぽい商品名を捏造する。
「行商が次回ってきたらまた買ってよ! これ、いくらだったの?」
「仕送り一ヶ月分。奮発しちゃった……」
「ティア、あたし誤解してたよ。あたしにこれを見せるためにそこまでしてくれるなんて」
キャンディは感極まったようで、目頭を押さえて、鼻を啜る。
少し罪悪感が湧いたが、関係修復のためにはしょうがないと割り切り、良く眠れるお茶を作ったり、至れり尽くせりしてキャンディの機嫌を直した。
ーーー
「すごいよ! ティア! あの王子様、あれから呪いが消えて、しかもこっちに留学しにくるんだって!」
「は!?」
途中までは予想していたことだけに、後半から出てきた想像してもいなった留学という言葉に驚愕した。
祈りを捧げれば、たちまちに傷が癒え、枯れた草木は生気を取り戻す。
人々は皆こぞって聖女を信仰し、神のように崇め、聖女信仰を重んじる神聖プリシアーナ王国においては王族を差し置いて聖女が権力構造の頂点に存在していた。
私が通う聖プリシアーナ学園は次代の神聖プリシアーナ王国の聖女を養成するために用意された学園だ。
そんな学園で私、ティアナ・ルナリアはその学園の花形である神聖術科ではなく、あまりパッとしない鑑定科に所属している。
「今日は災難だったね。まさか聖女様の癒しを求めてきた隣国の王子様が“呪われてた“なんて」
「“呪われてる“ね。聖女様が治せなかっただけで生徒まで出動させるレベルの大騒ぎするのも、迷惑ね」
ルームメイトのキャンディ・ホークウェイバーと文句を言いながら、寮の部屋にカバンを置く。
今日は聖女の居所である聖域たる学園内で、“呪い“持ちが出たと言うことで、鑑定科の一年のDクラスーー家柄も能力も最低クラスである鑑定科の最底辺である私たちが、“呪い“持ちを移送する納屋の掃除に緊急で駆り出されることになった。
課業が終わった後、2時間ほどやらされたため、結構な労働となった。
「確かに呪いが移ったて言うのは聞いたこともないわ。本当にさっきまでの重労働は無駄だったね。思い出したら、疲れが倍以上になって気が……。ティア、疲れを取るためにも前作ってくれた飲むとよく眠れるお茶作ってよお」
「そうね。私も飲みたかったし、ちょうどいいかな」
「流石、ティア。あたしにとっての聖女様はティアだよ」
「ありがと。じゃあ、茶葉切らしてるから買ってきてくれる」
「前言撤回。鬼、アクマ」
お茶淹れの対価にお使いを頼むと、キャンディはズゴズゴとカバンを引き摺りながら部屋から出ていく。
お茶の専門店はすぐ近くなので、すぐ戻って来るだろう。
すぐお茶を入れられるように水を沸騰させる準備をしようかと思うと、にわかに外が騒がしいのが聞こえた。
「道を開けろ! 陛下がお通りになられる!」
窓から外を見ると、夕暮れの大通りに鎧をきた集団が人々に道を開けさせているのが見えた。
状況から考えると、あれが“呪い“持ち認定された例の王子一向だろう。
中央に立っている背筋の伸びた銀髪の青年がその王子当人と思われる。
「少し鑑定してみるか」
ウチのトップが匙を投げたということで気になり、学園で使い物にならないと太鼓判を押されている私の鑑定を使う。
視界に映った王子の臓器や血管の内部まで見えるようになり、隅に体の状態を示すパラメータが表示される。
「……すごいな、この人。今まさに死にそうになってるのに、全く外に出してない」
生命力のパラメータの数値はほぼゼロに近く、もうすでに心臓の音が止まりそうだと言うのに、まるでそれを感じさせない立ち振る舞いをしている。
普通ならば意識が混濁して、譫言を言っていてもおかしくない状態だと言うのに、虚勢を張るためにここまで気張れるのが凄まじい。
「全く王子を呪われた者などという難癖をつけた挙げ句、馬車を用意することを拒否し、学外にある納屋におしこめようとするとはとんでもない国だ! 本国に帰ったら目に物を見せてくれる!」
