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それって惚気話?
しおりを挟むわいわいと騒がしい居酒屋は私達三人の行きつけだ。店員に案内され、腰を下ろす。
各々酒とおつまみを頼むと、深い溜め息が聞こえた。伏し目がちに溜め息を吐くのは同僚の裕也だ。今回の飲み会は、私と聡が同僚のよしみで彼の愚痴という名の惚気話を聞く会となっている。
「彼女、ツンデレでさあ……。そんなところも可愛いけど、もう少し素直になってほしいと思うんだよね」
長い睫毛に縁取られた瞳に影が差す。女の私よりも長い睫毛は正直言って羨ましい。
「どんなところがツンデレなんだ?」
興味本位に聡が訊くと、裕也は嬉々として喋りだした。
「僕が彼女を抱きしめると、恥ずかしがりながら止めてって言うんだ」
彼女は恥ずかしがり屋ということなのだろうか。裕也は同僚の私から見ても容姿端麗で、彼に抱きしめられたら赤面してしまうのも無理はないと思う。
「それは可愛いな」
「聡なんかには渡さないからね」
間髪入れずに裕也が牽制する。よほど彼女を奪われたくないのだろうか。
「なんか、って酷くないか?!」
聡がすかさず突っ込みを入れるが、私は見逃さなかった。聡の言葉に裕也の眼光が鋭くなり、聡を睨みつけたのを。
「それ以外には?」
これ以上同じ話題を続けると裕也の地雷を踏んでしまいそうな気がする。私がさり気なく話を逸らすと、裕也は口角を上げて再び喋り始めた。
「ちゅーしようとするといつも逃げちゃうんだよね」
「……時々じゃなくて、いつも?」
「そうなんだ。もうやめて、なんて言うけど素直じゃないよね。ほんと、ツンデレさんで困っちゃうよ」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。裕也は変わらない様子で、ハイボールを一口飲む。
「それ、本当にツンデレなのか……?」
異常をようやく察知したのか、聡は首を傾げた。
「聡は漫画に疎いからなあ。ツンデレが何だか分かってないんだよ。ほら、よく言うでしょ。いやよいやよも好きのうちって」
「それは、聞いたことあるけど……」
聡は漫画を読まない。アニメも見ることはなく、専らドラマばかり見ている。漫画に疎いのは事実なので、裕也にそう言われてしまえば聡にはなす術がない。だが、生憎私は漫画やアニメだけでなく、ドラマも嗜むオタクだ。そこで得た知識を総動員した結果、私は裕也に対して思うことがあった。
「裕也ってさ、愛が重いとか言われたことない?」
私は思い切って聞いてみることにした。私の言葉に、裕也は驚いた顔をする。
「よく分かったね。前の彼女にそう言われて逃げられちゃったんだよ。でも今回は違う。彼女は僕の運命の人なんだ」
うっとりとした顔で彼女を想う裕也に、私は確信した。
彼女はツンデレなのではなく、裕也がヤンデレなのだと。
つづく?
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