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宴
しおりを挟む家に帰るとご馳走が並んでいた。
ヴィラン伯爵領では、畜産や農業が盛んなので、食卓は彩りのいいものになることが多いが、今日はいつにもまして華やかな上、近隣住民も来ている。
「食材を取り寄せるのがまだだっため、クリアの帰還を祝えてなかったものを今日執り行う! 今日は無事にマリスが戻ってきた上、この領地に新たな領民が増えることになっためでたい日でもある! 貴様ら! 宴だ!」
「「おおおおお!!」」
母上が音頭を取ると、周りに集まった領民たちが祝杯をあげる。
ただで美味い飯を食えるということで皆、上機嫌そうだ。
各々飲んだり、食ったり、踊ったりし始める。
「坊っちゃん! 活躍聞いたぜ! 最高だったてな!」
「ふん、当たり前だ! ポポル、貴様のチーズも最高だ! 王都の奴らに渡らんようにこの領地で全て平らげてやる!」
「そりゃ、賛成だな! 若!」
「参ったぜ! このポポル様がここで朽ち果てちまう! 最高だな! ガハハハ!」
「ポポルのチーズに乾杯!」
「もう開けてんだろうがい! アホども!」
チーズが美味いと伝えてやると、さらに酒を注ぐペースを早くして、盛り上がり始めた。
これからどんどん早くなるので、終わる頃にはビール腹確定だろう。
「坊っちゃん、助かりました! うちのマリスを見つけってもらってなんて言ったらいいか」
「ジャックか。マリスはモンスターに絡まれやすいから気にかけてやれ」
「わかりました。四六時中マリスから目を離しません」
「親バカ。やりすぎだ。外出中だけにしてやれ」
「くっ! 致し方ありませんね!」
ジャックは悔しそうな顔をすると、酒を煽る。
ジャックは一人娘を溺愛してるので、娘を構うことに変に大義名分を与えると心配になってくる。
ちびまる子ちゃんのタマちゃんのお父さんみたいな奴だからな。
娘の嫌がることはしないと思うが。
行軍中は塩辛い干し肉しか食えなかったこともあり、野菜に飢えていたので、サラダがよそってあるテーブルに行くと、アナベルとユノがいた。
「どうだ調子は?」
「はい、元気です!」
「私も元気」
調子を尋ねると、口の端にソースをつけたアナベルが尻尾を振りながら快活に答え、ユノが物欲しそうな目で尻尾を見つめながら答えた。
尻尾が気になるようだ。
子供にとって動物の尻尾の魔力は抗いがたいものだからな。
「きゃっ!」
そう思っているとやはり理性に逆らえなかったのか、ユノが尻尾を掴み、アナベルが飛び跳ねた。
「ごめん」
「……い、いいですよ。触っても。いきなりで驚いただけですから」
ユノが謝ると、アナベルが赤面しながら、許可を出し、ユノが尻尾を揉みくちゃにし始めた。
アナベルが「そ、そんなには……!」と言いつつ、身悶えし始めた。
今まで冷遇されていたせいで、人肌に飢えていたのか、言葉とは裏腹に満更でもなさそうな顔をしている。
サラダを取ると若干蒸すような感じがした。
人々の熱気が籠ってきたような感じがするし、一度庭に出ようかと思うとちょうど庭からやってきた。
マリスと目が合い、彼女は微笑むと俺の手を取って、手を引き始めた。
「今日はありがとう! ちゃんと顔を合わせて言いたかったんだ!」
庭に出て、月光に反射して魔力を纏っている羽を晒すと、無邪気にそう言ってくる。
俺だったら無視した奴に話しかけるようなことはしないが、性格が良いらしい。
ここまでされて無下にするのも年甲斐がないようでいい気はしないし、ちゃんと接してやった方がいいだろう。
それにストーリーフラグをいちいち気にすぎるのも、精神的にしんどい。
立っているのを発見したら即破壊くらいが精神の負担的にちょうどいいだろう。
「律儀な奴だな。 その律儀さを父上にも使ってやれ。お前が何も告げずに行くものだからてんてこ舞いだ」
「ああ、ごめん。なんだか森から声が聞こえてきた気がして、飛び出してちゃって」
「ほう、森から声か。微精霊に呼ばれたのかもしれんな。お前は他の奴とは違うからな」
「ああ、私は羽があるからね。変だよね」
「バカモノが! 自分に持っている物を否定するな! ヴィラン伯爵家の旗に貴様の羽を刻まれたいか!」
「それは自慢の羽でも嫌だよ」
「ふん、ならば自分が人と違うことに誇りを持て」
「ありがとう。お礼にご飯持ってきてあげるね!」
マリスはそう言うと、羽を広げて、庭から宴会場に向けて駆けていく。
『マスター、この生産性のない宴という行為を愚かだと思う一方で、他の愚かな行為と違い演算が肯定的な評価を叩き出しています。なぜでしょうか?』
「人を一切傷つけてないからだろう」
『人が肉体的精神的に傷つかないこと。大きくプラスであることだと認識しました。演算に加えます』
デマキが演算を補強すると、2人分の料理を持ったマリスが戻ってきた。
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