シロツメグサの花輪

柊原 ゆず

文字の大きさ
上 下
1 / 1

シロツメグサの花輪

しおりを挟む

「おにーちゃん、みてみて!」

 僕の作った花輪を頭に乗せて笑う妹の琴は花の精のように可憐で汚れがない。

「かわいい?」

 あどけない笑顔で首を傾げる姿に、僕まで笑みがこぼれてしまう。僕は琴の頭を優しく撫でた。

「ああ、とっても似合っているよ」

 僕の言葉に、琴は嬉しそうに飛び跳ねる。その可愛さと言ったら筆舌につくしがたいほど尊い。僕はその尊さを残しておきたくて、カメラで彼女を収めていく。
 いつか、彼女は大人になってしまう。成長の途中で傷付いてふさぎ込んでしまうことがあるかもしれない。そうならないように、妹の笑顔が翳ることのないように、僕が守ってあげないと。僕はあどけない笑顔を見つめて心に誓うのだった。





 私の兄は過保護だ。十ほど歳の離れた兄は、どんなに忙しくても通学の時には必ず付き添ってくれたし、お弁当も作ってくれた。普通は母親が作るんじゃないの?という友人の疑問に、初めてこれは少しおかしいのかなと気が付いた。後日、母親に聞いてみると、兄が作りたいと言い出したのだと言っていた。けれど兄に直接聞くのは気まずくてできず、私は結局高校を卒業するまで兄にお弁当を作らせてしまっていた。
 大学生になり、お酒を飲めるようになってから、兄は少し変わった。飲み会の後、必ず迎えに来るようになった。兄に連絡した覚えはない飲み会の時でもそれは変わらなかった。

「琴ちゃんのお兄さん、ちょっと怖いよ」

 友人の言葉に、兄は過保護の域を超えているとようやく理解した。私は兄に内緒で、就職活動を始めた。実家から遠く離れた場所にある勤め先。そこならば、過保護の兄と離れられるだろう。
 私は大学を卒業してすぐに家を出た。荷造りをしたら気付かれると思ったので、身一つで電車に乗った。兄は最後まで気付くことなく、私が家を出る時も普段と変わりない声で見送ってくれた。





 土地勘のない場所での生活は想像以上に大変だった。新社会人としての疲労も加わり、休日は専ら寝てばかりの怠惰な生活を送っていた。
 ピンポーン、とインターホンの音が鳴った。宅急便は頼んでないし、友人との予定もない。不思議に思い、インターホンの画面を見て、私は小さく悲鳴を上げた。

「な……なんで……」

 そこには、兄がいた。兄はニコニコと笑みを浮かべて、インターホンを見つめている。

「水臭いじゃないか、琴。お兄ちゃんに引っ越しのことを言わないなんて。お兄ちゃん、寂しかったよ」
「ど、どうして……?!」
「僕は琴のお兄ちゃんだよ?琴の考えてることは手に取るように分かるんだ」

 兄の優しい声は普段と変わらない。それが何よりも怖い。

「いつまでもお兄ちゃんに頼るのは忍びないと思ったんだろう?琴は優しい子だからね。でも、お兄ちゃんに頼っていいんだよ。お兄ちゃんはいつでも琴の味方だからね」

 だから、ここを開けて。
 インターホンの音が何度も何度も部屋に響く。兄はきっと、怒っているのだ。優しい声はそのままでも、目が冷え冷えとしている。私は耳を塞いだ。どうか夢であってくれ、と願いながら。

Fin.
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】

階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、 屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話 _________________________________ 【登場人物】 ・アオイ 昨日初彼氏ができた。 初デートの後、そのまま監禁される。 面食い。 ・ヒナタ アオイの彼氏。 お金持ちでイケメン。 アオイを自身の屋敷に監禁する。 ・カイト 泥棒。 ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。 アオイに協力する。 _________________________________ 【あらすじ】 彼氏との初デートを楽しんだアオイ。 彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。 目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。 色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。 だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。 ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。 果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!? _________________________________ 7話くらいで終わらせます。 短いです。 途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

飲みに誘った後輩は、今僕のベッドの上にいる

ヘロディア
恋愛
会社の後輩の女子と飲みに行った主人公。しかし、彼女は泥酔してしまう。 頼まれて仕方なく家に連れていったのだが、後輩はベッドの上に…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

【R18】タイムマシーン

名乃坂
恋愛
ヤンデレ男に監禁されたヒロインが、ヤンデレ男に未来の自分を見せさせられるところから始まるヤンデレSSです。 無理矢理表現が含まれます。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...