先頭を行く、2m超はありそうな赤髪の大男が憤懣やるかたないと言った感じで、青筋を浮かべながら怒鳴ると、周りの市民が怯えたように道を開けて行く。
かなりやばい事態かもしれない。
もうすでに隣国の使者のこの国に対するヘイトは最高潮になっているというのに、もし王子が死にましたとなったら確実に隣国との戦争が始まることは想像に難くない。
そうなれば、隣国と接している私の実家ーールナリア家の領地にある茶畑も焼け野原になることは必定だろう。
私はこの学校を卒業した後は、ルナリア男爵領の茶畑を発展させることに余生を心に決めているのだ。
このままでは私の人生設計はめちゃくちゃだ。
王子のあの完璧な痩せ我慢ぷりから、王子やばくね!?となって気づく神聖術師がいるわけもないし、おそらく気づいても信心深い者が多いので呪いを嫌って、王子に近づく可能性も低い。
「他人頼りだと詰むな」
ーーー
自分の運命は自分で切り拓かなければならない。
今日ほどそう感じたことはない。
「王子を納屋に置いたら、馬車確保に散り散りになってくれたから暁光だったな」
中級神聖術であるライトニングレイーー光で出来た剣を指先で発動させて、納屋の錠を壊し、中に入る。
流石に人目のない場所では去勢を張っていない様で、急造で作られた藁のベッドに横たわっていた。
血色のない顔が窓から指す月光に照らされて青白く見えるが、鑑定で見る限り、まだ命はあるようだ。
「神聖術師としての力は久しぶりに使うけど上手く使えるかな」
最後に神聖術を使ってから10年近く経つので若干不安があるが、前世の聖女時代に30年近く積んだ経験を信じよう。
「まあ、心臓近くの血管に詰まってる魔石を取るだけだから簡単な物だけど」
まず痛み止めのために、口に含むと魂が飛ぶほど気持ちよくなるタイマー草を溶かした水ーー本家本元の聖水を微量王子の口に含ませる。
飲ませすぎると全身の筋肉が弛緩し、脳みそが破壊されるので、飲ませる時は細心の注意が必要だ。
鑑定で見ているが、赤く表示されている患部は心臓近くの魔石が詰まっているだけなので、とりあえずは大丈夫だろう。
下準備は整ったので、血管内で結晶化してしまった魔力ーー魔石の除去に入る。
上級神聖術、クリエイト・セイグリッドで、手のひらに神聖力で構成した青白いメスを形作ると、上半身の服を左手で捲り、右手のメスを患部の上にある皮膚に入れる。
続けて開いた切り口を初級神聖術、結界作成で作った四つの小さな結界で固定する。
後は血管を開いて、魔石を取り出すだけだ。
「う」
すると王子の口から呻きが漏れた。
聖水の効きがあまり良くないせいで、痛みからくるものかと思ったが顔には苦悶は出ておらず、穏やかな状態だった。
神聖術を発動する際に、体からでる聖光が眩しくて、意識を撫ぜたといったところだろう。
治療中はよくあることだ。
そのまま続行して、血管にメスを入れると、切り口を結界で固定し、メスをピンセットに変化させて緋色の魔石を取り出した。
歪なダイヤモンドを形をしており、鋭角な部分が多いため、日頃かなり傷んでいたことは想像に難くない。
魔石を脇に奥と心臓の血管ということで出血も多いため、結界を解除して、祈りを姿勢を取ると初級神聖術ヒールで切り口を塞ぐ。
鑑定を使い、もう一度王子を見ると、患部の赤い部分が消え、パラメータも平均的な値に戻っていた。
治療完了だ。
ヒールで体力も回復しているので、目を覚ませばすぐに動けるようになるだろう。
王子が目を覚さないうちに、早く立ち去ろう。
追い剥ぎと勘違いされたくはない。
ーーー
瞼に青白い光を感じて、隣国の王子ことヴィンスライブ王国第一王子ジーク・フォン・ヴィンスライブは微かに目を開く。
ジークの意思に反して、瞼は重く満足には持ち上がらない。
夢と現実が半々になっているような判然としない意識の中で納屋に辿り着いた瞬間に、胸の苦しみと痛みから意識を手放したことを思い出す。
ここは死後の世界か?
