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あなたは私のもの
しおりを挟む私にはとても仲の良い友人がいる。とても可愛いのに、それをひけらかす訳ではなく優しく明るくて、私の自慢の友人だ。しかし最近、友人との付き合いが減った。私が遊びに誘っても何かと理由をつけて断られるのだ。彼氏に至っては連絡先をブロックされたのか、何度連絡しても返信すらも来ない。私は彼らの気分を害するようなことをしてしまったのだろうか。心当たりは全くないので、どうすることもできず途方に暮れていた。溜め息をついて、スマートフォンの画面を見つめていると、窓から何かが入って来るのに気が付いた。虫だろうか。虫なら早く外に出さないと。窓の方に目をやると、『何か』が虫ではないことに気が付いた。『何か』とは、小さな人間のような生き物だった。
ひらひらと舞うように踊るように飛ぶ小さな人間。私は一目見て心を奪われた。腰まである銀色の髪に、サファイアのような青い瞳。服装は、花や葉で作られた簡易的なワンピースのよう。背中には蝶のような、ガラス細工をイメージさせる不思議な羽が生えていた。笑みを浮かべてふわふわと飛ぶ姿はファンタジーによく出てくる妖精のようだった。机に置いた本の上で腰を下ろした妖精を私はじっと見つめる。その時、妖精と目が合ってしまった。美しい瞳に、ごくりと唾を飲み込む。
「……!」
「ちょ、ちょっと待って」
そんな私の様子に気付いた妖精が驚いて逃げようとするのを、私は努めて優しい声色で引き留める。妖精は私の声に恐る恐るといった調子で振り返る。
「……な、なんですか」
「あなたは、その……妖精さん?」
「……そうです」
「とっても美しくて、つい見とれていたの。ごめんなさい。危害を加えるつもりはないの。ただ、その……お友達に、なってほしいなって思って」
照れながら私が言うと、妖精は花のように可憐な笑顔を咲かせた。
「なんだ、そういうことならいいですよ!お友達になりましょう!」
私は妖精さん、フィルとたくさんお話をした。彼女の住んでいた妖精界は色とりどりの花が咲き誇る花園のようだ。ほとんどの妖精は花の蜜を貰って生活をしているらしい。彼女のように一部の好奇心旺盛な妖精は人間界に遊びに行くこともあるようだ。
「私、貴女みたいに素敵な人間がいるとは思いませんでした」
フィルは私が用意したクッキーの欠片を口に運びながら、満面の笑みを向けた。
数日間彼女と過ごす中で、彼女の芸術品のような美しさに、私はすっかり心を掴まれていた。そんな日々に終わりが近づいていた。彼女は明日、妖精界に帰ると言う。私の心はグラグラと揺れていた。彼女を、妖精界に帰したくない。エゴでしかない感情をぶつけたら、彼女は驚いて逃げてしまうだろう。けれど、もう二度と彼女に会えないと思ったら、私はこの先耐えられない。私は開けていた窓を閉めた。
「……窓、どうして閉めるんですか?」
不思議そうな顔で訊くフィルに、私は笑いかける。
「ちょっと肌寒くて」
「なんだ、そうだったんですね」
フィルは私の意図に気付くことなく、お喋りを続ける。そうやって気まぐれに笑って話して、最後には私を置いて消えてしまうんだ。悲しみは次第に苛立ちへと姿を変えてしまった。妖精界になんて、帰らせるものか。芽生えた独占欲はもう止まらなかった。私は彼女の羽をそっとつまんだ。初めて触れた羽は、力を入れたら壊れてしまいそうなほど薄い。なのに、驚いた彼女は身体をばたつかせる。
「ちょ、ちょっと?!何をするんですか?!」
「そんなに暴れたら、貴女の羽を傷付いてしまうわ」
「……!」
「羽がなければ飛べないわね?」
「そ、それだけは……!」
顔を青くさせたフィルは、抵抗を止めた。
「貴女が利口で良かったわ」
私は瓶を取り出す。キャンディー入れとして使っていたお気に入りの瓶だ。瓶を逆さにして中身を取り出す。机に散らばるキャンディーの極彩色。空になった瓶の中に彼女を入れて蓋をした。
「お願い!ここから出して!!」
内側から、小さな手で瓶を叩くがびくともしない。彼女の悲痛な声も美しく、私は罪悪感も忘れて彼女の声に聴き入っていた。
彼女の独占欲に濡れた眼差し。小さな檻の中で声を上げる私は、行動とは真逆の感情に酔いしれていました。彼女が、私だけを見ているのです!こんなに嬉しいことがあるでしょうか。少々面倒でしたが、彼女を孤立させるよう準備してきて本当に良かったです。机に散らばるキャンディーはあの忌々しい人間が与えた物ですよね。カレシ、と言っていたでしょうか。それをぶちまけてまで私を欲しいと思ったのですね。嬉しくて嬉しくて涙が出そうです。
どうやら彼女は私を女だと勘違いしているようですが、それは違います。私は男で、妖精界の王子なのです。お忍びで人間界へ散歩していた私の心を奪った彼女の罪は重く、決して許されることではありません。ですが私は心の広い男です。彼女が私だけを見ているというのならば許して差し上げます。だから未来永劫私だけを見て、決して目を逸らさないでくださいね。でないと私、何をしてしまうのか自分でも分かりませんから。
Fin.
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