今度こそ

第三話 開花する異常性

　シャルルとの二人旅が始まった。どうやらシャルルは、旅の道中に魔物退治をすることでアカデミーを納得させたようだ。街の外には魔物が出現することがあり、シャルルは剣と魔法を駆使して魔物と戦った。私はというと、出番がなかった。シャルルが怪我を負うことは少なかったからだ。いち早く魔物を見つけ、急所を狙って倒してゆく。その様子は、駆除という言葉がピッタリであった。
　早速旅のお荷物になってしまう私であった。何か役に立ちたいと、街の医者を訪ね手伝うことにした。けれどその夜、シャルルが苛立った様子で迎えに来たのだ。

「ねえ、僕が言ったこと忘れたの？」
「部屋で待っててほしい、だよね。でも……」
「覚えてるなら、どうして僕との約束破ったの？僕のことはどうでもいいってこと？」
「そういうことじゃないって！私も人の役に立ちたいと思ったの！」
「……ルエットは、優しいね」
「そういうわけじゃないけど……」

　シャルルはそのまま部屋を出てしまった。何故シャルルが怒ったのか理解できず、私は悶々とした気分で眠りに落ちた。





　シャルルの様子がおかしい。私は徐々にそう感じるようになった。
　まず、私が他の人と話すのを嫌がった。それでも話さなければならない時は必ず傍にいる。幼い頃に離れたことがトラウマになってしまったのだろうか。シャルルはほとんどの時間を私と過ごした。
　それから、旅の道中に私が魔物に襲われた時。シャルルは魔物をあらゆる魔法で苦しめ葬り去った。いつもの『駆除』とは違う残虐さに、私は目を覆った。そうすると、彼は心配そうな顔で駆け寄って声をかけるのだ。

「大丈夫？怖かったよね」

　魔物よりも血まみれのシャルルの方が怖いとは言えなかった。





　旅を始めてどれくらい月日が経っただろうか。
　シャルルの逆鱗に触れるのが怖くて、私は彼の言う通り、宿で彼を待つことが増えた。彼と一緒にいるのが苦痛になっていく私とは対照的に、彼は笑顔が増えた。

「ルエット、好きだよ。愛してる」

　いつの間にか、愛の言葉を聞くようになった。拒絶できないのを肯定だと捉えた彼は、毎晩愛を囁いた。
　とても穏やかな声が鼓膜を揺らし、大きく筋張った手が優しく頬を撫でる。笑みを浮かべ、細めた目の奥に闇が広がっている。重ねられた唇は柔らかく熱を持っているようだ。私は身を固くして、目を閉じた。早く、終わりますように。そう祈りを込めて。

つづく