虹色の君を僕に見せて

柊原 ゆず

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虹色の君を僕に見せて

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「虹って、人間の視界が捉えることのできる色相の幅をほぼ全て網羅してるんだって!」

 テレビか何かで聞きかじったのだろうか。男は興奮気味に私に話しかけてきた。

「赤、橙、黄、緑、青、藍、青紫。覚えるのに苦労したけど、この七色が並んでいるらしい!」

 男は指を折りながら色の名前を羅列する。覚えたから、なんだ。それが一体何になるというのか。私は苛立ちながらも、成すすべなく彼の話に耳を傾けていた。

「色は人間の気持ちとリンクしていて、だからこそ虹を見ると人間は全ての感情が刺激されるみたい」

 赤には情熱や活力の一方で怒りも刺激される、といった具合にね。男は得意げにそう付け加える。彼は私をまっすぐに捉え、指の腹で私の目から零れる涙を拭う。

「僕はね、君が抱く感情の全てが見たいんだ。悲しみだけでなく、喜びや怒り、全てを僕に見せて」
「……なら、私を地球に帰してよ」

 青い惑星の周りをゆっくりと動いている宇宙船。宇宙船が地球の周りを動き始めてから、どれくらい月日が経ったのだろうか。今はもう分からない。ゆったりと動く雲だけが時の流れを私に知らせてくれている。今日は厚い雲が覆われており、地球を覗くことはできない。雨でも降っているのだろうか。
 私の言葉に、男は口を開けた。何本も腕の生えた、身体の大きな異形の地球外生命体。顔から表情は読み取れない。

「……故郷を離れても寂しくないようにと思って地球の周りを遊泳していたけど、帰りたくなるなら仕方ないね。僕の星に戻ろうか」
「……!待って、待ってよ!帰りたいなんて、もう思わないから!」

 男にしがみついて懇願しようにも、手首と足首を拘束されていて叶わない。私の声に、男は大きな口を吊り上げた。

「それは、焦りという感情だね。興奮もしているようだから、色は赤かな?君の感情の揺らぎが見れて、とても嬉しいよ」

 宇宙船が地球から遠ざかってゆく。光が失われてゆくような心地で、私は必死に叫んだ。

「お、お願い!何でも、何でもするから!お願いだから、戻って……!!」

 私の声に、宇宙船が止まった。

「恐怖の感情だね。色は黒だ」

 再び地球が見えてくる。男にとってこのやりとりは遊びのようなものだろう。私にとっては命がけのやりとりなのに。どうすることもできない力の差が、私を絶望に突き落とす。お願い、誰か助けて……。心の叫びは、誰にも届くことはない。宇宙船は何もなかったかのように地球の周りを遊泳している。

つづく?
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