一瞬、意識を飛ばす前に味わった痛みの壮絶さから疑問が生まれるが、何かが肌を撫ぜる感覚と素早く動く手がそれを否定した。
死んでいるのならばこうして何かを感じることはないはずだ。
何をしているのかとぼんやりと眺めていると、ジークの瞳に緋色の魔石が取り出されるのが見えた。
それと同時に胸の中につっかえていたものが取れたような感覚を感じ、目の前の人物が祈りを姿勢をとっていることが見えた時、自分を治療されていたことに気づいた。
聖女に見放されて、呪い持ちの烙印まで押された自分が誰かに手を差し伸べられるとはジークは思いもしていなかった。
ジークの凍えた心に温かみが生じると、周りに青白い聖光が輝く。
ジークの瞼が持ち上がるのならば、目を見開くような光景だった。
なぜならその色の聖光を生じさせることができるのは、伝説上に存在し、現在神として崇められる初代聖女だけだからだ。
通常の緑色の聖光を見間違えているのではないかと思うが、漂う青白い残光がそれを否定した。
間違いなく目の前の人物は初代聖女だ。
万全に回復した体が失った体力と気力を取り戻すために、瞼を閉じさせようとするのに、抗い、一瞬だけ拮抗させると立ち去る後ろ姿だけが見えた。
艶やかな黒髪と聖プリシアーナ学園の制服であることを確認すると、再びジークの意識は微睡の向こう側に深く沈んでいった。
ーーー
「ティアぁぁ……!」
寮に帰ると髪を逆立てて、オーガのような形相になったキャンディがいた。
そういえば、キャンディにお使いを頼んだまま、ほったらかしにしていたのだった。
「キャン、ごめん、ちょっと学校に忘れ物をして」
「嘘をつきなさいよ! 上物の香水の匂いがする! どこの男を引っ掛けてきたのよ、この浮気者を!!」
完全に冤罪だ。
「いや、ちょっと面白いものを行商が売ってるて言って、偶々一緒にいた紳士の匂いが移っただけだって。ほら、いいもの見してあげるから目を閉じて」
「ティアは人たらしだから信用できないんだけどなあ」
キャンディは胡散臭そうな顔をしながらも、興味が湧いたのか目を閉じた。
いまだ。
部屋の明かりを消し、中級神聖術エクスヒールを使って部屋の全域に青白い聖光で満たす。
「開けていいよ」
「わあ! 綺麗! なに、これ!」
キャンディはお気に召したようで、目を輝かして歓声を上げる。
「月光のかけら」
実際のところは聖女の体質で魔が弾かれ、月光の魔力が周囲に解けているだけだが、それっぽい商品名を捏造する。
「行商が次回ってきたらまた買ってよ! これ、いくらだったの?」
「仕送り一ヶ月分。奮発しちゃった……」
「ティア、あたし誤解してたよ。あたしにこれを見せるためにそこまでしてくれるなんて」
キャンディは感極まったようで、目頭を押さえて、鼻を啜る。
少し罪悪感が湧いたが、関係修復のためにはしょうがないと割り切り、良く眠れるお茶を作ったり、至れり尽くせりしてキャンディの機嫌を直した。
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「すごいよ! ティア! あの王子様、あれから呪いが消えて、しかもこっちに留学しにくるんだって!」
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